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産経新聞 2002年11月2日より転載

     
  自らの手で誇りを  
 
 
  from  


 プロップの海外連携機関に米国防総省のCAPという組織がある、と以前書きましたが、CAPの理事長はダイナー・コーエンさんという女性です。彼女は自身が難病のチャレンジド(障害を持つ人)であり、ご両親も介護の必要な難病です。彼女との出会いは、3年前にシアトルで開催された「テレワークの国際会議」でした。

 その会議の「チャレンジドのテレワーク」というセッションの講師がダイナーさんで「なぜ国防総省の人がチャレンジドに関わる講演をされるのだろう?」という疑問から、彼女のセッションに参加したのですが、彼女の講演を聴いて氷解しました。「CAPでは、最高の科学技術を駆使して、最重度のチャレンジドを“働ける人”に育てます。彼らは優秀な政府職員として国家に採用されるのです」。さらにダイナーさんはスッと背筋を伸ばして「すべての国民が誇らしく生きられるようにすることが、国防の一歩なのです」と。

 日本は今、拉致問題を通して、「国民と国家」「国防と国益」などという、今まで不思議にもタブーとされてきた「言葉」を口にするようになりました。拉致された人たちの帰国までに20年以上もかかったのは、戦後の日本がこれらの「言葉」をタブー視してきたからに他ならないのではないかと、私は考えています。タブー視してきたすべての人が、真摯(しんし)に反省し、そして毅然(きぜん)としてこの国家的犯罪に立ち向かわなければ、日本人に未来はないのだ、と思います。

 CAPを訪問した時、ダイナーさんが「私はCAPの理事長だけど、ペンタゴンの組織上の上司が居るのでぜひ会ってちょうだい」と言われました。ドアが静かに開いて、入って来られた方は電動車いすに乗った女性でした。温かい笑顔と強い光をたたえた瞳、マヒした細い腕を緩やかに上げて、彼女は私に握手を求めました。「自らの手で、自らの誇りを取り戻す運動を続けよう」と、その日私は、改めて決意したのでした。

 

竹中ナミ
(たけなか・なみ=プロップ・ステーション理事長)

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