報告書 第1章 チャレンジドの在宅雇用・就労に関する現況と展望

多様な雇用・就業形態への対応について

厳しい経済状況と失業率の高まりのなかで、チャレンジド(障害をもつ人:注1)が、能力や意欲があるにもかかわらず、「働く」という形で誇りを持って社会に参加できる道が再び閉ざされようとしている。急速な高齢化が進めばこうした傾向にさらに拍車がかかり、財政の破綻など、将来の展望ははなはだ暗いと言わざるを得ない。

労働行政をはじめとする国の諸制度、地方自治体による対策、障害者雇用に理解ある企業、および民間支援組織などの長年の努力によって、チャレンジドの雇用・就労問題の状況は次第に改善されてきたが、それぞれ個別の対応では効果も減殺され、対象となるチャレンジドも限られてくる。

このような状況において、近年の情報通信技術(ICT:Information and Communications Technology)の進展により、今まで働くことが困難とされてきたチャレンジドの多くが、在宅や施設で、あるいは病院のベッドの上でさえも、介護・介助を受けながら社会参加できること、持てる力を「働く」という形で発揮できることが、ようやく社会的に認識され始めた。

平成14年10月1日より改正された「障害者雇用促進法」について、改正に際して厚生労働大臣に提出された「労働政策審議会意見書―今後の障害者雇用施策の充実強化について―」(労審発第54号:平成14年1月9日)には、チャレンジドの雇用・就労に多様な形態が生じていることを踏まえた上で、次のような提言がなされている。

1−(3) 多様な雇用・就業形態への対応について

多様な雇用・就業形態の一つとしては、IT技術の進展等による在宅雇用・就労の形態が増加しつつあり、通勤が困難な重度障害者について、企業における在宅勤務の活用や、仕事の受発注や技能の向上に係る援助を行う支援機関の育成を行うことが必要である。

労働政策審議会障害者雇用分科会意見書
−今後の障害者雇用施策の充実強化について−

ICTは、チャレンジドの在宅雇用や就労を可能にするだけでなく、雇用・就労を見据えた教育の実践、就労情報の提供、就労後の生活情報の提供など、チャレンジドの生活をトータルに支援し、社会参加を促進するための効果的な手段として注目されている。

本編で紹介する「ICTを活用してチャレンジドの在宅ワークを実現する」という、先進的なプロジェクトに積極的に取り組んでいる一部の社会福祉法人や地方自治体などは、行政、企業、諸団体、個人が参加するネットワークを機能させるコーディネータとしての役割を果たしつつ、チャレンジドの就労と自立という目的を推進しようとしている。本報告書は、チャレンジドの雇用・就労問題をめぐるこのような現状を明らかにし、検証することによって、今後の施策になんらかの貢献ができることを願って作成された。

  • (注1)チャレンジド:「障害をもつ人」を表す新しい米語「the challenged」を語源とし、日本でも「障害者」に代わる言葉として普及し始めている。

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