報告書 第6章 まとめ

少子高齢化が世界一のスピードで進む日本において、労働力の確保は今後ますます重要な課題となってくる。性別・年齢・障害の有無を問わず、就労意欲のある人を実際の雇用・就労に繋げることは、日本経済の今後にとっても、国の活力を維持するうえでも、そして何より国民の誇りを高めるためにも必要な政策であると考えられる。

従来、働くことが困難とされてきたチャレンジドが、近年のICTの進展により在宅や施設で、介護・介助を受けながらも仕事をする例が、レポートにあるように見られるようになった。しかし、アンケートに回答を寄せたチャレンジドのように、働きたいとの思いを持ちながらも働くことの出来ないチャレンジドが多数を占めている現状がある。

一方、海外では、海外の障害者雇用・就労を支援する組織の紹介にあるように、ICTや情報機器を単に活用するに留まらず、様々な制度や仕組みにより、チャレンジドの雇用・就労を強力に推進し、その活用を更に有効なものとしており、チャレンジドの就労規模や社会的地位にもわが国と大きな差がある。

この差を生み出す最大の要因は、ICTや情報機器の進展により就労の可能性が広がったことだけではなく、労働意欲のあるチャレンジドの労働力を活かすことが国益にかなうという考え方、すなわちそれが国策として取り組まれているという理由による。

従って、日本においてもその環境の構築や整備を国策として捕らえ、そこにある課題に立ち向かい解決しなければならない。解決すべき課題には、大きなポイントとしてICTの活用があるが、関係する法整備や介護など社会全体に関わるシステムの整備も含めなくては、解決をみることは出来ないと考える。その課題とは何か。本報告書による課題を記す。

解決すべき課題

物理的なインフラ

ブロードバンド網を安価に利用できるネットワーク環境の整備とともに、地方でのそのインフラ整備の遅れを解消することが求められる。

在宅就労の初期の設備投資に相当な費用がかかる点、社会的な制度や「チャレンジドのSOHOを支援する組織」による共同購入など、費用軽減の取り組みが必要である。TV会議システムは、仕事のコミュニケーションツールとして、また、知識を得る講習用のツールとして有効ではあるが、その使用の際、必要となる周辺機器の購入とともに、維持費用の負担がネックである。また、より品質の高い仕事を継続するためのソフト・ハードの更新費用に対しても支援方策が必要である。

チャレンジドはその人の障害や環境により、特殊な情報機器や設備が必要である場合も多く、アセスティブテクノロジーに対しても一般的に考えられるそれより、柔軟で余裕のある対応が必要であり、情報を周知し、試験的な使用を支援する方策が求められる。

情報のインフラ

  • 全国障害学生支援センターによる「大学案内障害者版データ」では、そのような情報があれば活用したいと願いながらも存在自体を知らない人や、活用出来ていない人たちが多い。
  • 広島大学の「ボランティア活動室」では、全国の大学が積極的にバリアフリー化を推進し、その情報がインターネットを通じて発信されることの重要性を提示。
  • 「チャレンジドのSOHOを支援する組織」が連携して、Web上から常に何らかの就労情報提供を続けていける状況を作ることが必要。
  • アンケートの結果をみると、チャレンジドの雇用・就労情報およびそれを支援する情報を、インターネットの検索で得ることが難しい。
  • B氏の生活レポートにあるように、チャレンジドの就労事例情報を求める。
  • インターネットを利用した講習が求められている。外出の困難なチャレンジドにとっては、特に有用である。
  • 障害に配慮した各種の資格試験やベンダー試験のCBT(コンピュータ・ベース・テスト:Computer Based Testing)化が求められる。
  • 雇用・就労を支援するNPOで、実績のあるところはまだ極めて少数であり、仕事のコーディネートの方法にも組織ごとの特色があるため連携が難しいのが現状であるが、情報の交流を促し、コーディネート事例などのデータベースを共有することに向けて動き出す必要がある。

以上諸点より、チャレンジドの雇用・就労を支援する情報(実際の仕事探し、仕事のための教育を受けられる情報)を提供するポータルサイトが求められる。

ヒューマンインフラ

現在の介護システムには「チャレンジドが働くことを支援する」という前提が無いが、今後は仕事を続けるために必要な身体的介護や家事援助、手話・要約筆記や移送サービスなどの「ワーカブルサポート」の体制を整える必要がある。家族の介護の元で在宅ワークを行うチャレンジドの場合も、介護を担う家族の病気や怪我など緊急を要する事態が起きても仕事を続けていけるサポートシステムが必要である。

