NEW MEDIA 2009年9月号より転載

講師+関係者座談会

KSCのねらいとプロが教える意味

講習初日の終了後、やり切った手応えが残る中、講師4名と主催関係者の座談会を行った。「KSCのねらいとブロが教える意味」をテーマに約1時間半、話し合ってもらった。
(レポート:吉井勇・本誌編集長、写真:石曾根理倫)

講師
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ハ木淳司   モロゾフ(株)テクニカル・ディレクター、オーストリア政府公認マイスター
西川功晃   神戸「プーランジェリー・コム・シノワ」シェフ
永井紀之   フランス菓子店「ノリエット」シェフ
野澤孝彦   ウィーン菓子店「コンディトライノイエス」

主催
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竹中ナミ    社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
川口淳太郎  (株)日東商会代表取締役社長
山田貴夫   日清製粉(株)営業本部第一営業部部長

 

開校式の写真
多くの関係者が参加した開校式

モチはモチ屋で粉は粉屋

プロップ・竹中(ナミねえ) 障害のある人たちの施設でクッキーやパンづくりが広く行われています。大体はチャリティとして買ってもらうレベルの取り組みが多い。私はほんまもんにせなアカン、そうせんと誰も欲しいと言って買ってくれないまま、福祉商売で終わってしまうんです。これを真剣なビジネスにしたいと考えたんです。

日東商会・川口 私は小麦粉の流通業者として、いろんな施設に粉を納めています。そんなこともあって食べる機会があるんですが、うまい!と思ったことはあまりありません。おいしくないのでは、何度も買ってもらえません。

ナミねぇ モチはモチ屋ということで言えば、粉は粉屋ということで日清製粉さんの応援も得て、ブロのパティシエに教えてもらい、プロの菓子職人を目指すチャレンジドを育てたいと考えてきたんです。

八木淳司ディレクターの写真
オーストリア製府公認マイスター、モロゾフの八木淳司テクニカル・ディレクター

八木講師 竹中さんの言うチャリティのようなお祭りで作っても、本当においしいスウィーツはできません。普段の生活から取り組んでいくものなんです。ですから、チャレンジド本人の努力も大事ですが、環境づくりも大事です。例えば、食品衛生法に照らして問題がないように設備や道具が揃っているかとか、製品の表示についても守るべきことがあるわけです。そこまでサポートして初めて「売れる商品」ができるのですから。

日清製粉・山田 その粉屋です(笑)。社会的な支援活動のお誘いをよくいただきます。そのとき考えるのは、どうしたら長くお付き合いができるかなんです。お金を出すことは簡単ですが、それで終わりになってしまいます。今回のKSCは、製粉業という本業で貢献するもので、長い支援ができると思っています。

ナミねぇ 本業での貢献という自然体の取り組みが大事やから。

川口 流通の立場で作業所や授産施設へ小麦粉を納めさせていただいています。そのとき気づいていたのは、少しでも安く仕入れようとか、いい材料が欲しいという声はあまりいただきません。どちらかと言えば、補助金を消化するようなことが多いと感じています。

ナミねぇ 悪口ではないんですが、障害者の施設は一般社会や一般企業が係わることが少なく、ある意味かけ離れたような常識がまかり通っています。KSCプロジェクトで、ホンモノのスウィーツを作ることで、こうした考え方を変えていくことができたらと思っているんです。

西川功晃シェフの写真
「プーランジェリー・コム・シノワ」の西川功晃シェフ

西川講師 それがチャレンジドを納税者にするということに繋がるんですね。

 

手を使う職業はもっと大事にされてよい

西川 テレビ番組でもスウィーツが注目され、業界が繁栄しています。そんなとき、自分たちのノウハウを社会的に還元していくことができたらと考えて、講師役を手伝っています。

野澤講師 プロのパティシエを相手にした講習会で、「何を作ったら売れるんですか」と数字ばかり追い求める考え方が増えてきているように
思います。KSCの講師を引き受け、受講生の真剣な眼差しにどうこたえていくか、それが求められていると感じているところです。

