関西ジャーナル 1994年4月15日より転載

ボランティア活動最前線 大阪

コンピュータ活用 身障者を支援

市民団体プロップ・ステーション


竹中ナミ代表

コンピュータを使って身障者の自立を支援する大阪の市民グループ「プロップ・ステーション」。ハイテクを最大限に活用する同ステーションは50人を超えるボランティアスタッフが、機関誌の発刊、セミナーの開催、パソコン通信ネットワークの開設など、これまでの市民団体とはひと味違った活動を積極的に行っている。そこで代表の竹中ナミさんにプロップ・ステーションの活動方針を取材してみた。

技術習得で自立促す / 就労への機会を開く / ふれ合い、交流を促進

大阪市北区ボランティア協会内にコンピュータを使って身体障害者の自立・社会貢献を促進する民間のボランティア団体『プロップ・ステーション』がある。

“プロップ”とは「支え合い」という意味。誕生したのは3年前で、主に福祉対策の対象とされてきた障害者が障害を持たない人と共に、社会の一員として生きていく一つの方法として積極的にコンピュータを活用している。

竹中さんは「障害者の場合、職業の選択枠が狭く、就職が不利になりがち。日本全国の障害者を対象に行なったアンケートの中で、コンピュータが就職の武器になるのではないかと考えている人が8割もいたことから、コンピュータを積極的に活用して障害者の社会的自立を手助けしようと考えました」と、設立のきっかけを語ってくれた。

同ステーションは、デザイン、プログラム、DTP、CADなどの技術習得の場として毎週講習会を開いており、日本電気(NEC)はセミナー教室を提供し、アップル・コンピュータはコンピュータの寄付を行なっている。

また、それらのコンピュータを使って機関誌「フランカー」も発刊している。


自立をめざして毎週開かれるパソコンの講習会から

「こうした講習会に参加された人がコンピュータを実際に使ってみて利用価値が判れば自分でコンピュータを買われますし、企業にとってはエンドユーザーとして、身障者にとっては企業に就労できるよう知識・技術習得の場として認知してもらいたいですね。講習会の講師をしていただいている技術系の方々も、自分たちの技術がまさかボランティアに活用できるとは思っておられなかったようで喜んでお手伝いして下さってます。この講習会を受講し、プロの指導者によってかなりの知識や技術を身につけた人もいます」

現在でも実際に企業からCADのトレースやマッキントッシュを使ったDTP関係の仕事の依頼があれば引き受けるという。単にコンピュータを利用する団体ではなく、ユーザーとしての意識を持っているボランティア団体は数少なく、このような団体の増加が望まれている。

また、「身障者が社会に溶け込めない理由の一つに他人とのコミュニケーションが不足していることがあげられます。障害を持たない人が障害を持つ人に対して偏見を持っていることもあるでしょうが、身障者の中にも自分は身障者であると卑屈になり、甘えている人がいるのも事実です」と他人とコミュニケーションを図る1つの手段としてパソコン通信ネットワーク「プロップ・ネット」を開設。近く、インターネットと連携する予定もある。

コンピュータを利用してのコミュニケーションは文字のよみによって行われる。この方法だと言語や聴覚に障害がある場合もスムーズに意思の交換ができ、視覚に障害がある場合も高価だが文章を読みあげる機器で対応できる。

実際にネットにアクセスしてみるとフリースタイルの書き込みの多さに驚かされる。話題は他愛もないことからコンピュータや年に数回開催しているシンポジウムの内容まで多彩。ここでは身障者であっても身障者でなくても関係なく会話できる。

通常、人と初めて会うときの第一印象は大切だとよく言われる。世間には視覚的な要因で人間性まで決めつけてしまう人もいる。しかし、実軽に長く付き合ってみると最初受けたイメージと実際とが違っている場合も多い。こうしたコンピュータのネットワークを通じてコミュニケーションすることは、視覚に囚われて誤った判断をしがちな人の
第一印象を文字による人物の判断へと置き換えてくれる。

「プロップ・ネットには初心者でも入り安い雰囲気があります。ここではありのままの自分を表現することができますし、日常生活で困ったことを相談することができます。しかし、本当の意味で人とコミュニケーションするために、ここのネットを潜まり場にせず外にも目を向けてもらいたいと思っています」

ネット上で何か質問をすると不特定多数の人が厚意から様々な提案や情報を提供してくれる。こうしたお互いの支え合いによってプロップ・ステーションそのものが成り立っている。

さきごろも同ステーションが開催したシンポジウム「コンピュータがひらく自立支援」に、ハイテク福祉分野の第一人者で、市民団体福祉システム研究会の代表でもある川崎医療福祉大学教授・太田茂氏がボランティアで講演、ほかにも4名がパネラーとして参加するなど、同ステーションの活動方針に賛同する者は多い。


「コンピュータが開く自立支援」のトーク風景

約100人が参加したこのシンポジウムでは、太田氏と竹中さんとの対談のほか、海外の自助具(自立支援のための道具)や社会福祉体制を紹介したり、パネラーを交え聴講者からの多岐にわたる質問に答えた。

また、身障者だけでなく、コンピュータ関連会社の人達も参加。現在、パーソナルコンピュータの世界で中心になりつつあるGUI環境(画面に現れる小さな絵を押さえてコンピュータを操作する環境)が、目の不自由な人達にとってはキーボードを操作することより使いづらいことだと分かりショックを受けた参加者が多かった。

プロップ・ステーションにはこうした視覚障害者にとってのコンピュータの有意性を追求する「プロップ・ステーション視覚障害部バンガード」(亀山英昭代表)も存在する。バンガードではJR大阪駅周辺など交通主要拠点の「視覚障害者用アクセスマップ」作りの計画・調査を進めている。現在、視覚障害者用の点字ガイドマップはごくわずか。そこで独自に交通拠点を調査しデータベース化する予定。

竹中さんは、「私達は公益の法人化を目指していますが、現在は市民団体だけに資金的なことを考えると頭が痛いです。講習会を開く場所がありませんし、そこへ行くためにはコンピュータも携帯できるものでないと苦しいですね。確かに景気はよくありませんが、税控除による寄付・助成なども可能ですので、企業の方々、ぜひ一度ご連絡下さい。支え合いを基本方針とする当ステーションでは、身障者も労働することができるという視点で活動しています。身障者も自立し労働することで、税金を納め、社会に貢献するようがんばっていきたいと思っています」と話している。(長滞敏記者)

【連絡先】
プロップ・ステーション
〒530
大阪市北区同心1-5-27
大阪ボランティア協会内
TEL:06-881-0041

ページの先頭へ戻る