New Media 2010年3月号より転載

FRONT LINE

プロップ・ステーションが
都立石神井特別支援学校の生徒に
「就労支援ICTセミナー」を開催

初めての「グラフィックソフト」体験

 正月明け早々の1月5日・6日の2日間、社会福祉法人プロップ・ステーション(プロップ)の東京・赤坂にある東京オフィスで、都立石神井特別支援学校高等部の知的チャレンジドの生徒6名を対象とした就労支援ICTセミナーが開催された。

 特別セミナーの内容は、初日が「Wordでイラスト」「PowerPoint」「WindowsLive フォトギャラリー」の3テーマ、2日目は「Web制作とグラフィックソフト」をテーマに、午前10時〜午後3時の4時間、しっかりと学ぶもの。

 生徒たちから「参加して良かったと思いました。勉強にもなりましたし、なにより楽しく学べました。2日じゃ短いような? もっと試したいことかが結構残っています」とか、「講師の人が、わからないことは丁寧に教えてくれたり、いろいろなソフトを使っていろんなことを教えてくれたので、この2日間はとても楽しく学べました」という感想が寄せられている。

 生徒を引率してきた同校の明石則雄指導主幹は「1年、2年の希望者で、彼らはWordやExcelを学んでいるPC好きなメンバーです。今回教えていただいたグラフィックソフトなど、今必要とされているPCスキルを教えられる教員も少なく、テキストやソフトの用意もできていないのが実状です」と話す。それをプロップの協力を得て、課外活動の一貫として取り組んだという。

 共同で開催したプロップの竹中ナミ理事長は「2日間会場でじっくりと拝見したんやけど、生徒さんたちが目をキラキラ輝かせて真剣に学ばれる様子に驚きましたし、出来上がった一人ひとりの個性的な作品は、とても初めてグラフィックソフトを扱ったとは思えないほどの素晴らしいできで、さらに驚きました」と話す。

 

できるところを伸ばして就労へ

 講師は、日本Web協会理事長で、サイト制作の草分けである森川眞行氏と、東京都障害者IT地域支援センターに所属する下澤恵子さん。そして生徒の学びを支援するサポーター6名が、東京都障害者IT地域支援センターから駆けつけるという体制で行われた。また、「Wordでイラスト」の講義用テキストはマイクロソフトが提供するなど、多くの企業の協力で行われた。

 初日の講師を務めた下澤さんは「まず操作してもらい、やりながら学んでいくという方法で進みました」と話す。2日目の森川さんは生徒たちに「グラフィックソフトを使う極意は、偶然できたものを大事にすること。それも才能なんだよ」と伝える。

 セミナーの様子を見ていた松山明弘校長は「これは教員も学びたくなる内容ですね」と話しながら、「教える立場の人が面白いという感覚になることが大事で、それを伝えるという新しいスタイルの講習のやり方に気づきました」と話す。

 森川さんは「他でやるときの講習会よりも5倍ぐらいのスピードで教えました。それでもどんどん吸収していきます。知的なチャレンジドたちをできない子供ととらえるのではなく、彼らの得意なところを大いに伸ばすことで就労も十分考えられます」と指摘する。

 

就労支援ICTセミナーとして拡充

 明石先生は「マイクロソフトのテキストを使うことができたのですが、こうした枠組みづくりは私たちにはできません。プロップさんの協力を得て初めてできました」と述べ、次に向けた課題として「テキストですが、教員ではとても作れない内容です。ただ、生徒たちの能力から言えば、ルビがある方がいいとか、実状に合わせた作り方も必要となってきますので、そうしたことを考えられるようなプロジェクトにしていくことが大事になるでしょう」と話す。視察した東京都教育委員会の担当者も「今後、ぜひ一緒に就労支援ICTセミナーを拡充していきたいと考えています。ぜひ、次に向けた取り組みを考えていきたい」と関心を寄せる。

 たった2日間のセミナー。そこでは生徒たちが「楽しい」「もっと知りたい」と願うものがあることがわかり、関係者には彼らの隠れた能力を引き出せる内容づくりに確信を得たセミナーとなった。次に期待したい。

(文:吉井勇・本誌編集長)

 

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