月刊福祉 1999年3月号 (1999年2月6日発行)より転載

【ほんだな】

プロップ・ステーションの挑戦  「チャレンジド」が社会を変える

著=竹中ナミ  発行=筑摩書房  定価=1810円(税別)、46判、250頁

TEL 048-651-0053

評者 ルーテル学院大学教授 清原 慶子

本書の帯には、「これは、コンピュータとインターネットを使った、社会の新しい可能性だ」というマイクロソフト社社長の成毛真さんの言葉が刻まれている。障害者を「神から挑戦すべき事を与えられた人々」として「チャレンジド」と呼び、「チャレンジドを納税者に」をキャッチフレーズに、コンピュータとネットワークを活用し、「チャレンジド」のコミュニケーションと自立に活かすための活動をしてきた竹中ナミさんの、これまでと今についての書である。

ナミさんは、ふたりめのお子さんの麻紀さんが重症心身障害をともなって生まれたことで初めて「チャレンジド」に出会った。麻紀さんの場合は就労の可能性を口にすることはむずかしいほどの症状だったが、ナミさんは、むしろそのことが彼女を解放し、レールの上を歩くのではない自分自身の生き方を模索することになったという。手話通訳にはじまり、多くの団体活動に参加して、麻紀さんが養護学校に行っている時間に実施した年長児の介助やおもちゃライブラリー活動等を経て、「チャレンジド」もできるだけ自立して自己実現することが重要であることを強く認識したという。さらに西宮の地域のパソコン通信との出会いが、NPO団体としてのプロップ・ステーションの発足につがっていった。それが「チャレンジド」へのパソコン講習とその技術を活かす就労支援の活動のはじまりだった。だが、それは1990年から1991年のあのバブルの崩壊の兆しが見えた頃のことだった。

「コンピュータを使える障害者は金の卵」という期待も、バブル崩壊とともにしぼむしかなかったが、そのときからが、むしろプロップ・ステーションの本当の挑戦の開始であった。

最後の対談で慶應義塾大学の金子郁容さんは、ナミさんは「リスクを率先して背負っているから、助けてくれる人も現れる」と評価しているが、実は、プロップの活動に対しては、日常的活動はもちろんのこと、96年から開始されたプロップのビジョンを広げようとする講演会を企画実行する「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」の活動にも、私のような大学研究者のみならず、官僚や自治体の首長・職員、企業の人びとがボランタリーで参加している。その秘密は本書でのナミさんが語る多様なエピソードやそれらにまつわる真情の吐露に明らかにされている。

私は、95年度に開催された郵政省の障害者の社会参加を支援する情報通信に関する懇談会で出会って以来、ナミさんの人間的魅力と彼女が体現する時代精神とでも呼べる理念に賛同して協力しているが、本書は私たち障害者福祉に関する意識改革への挑戦を決心させる力をもつと評価する。

なお、「チャレンジド」(*)と題するビデオも制作されており、文部省の選定を受けている。

(きよはら けいこ)

※ 上記の内容に関するドキュメンタリービデオ「Challenged」は、定価10,000円(税込)。67分。

   問い合わせは地域活性化研究所 (TEL 03-5251-0155)まで。

ページの先頭へ戻る