産経新聞 1996年9月20日より転載

チャレンジドの風

「障害」は「個性」です・・・

平田篤州

OBP(大阪ビジネスパーク)の一角にある富士通ビル1階。

この眼光。サーファーは、いつの間にか背広をぬいでいた。

上杉栄二さん(35)。チャレンジド(障害者)を対象にしたパソコンセミナーのボランティア講師だ。自ら、インターネットの海で波乗りして見せる。
「パソコンで、世界中を見に行く。これを、ネットサーフィンと言います」
画面のひとつに、21日と22日に大阪城周辺で開かれる、第五回全国ボランティアフェスティバルのホームページ。(http://www.ringring.or.jp/96)
これがアドレス。10万人の祭典の内容が、満載されている。

「マウス使うの、工夫しないといけないね」。
手の不自由な女性が言った。弱視の人は、レンズを画面にあてて見ている。耳の不自由な人は、スタッフにワープロで上杉さんの言葉を打ってもらう「同時通訳」で勉強だ。
波に乗ったり、流されたり。20人のチャレンジドたちは、たっぷり2時間、ネットの海辺で戯れた。

サーファー講師が、名刺を差し出した。<日本総研サイエンス事業部インターネットグループ主任技師>とある。企業人がなぜ、ボランティアに。
4年の秋。チャレンジドの就労拡大をめざす「プロップ・ステーション」(代表、竹中ナミさん)の活動を新聞で知り、ナミねぇと"ご対面"。「気があって」(ナミねぇ)強力なスタッフとなった。
サーファーは言った。「この活動をするのに、理屈なんていらない」
障害を持つ人々について、続けた。「自分との違い(障害)は、しばらくいっしょにいると、『個性』にしか見えてこない」
「障害」は「個性」である。インターネットの大海は、その「個性」を受け入れやすい。サーファーは、「挑戦すべきことを神から与えられた人々」の心に、泳ぎ着いていた。
が、19日夜、電話口で小声で言った。「かなづちなんです・・・」

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