ひょうご人権ジャーナル きずな(KIZUNA) 2008年10月発行より転載

コンピュータの気持ち(?)になって

竹中ナミの写真

竹中 ナミさん
(社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)

 社会福祉法人プロップ・ステーションは障害のある人向けにICT(情報コミュニケーション技術)習得セミナーを開催するとともに企業から彼らの仕事を受注し、在宅勤務のための調整を行っています。

 8月25日(月)。取材日の受講生は神戸市立青陽東養護学校高等部2年生10名。講師の岡本さんがキーボードとマウスを足で操作しながら分かりやすい説明で生徒たちを導いています。「講師、サポーターも皆、セミナー OBのチャレンジドなんですよ」と"ナミねぇ"こと理事長の竹中ナミさん。「チャレンジド」というのは、「挑戦する使命やチャンスを与えられた人」を意味し、障害のある人の可能性に着目した米語です。

セミナーの写真
セミナーではサポーターも受講生も笑顔

眠れる力を生かすこと

 「発端は今から20年前に私が運営に関わった『車いす全国大会』。日本で初めて『アテンダント(有料介護)』を導入しました。アテンダントは、チャレンジドが賃金を支払って自分に必要な介護を主体的に得るというアメリカの自立運動から生まれたシステムです。これこそ彼らが自己選択、自己実現するために必要不可欠な制度だと気づきました。アメリカのチャレンジドは稼いでいるからできる。でも、日本のチャレンジドは、有料介護を受けるための収入が無いやんか!」

 そこで、竹中さんは全国の重度・重症障害者にアンケートをとりました。「あなたは働きたいですか?あなたが働くためには何が武器になりますか?」。すると、回答者の8割の人が「働きたい。そのためにはコンピュータ技術が武器になる」と答えたそうです。彼らがそう思いつつも踏み出せない、そこには4つの壁がありました。(1)障害のある人が勉強する場所がない。(2)ビジネスとして使える技術をきちんと教えてくれる先生がいない。(3)実力を評価してくれる場がない。(4)在宅でできる仕事がない。

 

不可能を可能に

岡本さんの写真
講師の岡本さんのみごとな足さばき

 「ゴールは見えた!壁はたった(!?)4つ。これらをクリアすればチャレンジドは働く誇りを取り戻せる」。そこで"チャレンジドを納税者にできる日本"をスローガンに掲げ、彼らがICTを身につけるセミナーと在宅就労のシステムづくりを開始。関連企業の支援を募って活動を始めました。ところが、常識では、障害のある人は守られるべき存在です。税金を払うという発想は、「異端」であり、ICTを身につけるなど「不可能なこと」でした。持ち運びのできるパソコンが1台100万円、一流の講師料が1時間8万円以上もする頃のことでした。

 取り組みを始めて18年。ようやく日本社会でも障害のある人が介護を受けながらも、技術を身につけ、得意分野を生かして働けることが、認められ始めました。セミナー卒業生の中には施設のベッドの上で会社を興し、社長をしている人もいるとのこと。

 「最近、インターネットによるいじめや自殺が多発しています。でも、コンピュータは包丁みたいなもの。その人の使い方によって美味しい料理も作れるし、人を傷つけることもできる。コンピュータの気持ちになってみたら、『自分のせいで社会が暗くなる』なんて嫌でしょうね。コンピュータが『ああ、自分はこの人のコンピュータでよかった』と思えるような使い方をしてあげないと…」と竹中さんは熱く語りました。

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