月刊パンプキン 1998年12月号(潮出版社 1998年11月20日発行)より転載

【21世紀への私のメッセージ】(6)

竹中ナミ

(NAMI TAKENAKA●プロップ・ステーション代表 通称「ナミねえ」)

チャレンジドも立派な社会の構成員なんです。

チャレンジドって知ってはります? 日本でいう障害者のこと。障害者かて、立派な社会の構成員や。彼らのできないとこばかり見ないで、できるとこを伸ばす文化があってもええやないの。 「チャレンジドを納税者に」のスローガンで、パソコンを使った就労支援NPO(非営利団体)を主宰する。

プラス面を見る

……チャレンジドという言葉を初めてうかがいましたが。

日本では耳慣れないのが現実です。アメリカで使われ始めた言葉で「神から使命を与えられた人々」と訳されます。

チャレンジドとは、心身に障害をもった人々だけを指すのではなく、子育て中の母親、介護の必要な家族をもった人、男性社会の中の女性。これら日常生活に何らかの制約を受けている人すべてを指す言葉です。「あれもでけへん・これもでけへん」というマイナス面ばかり見ているのが現実ですが、「できることもあるで」というプラス志向が、チャレンジドという名前を使うに至った発端です。

誇りをもって元気に生活する道具

……チャレンジド就労の武器が、なぜパソコンなのでしょう。

重症のチャレンジドへのアンケートで、「働きたい」という声が大勢を占め、その武器として「パソコン」を挙げる人の多かったことがきっかけです。

私自身機械が苦手。それでも「やりたい」というチャレンジドが多いなら「やるっきゃない」という感じでしたわ。 扱いのむずかしいところはありますが、人間が火を制して文明を築いたように、チャレンジドがパソコンを自在に扱えれば「誇りをもって元気に生活する道具」として、適切な道具になるのではないですか。

セミナーは現在第13期。すでに大阪と神戸で200人の受講生を対象にパソコンセミナーを行いました。

ところが、チャレンジドには体の都合や居住地の都合で、セミナーに来たくても来れない人が多いでしょう。彼らのために、在宅で参加できるインターネットを使ったスキルアップセミナーも開講しました。現在37人が受講しています。

この中で希望どおり就労できる人は20%弱です。ご存じのとおり、雇用されるにはさまざまなバリアを通り抜けねばなりません。事業所の施設の問題に始まり、通勤の問題、そして実際に働ける仕事時間の問題です。雇用がええのか、在宅のほうがええのかに加え、これらの問題を判断する基準も整える必要があります。

雇用の枠を超えて、パソコンを使った「在宅就労」が実力的に可能なのか、また自分にとって適切な方法なのか、これを見極めることがセミナーの重要な役割になってきました。

えぇところを出してもらう

……プロップ・ステーションは、どのような人々によって運営されているのでしょう。

プロップの名が示すとおり、社会のすべては支え合いで成り立っています。せやけど、何から何までが人々の善意で運営されているのではありません。基本的に人の力はすべてボランティアです。パソコン関連業界の力もお借りしています。

せやけど、ハードもソフトもチャレンジドが使いこなすということで、プロップが支援企業にフィードバックしている製品改良などの提案や情報は少ないことないですよ。また、ご要望があれば、就労支援の面からも、チャレンジドの在宅ワークによる、質が高く、ていねいな仕事を、適切なコストで供給させていただいています。

ボランティアさんは、介護系の人よりも、技術系の人のほうがいきいきとやってはります。各々が「えぇところ」を出していただけるよう、私なりに配慮しています。「プロップに来てよかった」と、心の底から思うてほしいし。

ボランティアは、気持ちのゆとりがないとできないものです。自分にできることを出し合い、支えあってつくり出す社会構造っていうか、「自治」の土壌がここでつくられているような実感があります。

自分が変われば社会も変わるんよ

……活動を通しての社会の提言は。

だれでもチャレンジドになる可能性を秘めています。そのときに不満ばかりいっているのは寂しいことです。得意なことを見つけて挑戦するところに、存在感があるのではないですか。

人の悩みに大小なんてありません。本人にしてみれば、その悩みこそが世界最大の悩みであることを否定できないでしょう。でも自分だけで悩まないことです。1人ひとりが支え合って、悩みを使命に変えていければ、これ以下のことはありません。自分が変われば社会も変わるんよ。「チャレンジドを納税者に」というと、「障害者からも税金をとるのか」という質問をいただきます。チャレンジドかて社会のお荷物であるばかりではありません。チャレンジドいうたって「立派な社会の構成員なんだ」と胸をはっていえるような、自治の姿を見せていければいいのじゃないか。そう確信しているのです。

取材・文 玉木文憲 撮影 中平兆二

PROFILE
たけなか なみ・神戸市生まれ・中卒 25歳の娘さんが重症心身障害児であったことから、日々療育のかたわら障害児医療、福祉、教育を独学。さまざまなボランティア活動を経て1991年5月プロップ・ステーション設立。92年4月事務所を大阪に移転、代表就任。同年夏よりセミナー開始。著書に『プロップ・ステーションの挑戦』(筑摩書房)。写真はセミナー会場にて。詳細はホームページhttp://www.prop.or.jp/

ページの先頭へ戻る