朝日新聞 1998年12月22日より転載

大量国債景気に水?

21日にまとまった一般会計総額81兆円余の来年度予算の大蔵原案について、主要な民間経済研究機関は「一定の公的需要は期待できるが、内容は予想通りで織り込み済み」などとして、これまでの「来年度もマイナス成長」とする見通しをかえていない。また、国債が大量発行されると、長期金利が上昇する恐れがあり、景気回復の足を引っ張りかねないと懸念する見方も出ている。

来年度、2.2%のマイナス成長を見込んでいる大和総研は「減税をしても、将来への不安などから企業の投資も消費も当面は増えない」(鈴木準・経済調査部主任研究員)と、民需の低迷がなお景気の足を引っ張る、との見方だ。

一方、財政赤字を覚悟で景気回復を最優先した予算に対して厳しい見方もある。マイナス0.6%を予想する日本総合研究所は、「国債の大量発行で長期金利が上昇し、企業の資金調達コストが上昇するようだと、景気に水を差しかねない」(高橋進・調査部長)と、積極財政の弊害を懸念している。

民間機関・識者の見方は…

経済大国復活型の予算


経済評論家
内橋克人さん

時代の流れにそぐわない経済大国復活型の予算案のようにみえる。

例えば、バブル崩壊後の住宅促進策で家を建てた世帯は今、平均2千万円の含み損を抱えているといわれる。その人たちへの手当ても乏しく、再び新たに家を建てさせることに力点が置かれている。

目先の景気対策で公共事業を膨張させた結果が国債の大量発行。国民の不安感を高めるだけで、金利の上昇につながれば景気にも中長期的にマイナスに働く。

デンマークでは、風力発電を基幹産業に育て、環境を改善しながら雇用や輸出を拡大させている。日本も本当の意味での生活大国づくりに取り組むべきだ。

お付き合いもう限界に


北海道ニセコ町
逢坂誠二町長

町内でも下水道や街並み整備事業が上積みされれば、波及効果はあるだろうが、町財政で付き合うにも限界に近づいている。医療、福祉分野でも、地元負担が増えていて不安がある。政府は目指すべき将来像を示し、その中で来年度予算をどう位置づけるか、明確にしてほしい。

農業振興策を打ち出す場合、商工、観光面からも総合的に立案しなくてはならず、農水省の予算枠だけではうまく対応できない。毎年の補助申請に追われていると、住民参加でじっくり政策原案を作るなど、長期的な取り組みができない。行政の仕組み自体を変える、目に見えない投資が必要な時期ではないか。

行政にも「変化の胎動」


社会福祉法人理事長
竹中ナミさん

障害者福祉といえば、縦割り行政の下でハコもの整備が重視されがちだった。

だが、今年度の第三次補正予算にはパソコンを使った在宅就労への支援策が盛り込まれた。来年度予算案には知的障害者を対象に厚生、労働両省が連携した事業が計上されている。行政にも「変化の胎動」を感じる。

私たちは「挑戦者精神を失わない人」という意味を込めて、障害者を「チャレンジド」と呼んでいる。

高齢社会は、フルタイムで残業もいとわないという人が少なくなる時代。その中でチャレンジドや高齢者が身の丈に合わせて働ける環境を整えていくことが大切だ。

「ヤンキース」買ったら


演出家
テリー伊藤さん

宮沢さんは巨額の財政出動を「大魔神を登板させるようなもの」と言ったが、どうせお金を使うなら、政府が大リーグのニューヨーク・ヤンキースを買えばいい。中田のいるペルージャでもいい。日本に呼べば、客が押し寄せ、消費への波及効果も見込めるはずだ。

公共事業をやっても、ゼネコンがもうかるだけで、後で維持費がかかってつらい思いをするのは国民だ。価値観は5年、10年で変わる。東京都でも年間維持費に40億円もかかる施設がある。その点、スポーツチームならいらなくなれば、さっさと売れば済む。

道路や橋を増やすのも疑問だ。渋滞とか地球環境を考えたら、トラックより船の出番だ。

処方せん間違えている


野村総合研究所
宮田俊基研究理事

歳出、税制の両面で、ばらまき予算で、処方せんを間違えている。科学技術の研究開発などに手厚く配分し、研究機関の成果が企業に移転していく仕組みづくりなどに税金を投入すべきだった。効率的な予算配分でなければ意味がない。

バブル崩壊後から、ばらまきを続けた結果、日本は世界で名だたる借金大国になった。国債増発という、次世代からの借金で景気浮揚を図る策は限界にきている。各企業は大盤振る舞いに安住することなく、得意分野を見極めたうえで、猛然と事業の再構築を進めなくてはならない。もう頼るものがないと思った方がいい。それが、今回の予算のメッセージだ。

ページの先頭へ戻る