朝日新聞 1997年6月3日より転載

ハンディ超えて働きたい

PC味方に在宅勤務

「SOHO時代」

パソコン(PC)、インターネットの普及で、自宅などでビジネスを起こしたり、在宅勤務をしたりする「スモールオフィス・ホームオフィス」(SOHO)が注目を集めている。国土の広い米国では、様々な職種で在宅勤務が活発だが、日本でも都市部の住宅難で、通勤時間が長時間になっていることを背景に、在宅勤務を採用する企業が出ている。通勤がハンディとなりやすい障害者にも期待が大きい。しかし、体のハンディをかかえ、パソコンをどこでどう学ぶかや、技術を身につけても仕事をどうやって得るか、課題も多い。そうした中で芽生えてきた新しい動きをみた。

プログラム・CG制作

一から出発


「技術者として認めてくれるのがうれしい」と話す山崎博史さん
=大阪府堺市の自宅で

大阪府堺市在住の山崎博史さん(32)は19歳のときに交通事故で、手足が不自由になった。28歳で中学校の同級生だった景子さん(32)と結婚。これを機に在宅の仕事を探しているとき、ラジオで障害者の在宅就労のためのパソコンセミナーなどを開いている非営利組織(NPO)のプロップ・ステーション(大阪市、竹中ナミ代表)のことを知った。「仕事できますか? 金もうけできますか?」。パソコン経験はゼロだったが、必死だった。

最初はキーの配列もわからず、キーボードの絵をベッドの横に張って覚えた。初めての仕事は貿易会社の在庫管理ソフト。セミナー初受講から1年半だった。

「もう歩けないとわかったときには、ショックで病院の屋上で自殺をしようとさえしたが、今は生きていることがうれしい」と山崎さん。去年12月からは日本アイ・ビー・エムからの注文でプログラミングの仕事をしている。

絵本作家に

大阪府枚方市の久保利恵さん(22)は首から下の筋力が衰える難病のウエルドニッヒ・ホフマン病。短大では日本画を学び、卒業後、パソコン通信をやろうと近くの電器店でパソコンを買った3日後にプロップ・ステーションのセミナーを新聞で知り、参加した。

これまではコンピューター・グラフィックス(CG)ではなく、絵筆を使った仕事だったが、2社から絵の注文を受けた。作品はインターネットでのホームページにもつかわれている。現在、CGでつくるホームページの仕事の打診も受けているという。

「絵本作家になることが夢」という久保さんの画材のひとつにパソコンが加わった。久保さんは「技術さえ身につければ、対等に仕事ができる道が広がった」と期待をかける。

母校で指導

大阪市東住吉区の石田圭介さん(37)は脳性小児まひ。大阪府立堺養護学校高等部卒業後まもなくパソコンを始めた石田さんは1990年からは母校でもパソコン指導もしている。プロップ・ステーションのセミナーにボランティアとして参加していた妻の優子さん(34)と出会い、94年11月に結婚した。翌年には2人で自費出版などを請け負う「圭優堂」をつくった。

石田さんは「障害者なら在宅勤務というのではなく、社会参加の選択肢のひとつとして在宅勤務もあるべきだ」と言う。

「社会支える側に」

プロップ・ステーションでは現在、大阪、神戸で約50人の障害者がセミナーに通う。プロップ・ステーションでは、その人たちをアメリカで使われている「チャレンジド」(挑戦することを与えられた人々の意味)と呼ぶ。代表の竹中さんは「うちのキャッチフレーズは『チャレンジド』を納税者にできる日本。納税者になるとは、誇りをもって働き、社会を支える側に回ること。今、そのチャンスの時です」と話している。

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