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大阪市立大学Human38号 2004年4月より転載

 

 
 

特集1 情報化社会と人権

 
 
ITが拓くチャレンジドの可能性
 
 

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
竹中 ナミ

 
 

 


竹中ナミの写真 プロップのこの10年の取り組みの中で、介護や介助の必要なチャレンジド(障害を持つ人)がITを活用して働く、ということが夢物語ではなくなろうとしています。プロップの活動そのものを担うチャレンジド・スタッフの多くも在宅で、あるいは施設で介護を受けながらブロードバンドによるTV会議システムやインターネットでのブレーン会議を行いながら仕事を進めています。

 ブロードバンドは大容量の通信回線なので、画像と音声と文字が同時に双方向にやりとりできますから、文字でのコミュニケーションを必要とする聴覚障害のチャレンジドと、音声でのコミュニケーションを必要とする視覚障害のチャレンジドがリアルタイムに「交流」できます。また外出が困難な人も、書類をオフィスに居るスタッフと同時に確認しあいながら仕事を進めることができます。またブロードバンドを使っていないチャレンジドが多いことと思いますが、実は日本のブロードバンドの使用料金は、今や世界一の低廉な価格になっていますから、在宅ワークを目指すチャレンジドは、ぜひ検討して欲しいと思います。誰かにどうにかしてもらうのではなく、チャンスの前髪を掴むのは、チャレンジド自身がどれだけ「情報のアンテナ」を張っているかにかかっていると思っています。

 プロップがチャレンジドの在宅ワークを推進することが出来たのは、最先端の技術とその情報を持つ多くの企業と連携したり、研究者の協力を戴いたことによります。チャレンジドがプロを目指す時、プロから学ばなければ本当のプロにはなれません。趣味程度の人に学んだ技術は、残念ながら趣味程度にしかならないというのは厳然たる事実です。日本のチャレンジドはアメリカやスウェーデンと違い、高等教育のチャンスから遠ざけられて来ましたが、そのことを嘆くだけでなく、自らを積極的に磨く努力が必要です。自らも努力をしながら、チャレンジドのマイナスの部分にのみ着目した教育制度、雇用政策、福祉政策を皆で、力を合わせて根底から変えて行きたいとプロップは考えています。

 スウェーデンやアメリカや英国では30年以上前から「チャレンジドを誇りある国民の一人として位置づけ、納税者にすることを目指す政策」をとってきました。つまり、障害を個人の問題にとどめるのではなく、「社会の有りようによって障害を障害でなくすことが福祉政策である」と位置づけてきたんですね。とはいえ、意識と制度はいつも「コンニャクの表裏(うらおもて)」ですから、国民の意識が変わらなければ社会制度も変わりません。「主権在民の国家では、国民自身の責務であり権利」ですから、私たち国民自身が様々なアイディアを出し、成功モデルを生み出すことが制度を変える一番の早道だと私は思っています。

 プロップは多くの公務員さんたちとも連携しています。それは、多くの制度が金属疲労を起こしている「今」という時代を変えなければならない、と考える公務員が増えなければ、NPO/NGOの活動も成果を上げることは難しいと思うからです。「官民対決」から「官民がお互いの役割を果たしつつ連携する」ことが、変革のスピードアップに繋がります。チャレンジドの就労促進を例に取るなら、プロップのような「チャレンジドと在宅ワークを繋ぐ(コーディネイトする)機関」が全国各地に増えれば、あるいは「通勤勤務を前提とした障害者雇用率制度の改革(たとえば雇用率未達成企業は国に罰金を払うのではなく、チャレンジドに仕事をアウトソースする制度を造る、など)」を行えば、多様な働き方に対するバックアップとなるでしょう。新しい制度を、官民の総合力で造り上げて行かなければならないと思います。

 企業と役所と民間の現場が、お互いの得意分野を認識し合って連携する、というスタイル(あるいは戦略)が、新しい民主主義を創造する時代になりました。チャレンジドが「障害者」という枠に囚われずに、「ぼく」「わたし」そして固有名詞で活躍できる社会を一日も早く生み出すために、これからもプロップは広範な人たちと連携して活動を続けたいと思っています。

 



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