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NEW MEDIA 2003年8月号より転載

     
 
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「福祉就労の場を本当の働く場に!」
〜神戸で産官民連携のプロジェクトが始動〜

 
     

モノづくりで自立を目指す障害者の授産施設や小規模作業所を、「売れる商品」にして全国にカタログ販売する――。そんな全国初の取り組みが動き始めた。大手通販会社「フェリシモ」、障害者の就労を支援する社会福祉法人「プロップステーション」、兵庫県、神戸市の4者が進める「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト(CCP)」だ。5月19日にフェリシモの本社(神戸市)で開かれた作品展示会では、応募した作業所や授産施設の関係者ら約200名が集まり、プロジェクトに対する熱い期待が聞かれた。
(構成・写真:中和正彦=ジャーナリスト)

 


マスコミも多数集まった展示会場では、アトリエ関係者が他のアトリエの応募作品も熱心に見て回り、意見交換や情報収集に努めていた
CCPのカタログ掲載商品第1号になった「クッキー」と「さをり織り」(写真提供:フェリシモ広報)

 


苦戦する福祉就労の場を
不況とデフレが追い討ち

 「実は、兵庫県は平成14年に、個々の作業所や授産施設をつないで受発注を効率化するプロジェクトを立ち上げたのですが、なかなか広がりを見せませんでした。それが今回、フェリシモとプロップとの連携によって、全国の消費者に直接訴えかける試みへと新しいシステムが生まれました。皆さん、手を取り合って一緒に育てて行こうではありませんか」

 挨拶に立った井戸敏三・兵庫県知事は、そう力強く呼びかけた。「官主導」の限界を認めて「産官民連携」への期待を語った背景には、厳しい現実がある。

 作業所や授産施設では、企業への就職が困難な障害者が少しでも収入を得ようと、食品や生活雑貨などの生産・販売に勤しんでいる。しかし、真面目なモノづくりの魅力はあるものの、商品の企画・開発・販売いずれも企業のようなノウハウがないため、多くは苦戦している。売り上げから得られる収入だけで経済的に自立できる人は、まずいない。
しかも、近年はそんな実情に不況とデフレが追い討ちをかけているという。今回のプロジェクトに応募して展示会に出展した作業所や授産施設の利用者やスタッフからは、こんな声が聞かれた。

 「売り上げは減る一方で、今では良かった時の半分です。私たちの工賃は売り上げ次第なので、みんな何とかしなければと思っているのですが、妙案がありませんでした」(陶器を作る車椅子の女性)

 「100円ショップの商品とバッティングしてしまったところも多くて、そういうところは本当に大きな打撃を受けているんです」(授産施設のスタッフ)

 


作業所と行政の限界を
企業がNPOが打ち破る!

 作業所や授産施設の経営基盤はただでさえ脆弱で、ほとんど県や市からの補助金に大きく依存している。自助努力で活路を見いだせないまま、経営が悪化していけば、「もっと補助金を」という悲鳴も上がる。しかし、行政もまた財政難で、今後、補助金の増額はおろか、現状維持も厳しくなっていく。関係各方面に働きかけて販路拡大などを支援するにしても、県や市という行政区域内に限定される。

 CCPは、個々の作業所や授産施設の自助努力でも行政の支援でも見いだせなかった活路を、初めて提示して見せたプロジェクト。知事に続いて挨拶に立った矢田立郎・神戸市長の言葉には、そこに対する期待のほどがよく現われていた。

 「今回のプロジェクトは、作業所や授産施設の商品の販路を、カタログを媒介にしてメガマーケットに広げるということですから、これはもう革命です! 今後は、『チャレンジド』(挑戦すべき課題を与えられた人々)の精神で多くの人々の信頼と評価を得て、『納税者になれる』という世界が開けてくるものと思います」

 矢田市長の言葉は、プロップステーション・竹中ナミ理事長が唱えてきた「チャレンジドを納税者にできる日本」という理想への共感を込めたものである。CCPは、昨年、市長が地元各界のリーダーの意見を開くために催している会で、竹中理事長とフェリシモの矢崎社長が出会ったことから生まれたという。

 


市川熹氏、秋山岩生氏、金子楓氏の写真
矢崎社長と竹中理事長は神戸2005年に向けた夢を尽きることなく語り続けた 竹中理事長、矢田市長、井戸知事、矢崎社長(写真左から)は、4者間の惜しみない協力体制を誓い合った

