週刊文春 2009年7月23日号より転載

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郵便不正で逮捕 厚労省女性前局長
事務次官が差し入れた「冤罪本」

「働く女性の星」厚生労働省前局長・村木厚子容疑者(53)が郵便不正疑惑で逮捕されてから一カ月あまり。 現在も全面否認を貫くなか、省内で一冊の本が話題になっているという──。

「江利川毅事務次官(62)が記者懇談で、勾留中の村木さんに本を差し入れたと明かしました。しかも、その本には『濡れ衣を着せられた人の話が入っている』と明言したのです」(厚労省担当記者)

逮捕の発端は「凛の会」(現・白山会)による郵便料金割引制度の悪用事件。村木容疑者は、「凛の会」が実体のない障害者団体と知りながら、二セの証明書発行に関与したとされる。

「部下だった上村勉容疑者が『村木さんから指示された』と逮捕後に供述したことや、元上司の部長の『(野党)政治家の依頼を受けて、白山会を障害者団体として認証するよう村木に命じた』という証言が逮捕の決め手になりました」(全国紙社会部記者)

犯罪の動機としては、
「村木容疑者がそのころ手がけていた障害者自立支援法案を成立させるために、無理をして野党議員の要求を呑んだ」とも報じられた。

一方で村木容疑者は「コーヒー1杯でも割り勘にこだわる人」(知人)だったという。その理由として、
「私には障害者政策で尊敬する師匠がいる。加藤孝さん(元労働事務次官)です。しかし彼はリクルート事件で株を譲渡されて逮捕、失脚した。私はこのことを『李下に冠を正さず』と、重く受け止めている」
と周囲に説明していた。

「江利川次官は事件直後から村木さんに同情的で、無罪なら復職させたいとも話していた。差し入れた本の話を聞いて、記者同士で『次官も村木さんは濡れ衣だと考えているんだろう』と囁きあいました」(前出・厚労省担当記者)

江利川次官に話を聞いた。


江利川次官

──事件をどう見ますか?
「二点ありますね。私は当時内閣府にいたから断定的には話せないが、事件が起きた頃のレポートを読んでみると新法(障害者自立支援法)の話は出てこない。だから法案の為に(犯罪を犯した)という議論が成り立つのか若干の疑問を感じます。あと、村木さんはいろんな方面から評判が良くて、彼女が『やっていない』というなら信じてあげたい」
──本を送られた?
「盤珪(ばんけい)という江戸時代のお坊さんのことを書いた本を送りました。(同じ厚労省幹部の)旦那さんに渡した。
非日常な本がいいと思っただけで、特段にメッセージはありません」
──村木さんは冤罪か?
「私にはわからない。真相究明を早くしてもらいたい。思いはその一点です。(村木容疑者の)定年もあるし時間がもったいない。応援してあげてください」

盤珪永琢(ようたく)は臨済宗の僧で、難解な禅問答をつかわず、平易な言葉でその教えを語った。江利川氏が送ったという「盤珪禅師逸話選」(禅文化研究所)を読むと、確かに「盗人の嫌疑をかけられる」という濡れ衣のエピソードが出てくる。
そのとき盤珪が語った、
「(嫌疑は)つまらぬ分別心から生ずるものであるから、頓着する必要はない」
という言葉は意味深長だ。

「大阪地検は犯行動機をどう立証するのか。村木容疑者を支援するヤメ検の住田裕子弁護士は『裁判で検察の構図はガラガラと崩れる』と宣言しており、地検にとって難しい裁判になるとも予想されています」(前出・全国紙社会部記者)

「禅問答」のような裁判にならずシロクロ決着がつくか。行方が注目される。

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