日経インターネットテクノロジー 1998年9月号(1998年8月22日発行)より転載

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WWWのアクセス性向上(KEYWORD・HTML4.0・WAI・CSS)

HTML見直しでだれでもアクセスしやすく

WWWのアクセス性の低下が問題となっている。HTMLの機能不足から見栄えと構造を混同したHTML文書が数多く作成されたためである。HTML4.0が登場した今もHTMLをめぐる「誤解」は解消されていない。だれからも見ることのできるWWWについて再考する。

(末安 泰三=sueyasu@nikkeibp.co.jp)

インターネットの利用法が広がるなかで、可能性も増大しつつあり、在宅勤務や在宅学習への道も開けた(図1)。先日もスタンフォード大学の電気工学修士コースを完全にオンラインで取得できるようになったことが話題を呼んだ(http://scpd.stanford.edu/cee/telecom/onlinedegree.html)。ハンディキャップのためにこれまで自宅に引きこもりがちであった人々も、インターネットを情報収集やコミュニケーションにと積極的に活用し始めている。「チャレンジド(障害者)にとってコンピュータやIT技術は、人類が火を見つけたのと同じくらいの意味を持っている」(プロップ・ステーション代表 竹中ナミ氏)という声も上がるほどだ。

バリアフリー社会へ向けた社会資本整備が問題となっているが、ネットワーク上ではいち早くバリアフリー社会が実現されているという見方もできる。異なる環境下での文書共有の必要性から生まれたWWWではとくにそうだ。

ところが最近、見栄え重視のHTML文書の増加で、「だれからもアクセスできる」というWWWの理念が脅かされている。視覚効果を優先させ文書構造を崩したHTML文書が増え、とくに視覚障害を持つ人々のアクセス性が低下しているのである。

画像の無配慮な乱用も問題だ。代替文字列をつけるちょっとした配慮を怠り、音声ブラウザやテキスト・ブラウザでの閲覧を不可能にしているWebページがあまりにも多い(写真1)。これらのWebページがどれほど不便なものであるか、日本IBMの「こころWeb」(写真2)にある「ネットワーカー実例集」の体験談を読んで考えてみたい。

特定の人のためではない

WWWのアクセス性を向上させるというとどうしても障害者に意識が向きがちであるが、決してそれだけにとどまるだけではない。最近ではPDA(Personal Digital Assistant)でWWWを利用する人々も増えている。テキストしか表示できないPDAも多いし、通話料金の増加を嫌って画像の読みこみを避けるユーザーもいる。

ユーザーの環境に関係なく情報にアクセスできる。これが「アクセス性向上」の本質だ。インターネットの利用形態が多様化するなか、ユーザーの環境も多様化している。「福祉」的発想ではなく、純粋に広告の費用対効果増大という観点からアクセス性について考えることが必要である。

また、アクセス性の高い文書を作成することは文書管理にかかるコスト削減につながる。なぜならアクセス性の高い文書とは、再利用性の高い文書のことを意味するからである(図2)。HTMLは文書構造を記述するだけに利用し、見栄え部分はCCS(Cascading Style Sheets)などのスタイルシートで制御するようにすれば、HTML文書を業務システムなどで利用することが容易になる。

バリアフリーなHTMLとは

それでは、アクセス性の高いHTML文書とはどのようなものなのであろうか。

1998年4月14日にWWWの標準化団体W3C(World Wide Web Consortium)内に設けられたWAI(Web Accessibility Initiative)という機関が、「WAI Accessibility Guidelines: Page Authoring」の最新ワーキングドラフトを公開した。ガイドラインでは、大きく3つのことを提唱している。

  • HTMLは文書構造記述に使用
  • ナビゲーションや操作性をよくする
  • 情報を得るための複数の方法を用意

これらを実現する具体的な記述方法については後述することにして、まずは日本IBMの「バリアフリーの扉」(写真3)にある「i―Checker」(http://www.ibm.co.jp/accessibvility/i-checker/)というHTMLチェッカで、自分の書いたHTML文書をチェックしてみることにしよう。i―Checkerでは以下の4点をチェックする。