 


バリアがなかった
神戸での産官学連携

 プロップステーションは12年前、重い障害を持つ人が仕事に就くための手段をITと見定め、その道のプロが教える教室を開催。その後、産官学の支援を集めて、実際にIT関係の仕事を得るチャレンジドを多数輩出してきた。竹中理事長は近年、「このやり方で、作業所や授産施設でモノづくりをしているチャレンジドも、福祉就労から本当に自立できる就労のレベルへと持っていけないだろうか。商品企画や販売のプロが協力してくれたら絶対にできる」との思いを募らせ、協力企業を探していたと言う。

 一方、フェリシモは、阪神淡路大震災の後、経済復興に貢献すべく本社を神戸市に移転させた歴史がある。「あの時に事業観が変わりました。事業には収益性や独創性とともに、社会性が必要ということを強く意識するようになりました」矢崎社長の下、ユネスコとの協働などさまざまな社会貢献活動を行ってきた。

 「こうそうしているうちに、『ユニバーサルデザイン』という概念に出会いました。深い関心を持っていた女性社員を中心にチームを作って、『このテーマで何ができるか』を検討し始めました。竹中さんにお会いしたのは、そんな時でした。ですから、例えて言えば、われわれは『問題意識』という“油田”は持っていた。そこに、ナミねぇ(竹中さんの愛称)に火をつけていただいた」(笑)

 矢崎社長がそう語ると、聞いていた竹中理事長が「どうりで燃え方がすごかった」(笑)と応じた。

 昨年6月にフェリシモとプロップステーションの間でプロジェクト立ち上げの合意が成立すると、話はトントン拍子で進み、兵庫県と神戸市も協力要請を快諾。今年1月には、4者協働によるCCPが正式に発足した。県と市は名前だけの協賛や後援ではなく、補助金でつながる作業所や授産施設に対して、自らプロジェクトのPRを行った。

 これに対して、3月の応募締め切りまでに70団体から参加表明があり、展示会には46の「アトリエ」(CCPは参加した作業所や授産施設をこう呼んでいる)から寄せられた110点以上の応募作が並んだ。そして、6月にはCCPによる商品の第一弾として、「クッキー」と「さをり織り」作品が通販カタログに掲載された。

 


震災10年の2005年に向けて
神戸から目が離せない

 2つの商品は、応募作から選ばれたものではない。さまざまな作品を寄せたアトリエに対して、フェリシモの担当者が潜在力を見極め、「売れる商品」にするためのやり取りを重ねて商品企画を練り上げ、それに基づいて複数のアトリエが生産することになっている。矢崎社長は、きっぱりと「これは慈善事業ではありません。営利事業です」と言い切る。

 「この事業で弊社がすぐに利益をいただくことは難しいと思いますが、いずれ必ず軌道に乗せて、利益をいただけるようにします。利益を上げてこそ続けていける。その循環でお互いに発展していけるのを理想と思っています」

 対するアトリエ側も、「このままではジリ貧」という危機感ゆえに、意欲は高い。売り上げが良かった時の半分まで落ち込んでいると語った前述の車椅子の女性は、続けてこう語った。「販路を拡大でできそうな話には、とにかく食いついて行こうと思って応募しました」

 また、企業就職が難しい障害者のための就労の場を、あえて「作業所」ではなく「企業」として設立したという人も参加していて、彼女はこう語っていた。

 「私たちは、福祉を売り物にせず、『障害者が』を枕詞にせず、というポリシーでやってきました。『障害者が作ったものだから買ってあげよう』という善意に期待するだけでは展望は開けないですし、『売れないと潰れるんだよ』という危機感を持たないと、いいものはできません。生きていく力もつきません。こういう企画を考える企業なら、私たちとも取引していただけるのではないかと思って応募しました」

 10年前には考えられなかった意識の変化である。

 2005年、神戸は震災から10年を迎える。竹中理事長は、自らは主宰する情報発信の場「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」を、この年、神戸で開催することを決めたという。
さまざまな社会貢献活動に取り組む矢崎社長も、2005年に向けたプロジェクトを進めているという。当然、CCPはその一つの目玉になる。

 2005年という目標に向かって産官民のパワーが結集し始めた神戸は、そうしたパワーの結集なしには進まない「チャレンジドの就労」問題でも、大きな成果を発信することが期待できそうだ。

 



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