NEW MEDIA 2009年9月号より転載

編集長レポート

パティシエを
目指すチャレンジド(障害のある人)を
プロ基準で指導

「スウィーツの世界で活躍するチャレンシドを生み出そう!」と昨年6月にスタートした神戸スウィーツ・コンソーシアム(KSC)の第2弾となるプログラムVol.2が6月から東京で始まった。8名の受講生と、第1期修了生の特別受講生1名の計9名がパティシエを目指して、日清製粉・加工技術センターを会場に、一流のプロからお菓子作りの技を学んだ。
(レポート:吉井勇・本誌編集長、写真:石曾根理倫)

 神戸スウィーツ・コンソーシアム(KSC)は、神戸の街が小麦粉の輸入港であり、外人の手でスウィーツが広がった「スウィーツの聖地」であることから、プロップ・ステーションの竹中ナミ理事長が日清製粉、日東商会と共同でスタートさせたプロジェクトである。プロップ・ステーションは障害者を「チャレンジド」と呼ぶことを提唱し、「チャレンジドを納税者にできる日本」と訴える神戸を拠点にする社会福祉法人である。

 これまでIT技術を身に付ける講座を中心に、在宅就労などの道を切り開いてきたが、昨年6月からパティシエを育てるKSCをスタートさせた。そのねらいについて、「障害はマイナスと考えられてきたが、彼らの豊かな能力をもっと世の中に発揮してもらうことが大事。作業所などでクッキー作りが盛んですが、「おしいいから買うねん」というホンモノの菓子作りを目指す必要があると考えたからです」と竹中理事長は説明する。

 第1期の修了生で、今回特別受講する神戸の「カフェぽてと」で慟く内海友人さんは「学んだ3つのスウィーツを販売していますが、おいしいと言って買ってもらっています。喫茶店をやりたいという私の夢の実現に一歩近づきました」と、自信を得た表情で話す。
  KSCの開催に協力している日清製粉の佐々木明久取締役社長は、「製粉の本業で支援できるプロジェクトであり、息長く取り組むことができますjと述べ、「福祉関係者も行政も、そしてメーカーも流通業も協力して、チャレンジドが本当に能力を発揮できる取り組みにしていきたい」と訴える。

 KSCはプロ中のプロのパティシエが教える。第1回の講師を務めたモロゾフのテクニカル・ディレクターハ木淳司さんはオーストリア政府公認「製菓マイスター」の称号を持つ数少ない日本人パティシエ。「おっかなびっくりの手探りで始めましたが、想像以上の熱意に励まされました」と話す。第1回では助手を務めた神戸「ブーランジェリー・コム・シノワ」シェフの西川功晃さんは、「ハ木さんの材料から技の基本までを説明する進め方は納得がいくもの。私はパンづくりを教えます」と意欲満々。東京・下高井戸でフランス菓子店「ノリエット」を開く永井紀之シェフは「自分の子どもに障害があり、我が子だけでなく社会的に協力したいと考えていました。自分のやってきたことが役立つなら」と話す。横浜のウィーン菓子店「コンディトライノイエス」シェフの野渾孝彦さんは、「自分が使う同じ材料を使い、同じように作り、同じ値段で売れることを目標に教えたい」と語る。

パティシエ講師たちの写真
ハ木淳司講師(前列左2人目)、主催のプロップ・ステーション竹中ナミ理事長(その右隣)をはじめとするパティシエ講師たち

 4人のパティシエを前にKSC主催の一人である日東商会の川口淳太郎代表取締役社長は、「流通の立場から、販路まで視野においた協力を考えたい」と話し、「4人の講師陣は、普通ではありえない夢の豪華メンバー」と紹介する。

佐々木明久社長の写真
「長く支援できるプロジェクトとして考えている」と話す日清製粉の佐々木明久社長

 講習会の最後にハ木講師が話した「作業所や授産施設のスタッフの方々にも伝えたことがあります。皆さんは福祉のプロですが、菓子作りのプロではない、われわれ菓子作りのプロが協力することで本当のスウィーツ事業を目指しましょう」という考えは、開講初日に集まった参加者共通のものであったと思う。

 

(開講式後の「マドレーヌ」実習の様子と関係者座談会へ)

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