  1. 画像リンクにコメント(ALT属性)が書いてあるかどうか。
  2. タイトル文書が書いてあるか。
  3. クライアントサイド・イメージ・マップのAREA要素にコメント(ALT属性)が書いてあるかどうか。
  4. サーバーサイド・イメージ・マップを使用している場合、警告を出す。

サーバーサイド・イメージ・マップは、リンクの個所などをクライアント側で判断するのが難しいため使用しないことが望ましい。使用していると即、警告を出るようになっている。

本誌のWebページをi―Checkerでチェックしてみた結果が写真4である。「1個の画像リンクにコメントがありません」と警告されたが、そのほかは問題ないようであった。「バリアフリーの扉」サイトを担当する日本IBM東京基礎研究所主任研究員の浅川 智恵子氏にホームページリーダーというWebページの読み上げソフトを使って、本誌Webページを読んでもらったところ、「なかなか良かった」との評価を得た(写真5)。

各フレームに内容が把握できるタイトルを付けていた点は、とくに評価された。オーサリング・ツールによってはフレームに適切なタイトルを付けるのは難しいらしく、フレームにタイトルがないWebページが増えているという。視覚障害者は音声ブラウザで各フレームを読み上げて、読みたいフレームを判断しているため、困ることが多いのである。

なお浅川氏などは、パソコン上で動作可能なi―Checkerを9月16日から千葉・幕張メッセで開催される「IBM総合フェア'98」(http://www.ibm.co.jp/event/sougou98/)で配布する。その後Webページからもダウンロードできるようにするという。

i―Checkerでエラーを指摘されなくても万全とは限らない。i―Checkerは「Webアクセシビリティを考える第一歩。チェック項目も変更が容易で、かつ重要なものに絞ってある」(浅川氏)。よりチェックの厳しいチェッカとしては石野 恵一郎氏作の「AnotherHTML−lint」(http://ring.aist.go.jp/openlab/k16/htmllint//htmllint.html)などがある。AnotherHTML-lintはHTML文書中のDOCTYPE宣言に従って、HTMLのバージョンに沿った文法チェックをし、採点してくれる。

さっそく本誌のWebページをチェックしたところ、なんと132個のエラーで点数は「−45点」という悲惨な結果となった。まだまだ課題は多い。

結果表示には詳しい解説が付くので、非常に勉強になる。ひとつひとつクリアして、エラー・ゼロを目指したい。

HTML4.0でアクセス性を向上

現在有効なHTMLのバージョンについて整理しておこう。

使用できるHTMLのバージョンは、「HTML2.0」、「HTML3.2」、「HTML4.0」の3つである。1995年2月にRFC1866となったバージョン2.0はすでに古く、実際にはこの範囲で書かれたHTML文書はほとんどない。現在おもに使われているのは、1997年1月にW3C勧告となったバージョン3.2相当のものである。各社が独自拡張したタグを追認した規格だ。

そして1997年12月にHTML4.0がW3C勧告となった。HTML4.0は国際化、スタイルシートの使用、マルチメディア、スクリプト、フレームそしてアクセス性向上にかかわる大幅な機能拡張がなされたバージョンである。「Strict」、「Transitional」、「Frameset」のサブ・バージョンがあり、もっとも厳格なHTML4.0−Strictでは、見栄えに関する要素や属性、たとえばFONT要素などが破棄されている。

見栄えに関してはスタイルシートを使用することになっており、スタイルシートを使用するためのSTYLE要素などが初めて導入された。

したがって、本記事でこれまで述べたことを実践するにはHTML4.0への移行が欠かせない。しかし、HTML4.0−Strictと、現在までに蓄積されたHTML文書との文法的なギャップは大きい。しばらくは両者の橋渡し役として用意された「HTML4.0−Transitional」を使用して、徐々に移行作業を行うのが良いだろう。HTML4.0を使用する際に用いるDOCTYPE宣言は、表1のようになる。

[アクセス性の高い文書のためのWAIのガイドライン]

WAIの「ページ作成に関するガイドライン」の柱は、前述した3つである。以下、WAIガイドラインの章立てに従い、不可欠な項目に限って詳しく見てみる。このガイドラインについては、本誌pp.144−149の「連載講座●Webを基礎から理解する」で詳しく解説してある。

