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CLAIRIERE 2002年10月号より転載

     
 
チャレンジド・ジャパン・フォーラムと
岩手の挑戦
 
     
 
 
 
 

岩手県知事  増田 寛也

 「チャレンジド」−障害者を、「挑戦」という使命、課題あるいはチャンスを与えられた人という意味を込めてそう言い表す。「チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)」は、社会福祉法人プロップ・ステーション(理事長・竹中ナミ氏)が、ITを活用したチャレンジドの誇りある自立を目指し、1996年から民・産・学・官の連携のもとに開催しているものである。今年は第8回大会として8月27日と28日の2日間、盛岡市内で開催された。

 私とCJFとの出会いは、浅野知事に誘われて参加した第5回の宮城大会に遡る。「チャレンジドを納税者に」という斬新で力強いメッセージに共感と感銘を受けて参加したのが始まりである。

 宮城大会には、私のほかにも「第8回CJF 2002 in いわて」のキーパーソンとなる人々が参加していた。自身がチャレンジドであり、「盛岡・マニラ育英会」を設立し国際ボランティアに携わっている村田知己さん(実行委員長)と多彩な活動を展開しているボランティア団体「アクセシブル盛岡」代表の石川紀文さんである。大会準備には彼らのほか、ピアカウンセラーとして活躍している大信田康統さん、障害者110番の相談員として24時間奔走している長葭千恵子さんらが加わり、熱意と強い求心力で周囲を引き付け、開催まで漕ぎ着けたと言っても過言ではない。

 開催当日の岩手は熱気に包まれた。会場は県内外からの参加者で埋め尽くされ、冷夏に見舞われた岩手が暑さを呼び戻したかのような錯覚を覚えた。今回のフォーラムでは、2日間で延べ千人を超える参加があり、県民の関心の高さが窺われたが、この中に中学生や高校生、大学生の若い参加者やボランティアが多く含まれていたことも、岩手大会の大きな特徴となった。

 大会の成功は、プロップ・ステーションや村田実行委員長をはじめとする実行委員の方々、ボランティアで駆けつけていただいた出演者の皆様、協賛社やボランティアの皆様の御尽力と支援の賜物である。改めて感謝を申し上げたい。

 今回のフォーラムのテーマは「イーハトーブ・by・チャレンジド〜熱い思いと巨きな力」である。イーハトーブとは、岩手が産んだ偉大な詩人・宮澤賢治が名づけた理想郷のこと。「チャレンジドが担い手となった理想郷づくり」と「熱い思いを社会変革の大きな力に」という思いが込められている。

 私は岩手のCJF開催の意義の1つを、環境や資源が整備された都市からではなく、環境や条件が不十分な地域にあっても、着実に自立の道を歩んでいるチャレンジド像を全国に発信できたことにあると考えている。地元のチャレンジドが「現在の岩手は、経済、福祉などの面で全国から見れば進んでいるとは言えないが、これから発展の速度を体験できる楽しみがあり、私たちがこの時期に存在していることに大きな意義がある。」と発言し、拍手喝采を浴びたが、私は岩手県人の誇りと大らかさ、そして時代を的確に読む鋭い視点に岩手の未来を心強く感じた。

 フォーラムでは、宮城県の浅野知事、三重県の北川知事、大阪府の太田知事、和歌山県の木村知事から各県の積極的な取組みが語られた。また、各セッションに参加した企業や学識経験者、チャレンジドの方々からさまざまな意見や提案が述べられた。「補助金ではなく仕事を」という言葉も何回か口にされた。チャレンジドが行政に望んでいるのは、可能性を広げ、誇りを持って自立して生活できる環境の整備であることを痛感している。

 岩手県では、チャレンジドが人間として尊厳を持ち、自らの力で社会のあらゆる分野に参加し、自己実現を図ることを目指し、昨年「岩手県障害者プラン」を策定した。この具体的な取組みの1つとして、今年度から「チャレンジド就労支援事業」を展開し、チャレンジドのITを活用した職業能力の開発、職場実習、就職という自立のステップを各段階で支援している。

 岩手には「結」という相互扶助の精神が、脈々と現在に伝えられている。老若男女、障害の有無にかかわらず、できる場面、できる機会にすべての人が支え合う、そうした風土が息づいている。CJFを開催して、改めて新しい岩手づくりの礎は、この「結」の思想が一つの柱になると感じている。

 今後、県民各層の理解と協力を得ながら、市町村や企業等の事業者と連携し、「チャレンジド」の自立支援に積極的に取り組んでいきたい。岩手がすべての人にとって理想郷となることを目指して。


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