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● プロップ・ステーション
プロップ・ステーションは、1998年に社会福祉法人として認可され、コンピュータと情報 通信を活用してチャレンジド(障害者)の自立と社会参画、特に就労の促進と雇用の創出
を目標に活動している。
ホームページ
http://www.prop.or.jp/
● 竹中ナミ氏
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。重症心身障害児の長女を授かったことから 独学で障害児医療・福祉・教育を学ぶ。1991年、プロップ・ステーションを設立した。現
在は各行政機関の委員などを歴任する傍ら、各地で講演を行うなどチャレンジドの社会参 加と自立を支援する活動を展開している。
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プロップ・ステーションでは、全国各地の在宅ワーカーたちが日夜コンピュータに向かい仕事に励んでいる。その内容はデータベースの開発から翻訳、コンテンツ制作、DTP業務までとじつに幅広い。今回は進行性の筋ジストロフィー症と闘いながら、チャレンジドの先駆けとして頑張る一人の在宅ワーカーを紹介する。
個人の領域を超えよう
つい最近まで日本の教育課程では、障害を持つ人は別扱いをされてきたという経緯がある。その結果、基礎学力に乏しく、切磋琢磨や競争を含めた社会的な経験をするチャンスが障害者には与えられないのだと、プロップ・ステーション理事長のナミねぇは話す。
プロップのセミナー受講者の一人、中内幸治さんは数少ない会社勤務の経験がある在宅スタッフだ。大学卒業後、将来を見越してソフトウェアハウスに就職。闘病生活をしながら、SE(システムエンジニア)として第一線で活躍した。
「彼は特別向上心の強い人なんです。SEという職種はプログラマーと違って総合的に物事を判断する目が必要でしょう。実際に企業に10年以上勤めていましたから、クライアントが何を言わんとし、何を求めているかということを的確に判断できます。現在はプロップの開発系の要としてネットワーク管理などを担当してもらっていますが、バランス感覚がええから安心して任せられます」(ナミねぇ)
社会経験の少ない若い重度のチャレンジドにとって牽引役であり、また良き相談相手として中内さんを慕う人は多い。
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――ソフトウェアハウスを就職先として選んだ理由は?
中内 発症したのは17歳で、大学卒業の頃はまだ歩くこともできましたが、病気のことを考えると10年、20年先は頭脳と指先で勝負できるSEの仕事を目指したんです。
――プロップとの出会いは?
中内 杖を使い、やがて車椅子を使うようになり、仕事以外の生活にとられる時間が増えてきました。そこでいったん会社を辞めて、本格的に在宅で仕事をすることを考え始めたんです。インターネットでプロップを知ったのですが、それ以前に“老人介護保険”がテーマのバリアフリーフォーラムに参加しました。そこでナミねぇと出会うわけですが、のっけから「私は老人介護保険のことはまったくわかりません」って始まったわけです。えらい心臓の強い人やなって(笑)。
――その後、プロップのセミナーを受講されたわけですね。
中内 はい。Accessのデータベースソフトの講座を受講したのですが、システムとともにメールでの勉強方法も学びたかったんです。内容はプロ志向で、レベルの高さに驚きました。プロップのセミナーは、与えられた試練をどう乗り越えていくかが試される厳しい現場なんです。
――ITに関して言えば個人の向き、不向きがあると思えるのですが。
中内 たとえばプログラムなど論理的な思考が苦手な人は、感覚的なアートの世界を目指すこともできます。それを見極めて、自分なりにITをいかに活用するかではないでしょうか。
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――現在は在宅でどのような仕事をされているのですか。
中内 大阪府下の養護学校をネットで結び、情報教育を支援するプロジェクトのサーバーシステム管理を担当しています。先生方の情報交換やスキルアップの場として、また教材ソフトの提供を通じて生徒の教育に役立てばと願っています。また、そのホームページを通じてプロップの在宅ワーカーに仕事をコーディネートする役目も担当しています。
――これから在宅ワーカーを目指すチャレンジドにメッセージを。
中内 個人的に在宅で就労しようと考えている方も多いようですが、個人でやる以上、個人の領域を超えることは絶対にありません。多くの人や組織に積極的に関わって、失敗をおそれず数多くの経験を積むことが大事です。
――今後のビジョンを聞かせてください。
中内 プロップでの実験的なプロジェクトを通じて、ネットワーク管理やコーディネートを担当するなかで、20代、30代の若いチャレンジドを見出したいですね。そして次世代の彼らが少しでも仕事のしやすい環境を作る手伝いをしたいです。
産官学がスクラム組んで
プロップ・ステーションが取り組み、中内さんがシステムを担当するプロジェクトとは、大阪府下の全養護学校をコンピュータでつなぐというもので、大阪府とプロップが連携して2000年1月から実施している。
「中内君を車で送迎して、大阪府下の38校を各校の協力のもとに訪問させてもらったんです。私が趣旨を説明する傍ら、彼がPCの機種からシステム、技術面までを詳しく調査して資料を作ってくれました」(ナミねぇ)
実際にスキルの高い担当者のもとでITを十分に活用していたのは、わずか4校ほど。ハード、ソフト両面の充実が必要であることを痛感したそうだ。その調査をもとに生まれたのが「OPEN」(Osaka
Prop Education Network)である。
「このプロジェクトに対する政府の交付金は労働力に対しての支給でしたので、コンピュータやソフトウェアなどはプロップを支援していただいている企業に寄贈したんです。各校の先生方に協力していただき、パソコンの設置や接続、アドレスの発行、ネットワークの構築などが実現しました。まさに産官学がスクラムを組んで誕生したネットワークですから、これから何ができるか本当に楽しみです」(ナミねぇ)
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