読売新聞 1999年2月1日 より転載

【本棚から】

行動で「常識」覆す

竹中 ナミ著「プロップ・ステーションの挑戦」(筑摩書房)

(住友電気工業会長・川上 哲郎)

「世の中には、こんな素晴らしいリーダーとそれを支える人たちがいる!」というのが率直な読後感であったが、著者と会い、話を交わして一段とその感を深くした。「障害者(チャレンジド)を納税者に」のキーワードを胸に、前向きの「ダメもと」精神で連日関係先をかけ廻りプロップ(支援者)を増やしている。著者は実践を通じて心理を体得し世の誤った常識を覆していく。
まずその主張に耳を貸そう。「市民活動家には、私達は世のため人のために正しいことをやっているのだから行政や企業は当然支援すべき」という人が多い。しかし、その活動が正しいか否かは、他人が判断すること。「私の場合はやりたくてやっているのだから税金や援助の支出がなくて当たり前」が出発点。自分が思いこむのではなく、いかに多くの人にそう思ってもらえるかに賭けている、という。
また、役所とのつき合い方にしても、縦割り組織、前例や減点主義を理解した上で、問題意識を共有してくれる人を見つけて、その人の仕事に役立つような新しい情報やアイデアを提供し、ツボを押さえて共に問題の解決を図っていると。
1972年、彼女は重症心身障害者の娘を産み、2人の子供を育てながら人生のあらゆる困難に挑戦、克服しつつ自身の人生哲学をつくり上げ、それを実践していく。
そこが真空の高所からただ説教し他を非難するだけの無責任な学者、評論家との大きな違いである。
彼女の説得力、実行力は、パソコンからインターネットと結びつき、時代の最先端をいく情報ネットワーク事業を立ち上げ、SOHO(在宅)事業をスタートしている。その豊かな発想は、このチャレンジドの仕事こそ高齢社会の先達であり水先案内人として新しい地域連帯社会の構築に連なり、現実に先進地方自治体の政策として取り上げられ始めた。
筆者もチャレンジドの新しい職場づくりを企画しているが、その実現の折には本書の続編が刊行されることを願っている。

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