村木被告弁護側の最終弁論要旨

共同通信 2010年6月29日記事

 厚生労働省の文書偽造事件で、元局長村木厚子被告の弁護側の29日の最終弁論要旨は次の通り。

 【検察官主張の不合理性】

 検察官は冒頭陳述で、国会議員の要請を受けた障害保健福祉部長が「円滑に法案を成立させるため、有力議員の機嫌を損なうことなく依頼を処理する配慮が必要だと考えた」と主張し、部長から指示を受けた村木被告には「凛の会」の実体がいかなるものでも証明書を発行することが決まっている「議員案件」だという動機があると主張した。このような一般的な要請は犯罪の動機としてあまりに薄弱だ。

 検察官は、組織ぐるみの共謀が成立していたと主張するが、民主党の石井一参院議員から要請を直接受けていない村木被告が、上司に相談もせずに逸脱し、部下を巻き込んで違法行為に踏み切ったとする筋書きはあまりに不自然。村木被告が最低限の資料提出すら求めず、決裁を省略して、犯罪行為である証明書の偽造を指示しなければならない理由はない。

 【捜査の問題】

 大阪地検特捜部は村木被告を起訴する前に石井議員に事情聴取しなかった。また取り調べ時に録音、録画をせず、検察官がメモを作成していたのに弁護人の証拠開示請求前に破棄しており、著しく正義に反する。

 村木被告の手帳や業務日誌などの物証に関与を裏付けるものは一切なく、強圧的な取り調べにより、不合理なストーリーに沿う内容の検察官調書を大量に作成。結果として冤罪を発生させた。女性キャリア官僚である村木被告を起訴するという結論ありきで、強引な捜査と起訴に及んだ。

 【倉沢被告の石井議員への依頼の有無】

 2004年2月下旬ごろ、凛の会設立者の倉沢邦夫被告が石井議員に凜の会に対する証明書発行の口添えを依頼した事実はない。

 石井議員は公判で、04年2月25日午後1時に倉沢被告と会ったことは絶対あり得ないこと、倉沢被告から凜の会について話を聞いたのは06年11月6日の1回限りであると証言。客観的資料でも、04年2月25日に石井議員が千葉県のゴルフ場に午後2時まで滞在していたことが明らかで、倉沢被告が口添えを依頼することは全く不可能。

 【石井議員の障害保健福祉部長に対する要請の有無】

 石井議員が04年2月下旬ごろ、同部長に電話して証明書の発行を要請した事実はない。

 倉沢被告から石井議員への依頼という前提を欠く。同部長の検察官調書では、国会で政府委員として答弁後、石井議員から電話で「初答弁だそうで大変そうやね」と切り出されたとされている。しかし、政府委員の誰が答弁するのかは直前に決まるのであって、答弁に立った04年2月25日、石井議員はゴルフ場でプレーしており初答弁を知る方法はない。検察官の作文であることを推認させ、調書は信用性が低い。

 【村木被告から上村勉被告への指示の有無】

 04年6月上旬ごろ、元同省係長上村勉被告が村木被告に凜の会から発行申請や資料提出がないため、形式的な決裁ができないことを伝えて、村木被告が上村被告に決裁のないまま証明書を発行するよう指示した事実を推認させる証拠はない。

 自分の単独犯であると記載している上村被告の被疑者ノートは具体的で信ぴょう性は高い。取り調べの検事から「上村さんがうそをついていると思われてしまう」と孤立感を与えられて虚偽の自白に導かれた。

 【村木被告による証明書の交付の有無】

 村木被告が倉沢被告に証明書を交付した事実はない。

 倉沢被告の手帳には04年6月上旬に厚労省に出向くことの予定の記載がない。村木被告から証明書を受領したとする倉沢被告の証言は極めて不自然。いつ厚労省に出向いたのかという単純なことも証言が変遷し続けたのは、実体験がないことを示している。検察官への迎合性の強い倉沢被告が、検察官の要請に応じ、証明書を村木被告から受領したという点を維持した可能性は高い。

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