スタイルと構造

まず、HTML4.0とCCS1に従った要素や属性を使うことを不可欠な条件として挙げている。移行期間ということでHTML4.0−Strictについてはまだ推奨にとどまっている。スタイルシートを使えない環境でもページが読めるようにすることも必要だ。スタイルシートに未対応のブラウザもまだ多い。

H1の次にH3が来るような不適切なヘディングをしないようにする。Hxはあくまで見出しレベルを設定するものである。上のような使い方は、文字の大きさを変更するためといった、スタイル目的の使い方である場合が多い。

リスト要素(DL,UL,OL,LI)をリスト作成以外には使用しない。インデントにはスタイルシートを使うべきである。

文字をブリンクさせたり電光掲示板のようなマーキー表示をさせないことも不可欠な項目である。HTML4.0にそのためのタグや属性がないこと(CSSにはブリンク表示のための属性はある)、次にブリンクやマーキーをスクーリン・リーダーが正しく読めないことが理由とされている。

画像とイメージ・マップ

すべての画像とイメージ・マップには代替テキストを用意することが必要である。IMG要素やAREA要素にはALT属性で短い説明をつけられる。OBJECT要素を使用した場合は、要素本体に説明文を記述できる。

グラフやテーブルなど、重要な情報を持つ画像には詳細な説明をつけるべきである。詳細情報の付加方法としては次の4つの方法が紹介されている。

(1) 画像のそばに詳細情報を記述した文書へのリンク(D−link)を用意する。

(2) HTML4.0で新たに用意されたIMG要素のLONGDESC属性で記述する。

(3) OBJECT要素の本体に記述する。

(4) 画像の中にテキストを埋め込む(PNG画像の場合)。

クライアントサイド・イメージ・マップを使用する場合、AREA要素のALT属性やTITLE属性を使って代替文字列をつけるべきである(図3)。また、リンク部分にはACCESSKEY属性を利用してキーボード・ショートカットを設定して、操作性を向上させておく必要がある。

サーバーサイド・イメージ・マップは使用するべきではない。どうしても使用する必要がある場合は、イメージ・マップに続いて、リンク・リストを別途準備しておこう。

アプレットとスクリプト

各アプレットやスクリプトが伝えるのと同等の情報を、別の表現方法で用意しておく必要がある(図4)。説明文の付け方には以下の4つがある。(1) NOSCRIPT要素を使って、SCRIPTに対応していない環境で出力される文章を記述する。(2) APPLET要素の内容として、代替文字列を記述する(ただし、APPLET要素はHTML4.0−Strictでは使用できない)。(3) OBJECT要素として説明文を記述する。

アプレットやスクリプトで提供する機能でも代替手段を用意すべきである。たとえば顧客情報を入力するアプレットを使用している場合は、フォームを利用した別の入力手段も用意しておくといったことである。

また、アプレットそのもののアクセス性、操作性を高めておくことも重要だ。「Java  Accessibility Program」
(http://trace.wisc,edu/world/java/jave.htm)を参照しておこう。

オブジェクトが移動したり点滅するようなアプレットやスクリプトを作成する場合は、それらを停止できるような機構を準備しておく。とくに文字情報を含む場合にはそれが要求される。

音声と動画

音声や動画の内容をすべて文字に起こして用意しておく。音声には副音声で動画の情報を説明する。

字幕や、画面に同期したファイル形式で文字説明を付加することも重要である。QuickTime3.0など一部のファイル形式では、マルチメディア・クリップにキャプションや解説を付け加えることができる。また、将来的にはSMIL技術(http://www.w3.org/TR/WD-smil/)を使って同様のことが可能となる。

テーブル

テーブルのセルにHEADERS属性やSCOPE属性を設定し、テーブルの行と列の関係を明示しておく。将来的にはテーブルを自動的に平文に変換するなどの技術が確立するものと思われる。また、テーブルを段組みに使用しない。

フレーム

フレーム機能をオフにしてもページが読めるかどうかを確認する。

フレームのひとつとして直接画像ファイルを指定しないようにする。この場合、画像を説明する文書はFRAME要素のTITLE属性しかないが、画像ファイルを別なものに変更した際にこちらも変更する必要が生じる。画像の代わりにHTML文書を指定することで、IMG要素やOBJECT要素のTITLE属性を使用することができる。