永井講師 お菓子作りを教えるということは、相手に障害があろうとなかろうと同じだと考えています。食いついてくる人がどれだけいるか、です。

永井紀之シェフの写真
フランス菓子店「ノリエット」の永井紀之シェフ

野澤 私は自分が使っている材料と同じもので、同じ価格で売れるものを作れるように教えていきたいと考えています。障害者の関係で講師を依頼されるんですが、多くが「クッキーを作っていれば」という考え方が強いんです。真剣に売れる、おいしいお菓子を作っていく力をつけてもらいたいのです。

西川 パンの講習会を開催したら、受講生の約3割のお子さんが障害を持っていて、なんかやらせたいという願いを持って参加されていたのです。あらためて考えさせられました。

野澤 手を使う職業はもっと大事にされてよいと思いますし、障害のある方にとって、もっとできることがあると考えています。例えば、全部を一人でする必要はなくて、それぞれができるパートを協力し合ってやるというのでいいん
じやないでしょうか。

野澤孝彦シェフの写真
ウィーン菓子店「コンディトライノイエス」の野澤孝彦シェフ

永井 今までこうした動きがなかったことが不思議です。ともかく始まったことに意味があります。当たり前のことがやれるようになったわけで、今後広げていくことも大事になるでしょう。

野澤 八木さんが話されたように、お祭り的にクッキーを作るのではなく、普段の生活から作っていくことが大事だというのは賛成です。プロというのは、一定の量を、同じ品質で作る能力を指すわけですから、KSCはそうしたプロを育てることを目標にしていくものと考えています。

 

食べ物を商売にするために法的にきちんとした対応も必要

野澤 八木さんはマイスターの称号をお持ちですが、ヨーロッパでは、マイスターというのは高校生の年代から預かって一人前に育てるわけで、人間教育も大事な役割です。そういう意味で社会に非常にコミットしている役割を持っていると思うんです。

八木 その務めも含め、総合的にこなすのがマイスターなんです。ヨーロッパで職人さんが尊敬されるのは、そのあたりなんでしよう。   先ほど野潭さんが話されたように、一人で何でもできる必要はありません。障害によって1日に4時間しか働けない場合、その時間を精一杯働いてもらい、最終的に最大の結果が得られるようにするのがチームとしての大切な役割です。

ナミねぇ 皆さんのお話をお聞きして、あらためてプロとしての矜持、生き方に打たれました。ホント、素晴らしいプロ意識を持つ皆さんに教えてもらう場が、チャレンジドたちにはなかったんです。そのトビラを開けてるんやと思ってます。

竹中ナミ理事長の写真
プロップ・ステーションの竹中ナミ理事長

八木 商売という点で言えば、まだまだ課題は多くあります。各施設で用意されている設備にしても、商売に耐えうるものは少ない。衛生面や法令対応でもプロがいません。そうした課題を−つずつ乗り越えていくことを、職員スタッフの方々と勉強していきたいと考えています。

山田 これまで皆さんのお話を伺いながら企業の立場で何ができるかを考えてきました。その一方で、組織人ですから素早い対応はしにくい面もあるなと思っていました。そういう意味で、じっくりと息長く取り組みながら、できることを見つけていくことが大事なことだと考えているところです。

山田貴夫第一営業部部長の写真
日清製粉の山田貴夫第一営業部部長

日清製粉・田子 飛び入りで意見を言わせていただき ます。第1期を手伝って感じたことは、新鮮なプロジェクトだということです。本業で貢献できる取り組みに手応えを感じており、社の幹部も関心を寄せています。ある意味、全社的な取り組みへ広がりつつあるのかなと思っています。

川口 私どものような小さな流通卸でも、社会的に貢献できることが見えてきました。そういう意味で、チャレンジド絵本作家のくぽりえさんがデザインしたロゴマークは意味深い。漢字とカタカナ、ひらがなの3つを組み合わせた日本語のトータルなメッセージなんてすから。

ナミねぇ いいこと言うね。たくさんの希望を、いろんな人の支え合いで確実に実現していく。これがKSCの考えです。よろしくお願いします。

川口淳太郎代表取締役社長の写真
日東商会の川口淳太郎代表取締役社長

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