最高検が24日公表した厚生労働省文書偽造事件の検証報告書要旨

最高検が24日公表した厚生労働省文書偽造事件の検証報告書要旨は次の通り。

 【捜査の問題点】
 元主任検事の前田恒彦被告らは、公的証明書の作成が2004年6月8日から10日ごろと想定していたが、フロッピーディスク(FD)の情報では同1日に証明書データが完成しており、想定と合わなかった。
 前田被告は、1日はデータ作成日で文章を完成させた日と異なる可能性があり、データが証明書のもととなったとも断言できず、村木厚子元厚労省局長の関与を揺るがさず、今後の捜査で解明できると判断した。
 証明書作成の日時や状況は、村木氏の指示の有無および時期に直接かかわる極めて重要な問題点で、ただちに強制捜査に着手せず、捜査を尽くし逮捕の可否を慎重に検討するのが相当だった。現段階で証拠関係を冷静に検討すれば起訴すべきではなかった。
 村木氏の公判で、検察官調書の請求が却下された3人については、誘導等で客観証拠等と整合しない調書が作成されたと疑われるものが少なからず存在し、取り調べを反省すべき問題があった。
 前田被告は捜査指揮、証拠分析・整理、資料作成、上司への報告のほとんど全てを1人でしていた。FDなど証拠の問題点を他の検察官と共有せず、解決法を見いだせないでいたことがうかがわれる。消極証拠や供述の不整合などの問題点を上司に報告せず、決裁を得ようとする意識や姿勢に問題があった。
 前特捜部長大坪弘道被告は捜査会議を開くこともなく、元副部長佐賀元明被告に実質的な関与をさせず、重層的、組織的な検討をさせなかった。主要証拠の報告や提示も求めず、部下が消極的な意見を述べることを好まず、理不尽にしっ責することもあった。部下に消極証拠の報告をためらわせ、ひいては前田被告がFD問題を大坪被告に報告しなかった要因となった。
 検事正や次席検事は前田被告の報告書が不十分だったのに補充させず、消極証拠の有無や内容を報告させなかった。大阪高検や最高検もFD問題などを把握せず、捜査着手や処分を了承した。

 【公判上の問題点】
 改ざん判明後に徹底調査していれば、弁護人に改ざんの事実を明らかにする等の対応、場合によっては公訴の取り消しも検討されたと思われる。
  公判部長は改ざんの疑いを把握した以上、検事正から前田被告の公判立ち会いを指示された際、この問題に関する意見を述べるなど厳正な対応が必要だった。遅くとも論告までに調査等が実施されていれば、有罪を求めないなど適切な対応も検討されたと思われる。

 【改ざん、犯人隠避】
 検事による証拠改ざんは刑事司法の根幹を揺るがすもので断じて許されない。前田被告が、村木氏の関与がなかったと現実に考えていたと認めるのは困難。公判の紛糾や上司からのしっ責を避けるため改ざんをした。背景には、村木氏摘発が最低限の使命、と大坪被告から言われたことなどによるプレッシャーがあった可能性も否定できない。
  証拠改ざんを知った検事が隠蔽工作で犯人を隠避することは言語道断。検事正や次席検事は問題の重要性を軽視し、大坪被告らの「問題がない」との結論を安易に受け入れ、庁務をとりまとめる者の対応として問題だ。

 【再発防止策】
 (1)11年2月から、特捜部の独自事件は検事長が指揮し、最高検・高検に特捜係検事を配置する。
  (2)特捜部の独自捜査の身柄事件では、容疑者の取り調べの録音・録画を試行し、11年2月ごろまでに試行方針を策定、速やかに試行を開始する。
  (3)特捜部の独自捜査事件では、主任検事は上司や高検にすべての証拠書類、主要証拠物の写しを提出。証拠上の問題点や検討結果を報告する。
  (4)特捜部の独自捜査事件では、主任検事を総括的に補佐する検事を配置。消極証拠や証拠上の問題点を主任検事だけでなく上司にも報告する義務を負わせる。
  (5)特捜部の独自捜査事件で部長・副部長は、当初の見立てに固執せず、証拠に基づき変更し、引き返す勇気を持って、捜査からの撤退も含め適切な指導や決裁の在り方を周知徹底する。
  (6)公判担当検事は、捜査段階とは別の観点から証拠関係等を検討し、最終的に有罪判決を得ることが著しく困難と認められる場合等には、公訴取り消し等を行うべきか否かなどを検討する。
  (7)11年4月から順次、押収した電子データは複写物等を作成して原本を封印。内容の解析等は原則、複写物を利用する。
  (8)11年4月をめどに最高検に検証・指導担当の部署を設置し、再発防止策の実施状況の検証と必要な指導を行い、1年後をめどに検証結果を取りまとめて公表する。
  (9)公正な検察権行使に関する基本原則等を作成・公表し周知徹底する。
  (10)違法行為の発生への適正な対応を周知徹底。
  (11)検事の配置は、全国的な適材適所が重要な課題。11年の早い時期に結論を得るよう検討する。
  (12)取り調べメモの保管・管理の在り方につき、11年3月までに結論を出せるよう検討する。

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