Windows NT World 1998年11月号 (1998年10月24日発行)より転載

【NTビギナーのためのお金も入手もいらないデータ管理術】(第11回)

スモール・オフィスにおけるWindowsNT導入の手引

檜山正幸 (hiyama@HMO.iijnet.or.jp)

この連載は、筆者の経験のもとに、WindowsNTを中心とした快適なスモールオフィスを実現する過程を、悪戦苦闘も含めて、ほぼリアルタイムにお伝えする。筆者は、テクニカルライティング、コンサルティング、プログラミングなどをナリワイとするフリーランス。予算も人手も手間もかけられないという現実的制約の中で、誰もが突き当たる身近な問題をできるだけ具体的に取り上げていくことにする。

オヤジの主張そして電話料金事件の真相

わがオフィスは"IPリーチャブル"(日本語で言うところの「IPで到達可能」)になったが、まだ名前(インターネットドメイン名)がもらえてない。OCNのサブドメイン名(xxx-unet@ocn.ne.jp)は自動的に割り当てられるのだが、これはどうも使う気がしない。そこで、生のIPアドレスを使って外からウチにアクセスしているのだが、コレはなんだか秘密っぽくていい。それはともかく、今回もネットワークの話題。

注:本稿の太字の言葉は用語解説/補足説明で解説されています。

OCNエコノミー環境への遠い道のり

わがオフィスのOCNエコノミー環境整備の状況は、このところあまり芳しくない。が、とりあえずFreeBSDマシン「tenjin2」はゲートウェイとして勇ましく動いている。IPパケットのフィルタリングとNAT(ネットワークアドレス変換)処理がtenjin2で行われ、LAN上のPCたちは、tenjin2を経由してHTTPとFTPによる外部接続が可能になった。一応、インターネットの利用環境として不満のない状態である(図1)。しかし、セキュリティとネームサービスがいまいちで、メール環境などは全然ダメ。インターネット・ドメイン名の取得に関しては、わがオフィスが法人でない点がネックでモタついている。ドメイン名「co.jp」は原則として企業に与えられるものだからだ。まったくの個人である筆者ではどうしようもない。ドメイン名取得については、さらに調査したうえで本連載、または別の企画で報告することにしよう。
さて今回は、前回と前々回に続いてネットワークの話をしよう。その前に少し脱線してオシャベリをさせてもらう。ただし、本題とまったく無関係なわけではない(いや、関係ないかな?)ので、まあ聞いてみてほしい。

竹中さんの本と彼女の主張

その話とは、筆者の知り合いに竹中ナミさんという方がいて、その竹中さんが以下に紹介する本を出したことについてだ。

「プロップ・ステーションの挑戦―チャレンジドが社会を変える―」(筑摩書房刊 1,810円 税別)

書名の「プロップ・ステーション(http://www.prop.or.jp/)」とは、障害者の就労支援と雇用促進のために活動しているNPO(民間非営利組織)のことで、竹中ナミさんはその代表者だ。プロップ・ステーションでは、否定的な印象が強い「障害者」という言葉に代えて「チャレンジド」という言葉を使っている。プロップ・ステーションの活動の特徴は、コンピュータやネットワークなどの情報技術を利用してチャレンジドの労働環境を構築しようという前向きな姿勢だ。実際に多くの情報関連企業がプロップ・ステーションを支援している。マイクロソフトも有力な協力企業の1つで、「プロップ・ステーションの挑戦」の帯には成毛真社長が「これは、コンピュータとネットワークを使った、社会の新しい可能性だ」という熱い言葉を寄せている。 
竹中さんは、著者の中で「チャレンジドが抱えているのは特殊な問題ではなく、すべての人に共通する普遍的な問題である」と訴えている。誰でも歳をとれば身体は満足に動かなくなるし、思考能力も衰えてくる。それでも我々は長い老後を過ごさねばならないし、高齢化社会にあっては「高齢」というハンディを持つチャレンジドが人口の大きな比率を占める、というのが竹中さんの主張の論点である。確かに高齢者も含めたチャレンジドがお荷物となるような社会では、破綻が目に見えている。ハンディを持つ人々が快適に働いて生活できる社会の実現は、われわれにとって必要なことなのだ。

