産経新聞 1996年9月25日より転載

チャレンジドの風

産・官・学・民 協調こそパワー

平田篤州

ジーパンにスニーカー
「11月に、またやるんです。今、参加者の最終確認をしています」
OBPのナショナルタワーで今月22日朝、鈴木重昭さん(43)は話した。全国ボランティアフェスティバルの会場。動き回るナミねぇ(竹中ナミさん)を包み込む力強い裏方だ。

非営利の市民組織「プロップ・ステーション」(代表、ナミねぇ)のスタッフ。あの、キング牧師を優しくした風貌である。
アトランタ五輪で世界に再発信された「私には夢がある」のメッセージ。
公民権運動へ寄せた牧師の思いは、非暴力主義を貫いて、黒人の自由を獲得した。鈴木さんの仕草に、ふと「信念と優しさ」のキング牧師の横顔がよぎる。

さて、"髭の牧師"がナミねぇといっしょに再びやろうとしているのは、産・官・学・民 が一堂に会したフォーラム。雛型は、夏の終わりにあった。
8月31日、東京・港区南麻布のビル。企業人、官僚、学者、そして、ナミねぇら民間人約50人が集まっていた。
フォーラムがめざすのはチャレンジド(障害者)が就労できる社会システムづくり。11月に開くフォーラムについて"髭の牧師"は続けた。
「社会は、支える人が支えられる人を上回る人口比でなければならない。それには、在宅勤務を可能にするパソコンネットが有効な媒体になり得る」
その目標を実現するためには、産・官・学・民が、お互いの垣根を越えて意見をぶつけあい、一体となって前に進む。つまり「官と民」の対立の時代は終わった。協調こそ、力であるという考え方だ。
ほら、ここでもキング牧師の「非暴力、和」の思いが重なる。

昨年5月の郵政省の電気通信審議会の報告書。その中に、注目すべきくだりがあるという。
<21世紀は「情報の交換を自在にできるかどうかが、生活の質に大きく影響する社会」になる。このため「必要とする情報を発信・アクセスする権利」を新しい基本的人権としてとらえていくことが必要だ>
鈴木さんは、この「新しい人権」に展望を感じて2年半前に脱サラした。

「I have a dream 」

そう思ったのだ。霜月のころ、"髭の牧師"は、ちょっとずつだが、また夢をたぐり寄せる。

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