毎日新聞(夕刊) 1998年8月29日より転載

障害者を納税者に パソコン利用で仕事はできる

神戸・就労問題考える「チャレンジド・ジャパン・フォーラム国際会議」  
従業員3万人の9割が障害者  スウェーデン・「サムハル」社報告

インターネットは人と人との距離を縮め、身体の障害をハンディではなくしてしまう。パソコンを使うと、例えば手が不自由でも文字や絵を書くことも可能。パソコンの発達で、障害者が健常者と同じスタートラインに立てる世界は広がりつつある。こうした技術を利用して、障害者の就労を促進する動きも全国各地で始まっている。大阪のボランティア団体「プロップ・ステーション」(竹中ナミ代表)もそうした団体の一つ。このほど「プロップ」も参加して、障害者の就労問題を考える「チャレンジド・ジャパン・フォーラム国際会議」が神戸市で開かれた。話し合われた内容を報告する。

【佐々本浩材】

大会名の「チャレンジド」は、障害者を表す新しい米語。「神から挑戦すべきことを与えられた人々」という意味が込められているという。

「プロップ」は、約7年前から「チャレンジドを納税者に」を合言葉に、チャレンジドも仕事を持つことで社会を支える側に回って、誇りを持てるようにしようと活動している。そのための最大の手段がパソコン。大阪や神戸、ネット上などでパソコンセミナーを開いて、すそ野を広げる一方、チャレンジドの就労促進を企業などに積極的に働きかけてきた。現在、企業に就職した人のほか、在宅で仕事を始めた人もいる。

フォーラムは今回で4回目。障害者をはじめ企業や大学、行政関係者など約300人が参加。

今回の目玉は、スウェーデンの国営企業「サムハル」の報告。約3万人の従業員のうち約90%が障害者で、とくに知的障害者や複数の障害がある人などの雇用を増やす一方、自社のグループ企業以外への転職も積極的に図っている。

1980年の設立で、IBMやボルボなどの下請けのほか、レストランやクリーニングなどのサービス事業と仕事は多岐にわたっている。最近はグラフィックデザインや情報処理サービスなどの仕事も増えており、個人負担はほとんどなしで各家族でパソコンが使えるように投資している。

来日したゲハルド・ラーソン社長によると「ヨーロッパでも同様の試みはそれほどない」。当初は議論もあったが「納税者や企業に納得してもらった」という。

成功の秘けつについて「価格は市場価格に合わせ他の民間企業との競争を公平にする」「障害者が働かずに社会保障を受けるより企業に補助金を出すほうが出費が少ないことを国民に示す」「障害者が誇りを持てることを理解してもらうこと」の3つを挙げ、80年は政府の補助金が売り上げの170%だったのが、昨年は96%になり、金額は3億jも補助金を減らしたと誇らしげに語った。

日本では障害者の雇用はここまで進んでいない。「プロップ」の竹中代表は「働くのが当たり前という認識があればそうなるのかと思った。今はパソコンという武器があるので、かなり早いスピードで進んでいける」と話した。

別のセッションでは「プロップ」所属のチャレンジド3人が最近の仕事の状況を報告。「自分の中の才能を起こされた」と喜びを語る一方で「パソコンは進歩が早く、すぐに技術が古くなる。勉強に本代がかかる」「使いやすい機器が欲しい」などの悩みも聞かれた。

参加した企業側は「最初から在宅就労となると不安はあるが、何かを身につけてくる人は大歓迎。企業は障害者の雇用比率が法律で定められているが、こうした在宅での就労もカウントできるようにしてほしい」と行政に注文していた。

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