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ガバナンス 2002年10月より転載

     
 
チャレンジドが「福祉」を変える!
 
 
 
 
第11回 しなやかな女性パワーを発揮するために
 
     


 最近、日本でも女性の権利の拡大と地位の向上が本格的に図られるようになってきました。雇用機会均等法や男女共同参画基本法が制定されて、意欲と能力に溢れる女性たちが社会のなかで活躍できる足掛かりをつかんだことは本当に大きいと思います。

 三重県の北川知事は、県庁で職員の方々たちにこう言うそうです。「残業をするな。夜の飲み会で役所のものごとを決めるな。そういう働き方を当たり前にしているから女性が昇任できへんのや」と。けだし名言だと思いますね。

 これまでの「男性は外で働き、女性は主婦として家庭を守る」という性的役割分担の価値観を変えていくことは、働く女性たちにとっても大きな課題のひとつでした。「男社会」では、仕事に必要な情報交換も、5時までのフォーマルな時間のなかだけで行われるわけではないのです。むしろ、5時以降のインフォーマルな時間のなかで仲間意識を培い、情報交換し、意志決定に及ぶこともあります。でも、これだけが主流では、働きつつ家庭を守ることを求められた女性は参画しにくいですよね。

 この場合、「自分の可能性を広げたい」と考える女性の選択肢は2つです。ひとつは、自分の仕事のやり方をこれまで男性がつくり上げてきた働き方・価値観に合わせていく方法。もうひとつは、新しい働き方を生み出す道です。もちろん、どちらかだけを正しいわけではなく、道を選べなかったことが女性の意欲を狭めてきたと思えるのです。

 私は、東京工科大学メディア学部長の清原慶子先生の考え方にひとつのヒントがあるような気がしています。慶子さんは今年のCFJ岩手大会の打ち合わせをしているところ、ちょうど学部長になられたんです。

 私が「おめでとうございます」と言うと、返ってくるのは「若い研究者たちに気持ち良く働いてもらうために、私はなにをすべきか」という話ばかり。先生は類いまれなコーディネート能力を持った方ですが、与えられた地位でその力をさらに発揮するにはどうすべきなのかを懸命に考えているのです。男性ですと、「偉くなって嬉しい」という雰囲気が滲み出てきがちなところですが、彼女にはそれがない。慶子さんが持っているのは、「新しい方針を立て、部下に指示・命令し、業績をこう示そう」というこれまでの「男性的」な意欲ではなく、いかにしたら自分が若い人たちの力を引き出せるかという、調整役への意欲なんですね。しなやかなパワーというか、はっきり言って、私は先生に素晴らしいオーラを感じました。

 大事なことは、職場の階層・秩序のなかに「生活の知恵」を持ち込んでいるということです。家庭や地域で、世代や性別、さまざまな価値観を持つ人々が仲良く暮らせるコーディネート力を研ぎ澄ましてきた女性たちの知恵を仕事に生かす。そのことによって職場を働きやすくし、活性化させていく。これからはこういう力を備えた女性が社会で地位を高めていくのではないか。慶子さんは、私たちにそう教えてくれていると思うんですね。

 2つの選択肢を前に、溜め息をついている女性の皆さん。いや、女性ばかりでなく男性の皆さんも、別の新しい生き方、働き方を始めてみる方が楽しいと思いますよ、きっと。


たけなか・なみ 
1948年、神戸市生まれ。娘が障害をもって生まれたことをきっかけに、以後30年にわたっておもちゃライブラリ運営、肢体不自由者の介護をはじめ、各種のボランティア活動に携わる。91年、コンピュータとインターネットを利用したチャレンジド(障害者)の自立と就労を支援するNPO「プロップ・ステーション」を立ち上げ、99年、社会福祉法人格を取得、理事長に就任。その活動には行政をはじめ経済界、研究者の間でも支援の輪が広がっている。著書に『プロップ・ステーションの挑戦−「チャレンジド」が社会を変える』(筑摩書房)。

社会福祉法人 プロップ・ステーション 
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