京都新聞 2009年7月5日より転載

やすらぎトーク

プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミさん

不良の反骨と娘に導かれて

重い障害にも就労の機会を

ナミねぇ
「企業は在宅のチャレンジドにもっと仕事を出してほしい」 (写真・遠藤基成)

なぜ今こんなことをしているの、って聞かれたら、もと不良やからと答えます。家出を繰り返し、高校では退学を迫られて結局、学籍抹消です。16歳で家を出て男と一緒に暮らす、今から思えば一歩間違えば社会の闇に沈んでしまうような生活もしました。

 世の中のルールに乗るのが嫌い。こうせなあかんと決め付けられるのか嫌い。納得せんと動けない。

 「弱者」決め付けないで

 チャレンジド(障害のある人)、中でも重度の人は「かわいそうな弱者」と世の中から決め付けられています。重度の人の中に仕事をしたい、自分で稼ぎたいという人がいるのになんでや。持って生まれた不良精神が頭をもたげたんです。働きたいと思うあらゆる人が仕事ができる仕組みを社会に根付かせたい、それが夢です。

 《そのパワフルな語り口と行動力でニックネームは「ナミねぇ」。プロップ・ステーションは1991年に設立、98年に社会福祉法人になった。プロップはスクラムを支えるラグビーのポジション名だ。障害かある人が就職することで自らも社会の一端を担い、障害がない人とお互い支えあう存在を目指す。支える人=障害がない人、支えられる人=障害がある人という固定的な線引きをなくす願いが名前に込められている》

 私には36歳になる娘がいます。生後まもなく重度の脳障害があることがわかりました。父が「わしが連れて死ぬ」と、真剣に言いました。何で死ななあかんのか。こんな日本はおかしい。変えなあかん、いや変えたるって思いましたね。

 不良の原因にもなった反抗心が娘を授かることで、娘と一緒に生きる前向きのエネルギーにつながった気がします。

 《離婚を経験するなど道は平たんではなかったが、娘の存在を通して多くの障害者と出会う。世間では何もできないとされる重度の人の中に自立して仕事をしている人もいた。そんな一人が「これからはコンピューター時代や、情報通信技術(ICT)でつながればみんな働けるようになる」と言ったのがプロップ・ステーション誕生につながった。現在では神戸と東京に拠点を置き、京都など各地でコンピューターセミナーを開催、自立や就労に向けてメールなどで相談を受けるだけでなく、医療機関や行政など関係機関との調整、在宅でできる仕事のコーディネートもする》

麻紀&ナミねぇ
「この子のことを絶対マイナスにはしないと誓った」という娘の麻紀さんと (竹中さん提供)

 私はコンピューターは今でも苦手、誰にも負けない強心臓と口があるので営業を引き受けました。幸いだったのは草創期で情報技術関連企業の経営者も若かったこと。「障害がある人が使いやすいコンピューターや技術は一般の人にも使いやすいはず。私たちに協力すると思わず、先行投資だと考えて」などの説得に耳を傾けてくれました。

 マイクロソフト創業者のピル・ゲイツさんにも会って協力を頼みました。好意的でしたね。開いた講座にも一流の人を企業から派遣してもらい、プロの技術を身につけてベッドの上から起業したり、感性を生かしたアーティストになったり、仕事をする重度の人が増えています。

  《竹中さんは障害者と言わず、「チャレンジド」と呼ぶ。米国で生まれたこの言葉は、挑戦する使命やチャンスを与えられた人という意味で、障害を前向きにとらえる。竹中さんは「チャレンジドが仕事を得て納税者になる社会」を提唱、障害者自立支援法づくりにもかかわった》

  「応益負担」などに批判はありますが、支援法が「就労」という理念を導入したのは正しいと思っています。「障害者に税金を払わせろ」と言っているのではなく、税金を払うことが可能になる社会にしたいんです。1割負担が問題になっていますが、1割負担ということは9割は社会が、みんなが支えるということです。「負担せよ」「しない」で争っては、1割負担の人と9割負担の人が分断されてしまう。双方がいい関係を築くために、だれでもI割負担ができる社会にしたい。

 ユニバーサル社会実現

チャレンジドが挑戦するのは、みんなが住みやすいユニバーサル社会実現です。先端技術を生かしたりして重度の人たちが住みやすい世の中になれば、増え続ける高齢者や多くの人を助けることになります。重度の人たちは人助けの「タネ」をいっぱい持っています。それを実現する一つのモデルケースがプロップ・ステーションです。

 世の中の常識から外れたことは、それが実際に起きないとみんなは納得しません。わたしは、娘を残して安心して死ぬために、それを起こしたいんです。

 

 たけなか なみ 1948年神戸市生まれ。今年米国大使館から「勇気ある日本女性賞」を贈られた。著書に『ラッキーウーマン〜マイナスこそプラスの種」(飛鳥新社)、「プロップーステーションの挑戦」(筑摩書房)。

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