各フレームには、TITLE属性で必ず内容を示すタイトルをつける(図5)。

ユーザー入力フォーム

グラフィカルな実行ボタンを作成するためにイメージ・マップを使用しないにする。説明つきのBUTTON要素か、INPUT要素を使用する。

ラベルがどの入力に対してのものであるかを明示する。このためにはLABEL要素のFOR属性を使用する(図6)。

実行ボタンに画像を使用する場合は、ALT属性で説明を付けておく。

色づかいにも注意

WWWのアクセス性に関して忘れてはならない人々がいる。色覚異常を持つ人々である。色覚異常は網膜にある錐体の働きに問題がある場合に発生し、全色盲、赤緑色覚異常、青緑色覚異常に分けられる。なかでも多いのが赤緑色覚異常である。日本人の場合、実に男性の20人に1人、女性の500人に1人が赤緑色覚異常といわれる(男女の比率に大きな差が生じるのは伴性劣性遺伝という形式で遺伝するため)。

英国のAndrew Oakley氏のWebページ(写真7)などにあるように、色覚異常があると一般的に「赤、緑、茶、灰、紫」といった色の組み合わせが見づらくなる。たとえば緑の背景に赤の文字などがあると文字が読めない場合がある(写真8)。

できるだけこのような色の組み合わせは避けるようにしよう。使用する場合は高いコントラストをつけるか、文字を大きくする。画像の場合は文字による説明をつけるようにする。

チャレンジドという言葉を知っていますか?

大阪にプロップ・ステーションという非営利団体がある。コンピュータを活用して、チャレンジド(Challenged)の自立と社会参加、とりわけ就労の促進や雇用の創出を目的に活動する団体である。「チャレンジドを納税者にできる日本」をキャッチ・フレーズに、代表の竹中ナミ氏を中心に精力的な活動を続けている。

チャレンジドとは「チャレンジする運命を神から与えられた人」つまり障害者を表す。最近アメリカで使われ始めた言葉で、出来ないことよりも出来ることに注目し、物事に積極的に取り組んでいこうという意識が込められている。

全国のチャレンジドへのアンケート結果、コンピュータやパソコン通信に関心があり、自分たちの社会参加にとって有効な手段になると思う、という回答が多かったことからプロップ・ステーションでは活動の柱を「コンピュータを活用した支援」においている。「働きたいのはだれでもなくチャレンジド本人だ。コンピュータに関しては現在、日本人全体がチャレンジド状態といえる。スタートラインは同じで、そこにチャンスがある」(竹中代表)と、自立の大きな機会だととらえる。

プロップ・ステーションは、自立と就労に関するチャレンジドからの相談に応じるほか、機関誌「Flanker」の定期発行、パソコン通信プロップ・ネットの運営、Webページの運営(写真A、http://www.prop.or.jp/)、職業訓練としてのコンピュータ・セミナーの開催(写真B)など多彩な活動を行っている。

8月5日には『プロップ・ステーションの挑戦―チャレンジドが社会を変える』(竹中 ナミ著、筑摩書房)が出版された。プロップ発足の経緯から今日までの活動をまとめたもので、米Microsoft社会長Bill Gates氏のコメントなどもある。

ええ仕事しまっせ!

実務・営業部門である「プロップ・ウイング」(所長:鈴木重昭氏)が、企業と密接な連携をとりながら、コンピュータ・ネットワークを活用した在宅ワークの拠点として活動している。働くのは、プロップのコンピュータ・セミナーでデータベースやグラフィックを学んだチャレンジドの人々だ。トヨタ自動車から大量のデータ入力を依頼されたりと、徐々にはではあるが仕事も増えてきている。

グラフィックに関しては昨年「バーチャル工房」というグループが発足し、WWWブームのなか、コンテンツ作成業務などで、こちらも着実に実績を上げている。本記事に使用したイラスト(図1)も、このバーチャル工房に作成してもらったものである。

まだまだ仕事の依頼が少ないということなので、興味を持たれた方は鈴木氏に連絡を取ってみてほしい。電話番号は(06)881−0041、FAXが(06)881−3866である。

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