スキルアップのためには、コンピュータ技能などの実践教育を行う講師陣を備えた「チャレンジドのSOHOを支援する組織」などが地域ごとに設置され、集合教育を行うことが望まれる。併せて、外出困難なチャレンジドにとっては、オンラインで技能を身につける遠隔教育システムも必要である。

マネジメントインフラ

企業や自治体、政府機関といった仕事の発注者と在宅就労のチャレンジドをつなぐノウハウを持った「チャレンジドのSOHOを支援する組織」のコーディネート(各チャレンジドの障害に合わせた仕事の種類・質・量の割り振りなど)が不可欠である。また、仕事を進める上で、作業を管理コントロールする手法の確立が求められている。

ロケーション

建物をバリアフリーにするという発想だけでなく、チャレンジドSOHOのための共同住宅や公営住宅の創設および隔離・収容型の「療護施設」をSOHOの場として開放していくことなど、住宅政策・施設政策の発想の転換が求められる。

法制度の整備

教育や就労のチャンスの平等(公立私立に関わらず、希望するチャレンジドの大学受験を拒否しないという規則や、企業が入社試験を受けることそのものを拒否してはいけない、という制度など)「機会の平等」をうたう制度の制定(日本版ADA法)が必要である。
障害者法定雇用率以外に、「在宅就労」など多様な就労形態に対応したシステムとはなっていないハローワーク・インターネットサービスや仕事情報ネットの改善や、ショウ・トラストで行われたようなパートタイムの労働時間条件の緩和のような、多様な働き方を支援する制度の改定や創設が必要である。

求められる今後の施策

制度面の施策

現在の法制度や条例及び運用規則などで、チャレンジドのSOHO雇用の障害になることについて横断的に調査を実施し、今後の政策・施策に結びつけるような提案をその調査により明らかにしていくことが重要であろう。チャレンジドの就労支援は、単一の省庁や部局の課題ではなく、自治体も含めて横断的な課題として捉えていくことが肝要である。現在日本において過去にこの様な調査は部分的にしか行われておらず、今後の省庁横断的な取り組みを期待する。

情報ポータルの必要性(チャレンジドパワーライフポータル)

今回の調査より多くの事実や方向性が判明をしているが、当初の本調査の仮説であったチャレンジドの情報については、生活・学習・就労いずれも統合化が進んでおらず、もっとも情報を物理的な障害により取得を出来ない人たちが、その情報集やサービスなどICTの活用の恩恵を受けていない事実が判明をした。

本来、デジタルデバイドの解消施策として政府及び自治体が行う最重要課題は、そのそれぞれが持つ行政情報や行政サービスをネット上で推進する事はもちろんのこと、公的機関やNPOを初めとする民間支援組織などの散在する情報をポータル的にまとめ、その利便性を高めることにある。

現状のままでは、そのデバイド自身を情報の発信者が横断的に自ら関連をしていないことや、誰も組織的に情報の統合化を行っていないことから、それぞれの折角の努力や投資が本来の活用効果が出ていない恐れがある。

チャレンジドも含めて、今後高齢者などICTスキルのレベルがある程度低くても活用できるポータルサービスの具体的な製作と運用実施が望まれる。

SOHO型チャレンジド就労モデル施設の必要性

今回の調査で、物理的・人的なサポートが整う事によってSOHO型の未来にふさわしい情報通信インフラを活用した就労施設の必要性を認識した。

現在の情報インフラとそれを支えるレベルでは、ある条件が整ったチャレンジド以外の就労は厳しいのと、より質の高い収入も高い仕事を得ていくことも難しい。また、仕事を発注する側からもより、品質の高い仕事が求められてもそれに答える仕組みがないのが現状である。

チャレンジドに最新の情報技術とそれを支えるソフトウェアそして最も重要であるヒューマンウェアのサポートの必要性を統合化した、[チャレンジド・ベネフィット・ラボ]の提案をする。

これは事務所ビルや住宅施設の一部に最新の設備と働くためのサポートを行う 今までの生活の為の介護サービスでない、「ワーカブルサポート」として就労支援の為の介護サポートを置き、より生産性と質の高い仕事の環境を実現する。
ベネフィトの名前のごとく色々な利害の関係者が、金銭的な利益だけでなく、多面的な利益を創出出来る仕組みを実現する。

この仕組み自身は今後の高齢化社会のICTの活用の仕方にも多くの示唆を与え日本の今後の単なるデジタルデバイドの解消だけでなく、未来を見つめることが出来る新たな社会プログラムをして発展する可能性を持っている。

さらにこのモデルのパイロットプロジェクトにおいて、前出の[パワーライフポータル」の具体的な制作と運営がなされれば大きな社会的な貢献と方向性を示す事が出来ると確信する。

以上

ページの先頭へ戻る