そしてオヤジの主張

ガラにもなく真面目なことを言っている。確かに言葉は竹中さんの受け売りに過ぎないが、四十代半ばの筆者には実にリアリティがある話に身につまされるのだ。これから20年、30年経っても楽隠居できる身分になれそうにない。これから先も、ずっとキーボードとディスプレイを前に筆者は働き続けるのだろうか? 視力の衰え、指先が動かなくなっても、今のユーザーインターフェースを使い続けられるのだろうか? 
さらに問題なのは、システムのメカニズムやアーキテクチャを正しく理解することだ。これには集中力や記憶力が要求されるので、すでに脳細胞の多くが死滅している筆者などは、小難しい理屈や膨大なAPIがスイスイと入るような状態ではない。いつまで、新しい技術を理解してコンピュータやネットワークを管理し続けられるのだろうか? 
筆者のごとき知的チャレンジドにとっての「やさしい」コンピューティング環境とは、言ってしまえば「サルでも使える」「タコでもわかる」ということだろう。しかし、筆者はこの方面の進化をまったく期待していない。情報家電なるものが実現したとしても、それは「コンピュータがテレビのように簡単になる」わけではなく、「テレビにコンピュータ機能の一部が付く」だけだろう。コンピュータが汎用の万能機械である限り、本質的にサルでも使えるようになるわけがない。 
筆者は、コンピュータ機能を一部備えたテレビをいじって老後を過ごすつもりはなく、汎用機械としてのコンピュータを使い続けなくてはならない。コンピュータが簡単になるとはとうてい信用できないまま、知力が低下していく。もう、お先は真っ暗なのだろうか? 
いや、それでは困るし、第一、そうとは思っていないのだ。筆者は、オヤジはオヤジなりにテクノロジーを理解する手段があるだろうという望みを持っている。カッコつけるのを止めて、イマジネーションや過去の経験や実験や実証、とにかく手段を選ばず、自分にとってのテクノロジー像を描き出そう。オヤジは、教科書に書いてあることがスンナリとは入らないのだから仕方がない。これは開き直りだね。まあ、若いころでも教科書はさっぱり理解できなかったような気もするが…。 
ここで、竹中さんの意見をもう1つ紹介しておこう。それは「チャレンジドに利便があることは、その他の多くの恩恵をもたらす」ということだ。歩道への進入部分の段差をなくしてスロープにすると車椅子でも楽に通れるが、これはベビーカーや台車や自転車にとっても都合が良い(自転車で歩道を歩くのはまずいが)。段差でこけたりする事故も減るだろう。車椅子のための配慮が、みんなによい影響をもたらす。オヤジに便利なもの/オヤジでもわかることは、若者にも有益なのだ。 
さらに我田引水、手前味噌を承知で言うが、前々回(本誌98年9月号)の頭悪そうな解説記事(314〜319ページ)も、テクノロジー像を描く手段(方便に近いが)としては意味があるだろうと思う。

★ 用語解説・補足説明

[HTTPとFTP]
HTTP(HyperText Transfer Protocol)とFTP(File Transfer Protocol) が使えるということは、「Webページを見ること」と「ファイルのダウンロード」をできるということだ。通常はこれで十分だろう。
[メール環境]
外部とメールを送受信して内部に配送するためには、長年にわたってUNIX上のsendmailと呼ばれるプログラムが使われてきた(今でも使われている)。ところが、sendmailの設定は非常にやっかいである。他に選択肢がなかったころは、管理者たちはいやいやsendmailの相手をしていたものだ。筆者もsendmailをいじる気がしなくて、メール環境には手をつけていない。他のメール配送プログラムの採用を検討した方がいいかもしれない。例えば(これもUNIXのツールだか)、最近はqmail(http://www.qmail.org/)というプログラムが人気らしい。
[個人である]
「co.jp」にこだわらなければ、個人レベルのドメイン取得には他にも方法がある。トンガ(.to)やニウエ(.nu)などの国名の下に自らのドメインを取ることもできる。
[チャレンジド(challenged)]
手元の英和辞典(研究社カレッジライトハウス)には語源が載っていなかった。記憶では、もともと米軍で使われていた用語で「これから修練を積む新人」を意味すると思ったが・…。
[マイクロソフトも有力な協力企業]
マイクロソフトが、プロップ・ステーションのメンバーである全盲の青年、細田和也さんの協力を得て、アクセッサビリティ向上のための研究開発をしていることはよく知られた話だ。
[視力が衰え]
W3C(World Wide Web Cosortium)が策定したCSS(Cascading Style sheets)には、ユーザー側で字の大きさを制御する機能である。さらに、次バージョン、CSS2では音声スタイルシート(aural  Style sheets)がサポートされた。音量、一時停止、速度などのパラメータで読み上げを制御する。注意深くHTMLを書けば、音声だけで各種のタグを認識できるようになる。W3Cでは、Web Accessibillty Initiative(WAI)として、障害者にも利用できるWebの実現(バリアを取り除くこと)に取り組んでいる(http://www.w3.org/WAI/)。 
なお、書籍出版の分野では、大活字(http://www.vmail.ne.jp/~daikatuji/Index.shtml)などが同様の活動を行っている。

ページの先頭へ戻る