NEW MEDIA 4月号より転載

赤坂に開いたDIDの花

〜咲かせ続けるために〜

昨年9月13日から12月19日まで港区の旧赤坂小学校で開催していた赤坂メディアアート展「DID2007東京 学校の放課後 “冒険編”」が終了した。初めて、港区赤坂総合支所とTBSラジオ&コミュニケーションとのタイアップ主催で開催された。赤坂はDIDの開催に続き、今春には赤坂サカスがオープンする。街という視点で関係者がDID(ダイアログ・イン・ザ・ダーク※)を語る。
(構成:古山千恵子・本誌編集部、写真:森下泰樹)

※ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DIALOG IN THE DARK/DID)とは、1989年ドイツで誕生。完全に光を遮断した空間で、視覚障害者のアテンドのサポートのもと、数名のグループでさまざまなシーンを体験していく真っ暗闇のエンターテイメントである。

武井雅昭の写真

武井雅昭 Takei Masaaki
●港区長

「大切なのは、職員が街に出て区民のニーズを知ること」

城所賢一良の写真

城所賢一良 Kidokoro Kenichiro
●株式会社 東京放送 代表取締役専務

「企業として街の人とのコミュニケーションを“サカス"」

金井真介の写真

金井真介 Kanai Shinsuke
●特定非営利活動法人ダイアログ・イン・ザ・ダーク ジャパン代表

「日本版DIDをDID誕生の地ドイツに逆輪出したい」

竹中ナミの写真

竹中ナミ Takenaka Nami
●社会福祉法人プロップ・ステーション理事長

「DIDが常設されれば観光資産になる」

クレーム0(ゼロ)のイベント

金井真介・DIDジャパン代表 廃校となった旧赤坂小学校を会場に昨年9月13日から12月19日まで開催していた赤坂メディアアート展「DID2007東京 学校の放課後 “冒険編”」が終了しました。 90日間の参加者は約9,000名で、年齢層は20代〜30代が最も多く75%を占めています。男女比では男性3割、女性7割と圧倒的に女性が多かったようです。

 今回のDIDは、行政と民間企業とNPOの3者が一体となって取り組んだ初めてのケースで、赤坂の住民の方にも一緒にコンテンツを考えていただきました。 83歳の旧赤坂小学校のOBの方もいらっしやいました。

武井雅昭・港区長 私も体験しましたが、一緒に体験した方たちとは初めてお会いしたのに仲間意識といいますか、すぐにお互いを思いやる気持ちが生まれました。非常に印象的な体験でした。

城所賢一郎・TBS専務取締役 僕はアテンドの言葉を頭の中にイメージする作業に没頭していました。本当は暗闇が苦手なんですが、思わぬところを刺激される魅力的なイベントでした。

竹中ナミ・プロップ・ステーション理事長 私はもう5回ぐらい体験しています。今回はたくさんの官僚を誘って、休験してもらいました。私は、チャレンジド(障害者)の可能性を世の中に生かす活動を続けているんですが、財務省や総務省の審議会委員や国土交通省のプロジェクト、社会保障国民会議の委員などを務めていますので、周りにたくさんの官僚がいるんです。みんな、かなり刺激を受けたようで、今後の仕事に生かしたいと言っていました。

 私は視覚障害者の友人も大勢いて、彼らには見える者にはない驚くような能力がいっぱいあるんです。でも、障害者イコール気の毒とか、かわいそうといった視点でしか一般的には見てもらえない。それがDIDの開催で違う視点で見てもらえるようになった。やっと時代が追い付いてきたって感じです。

金井 今回、港区の赤坂で開催しましたが、これまでにも旧自治大学キャンパスや梅窓院祖師堂ホール、東京ドイツ文化センターなど港区での開催は多いんです。 1999年に初めて日本で開催してからこれまでに3万5,000人がDIDを体験していますが、そのうちの3万人は港区で体験しているんです。なぜ港区は開催条件が整うのか考えてみると、港区は古い文化を持ちながら、新しいものを受け入れる成熟度があるんですね。

武井 台場や六本木、汐留、麻布、青山、赤坂、高輪、芝浦といったエリアを持つ港区は近代的で個性豊かな街としての側面と文化財や史跡など歴史や伝統ある側面が調和よく存在しています。港区民には、自分たちの街は自分たちの手で守るという意識が綿々と受け継がれていて、防犯パトロールや美化運動などを自主的に地域の方たちが行っています。港区の人口は約19万5,000人(2008年1月時点)ですが、うれしいことに1996年以降増え続けているんです。

金井 港区から大変うれしい報告がありました。イベントにはクレームや反対意見がありがちなんだそうですが、DIDに関しては1件もなかったというのです。それどころか、体験された区民の方から、横のつながりができたとか、商店街が一つになったなどの声が寄せられているそうです。

武井 区民も交えて一緒に取り組んだことが、より強いつながりになったようです。港区では、お互いの立場でできることを寄せ合える区民に近い行政を目指して、2006年に出先機関であった4ヵ所の支所を廃止し、5地区に総合支所を作りました。こうすることで区民の日常生活への対応がより充実し、港区を訪れる方にも快適に過ごしていただくことができます。私は職員に街に出て行くよう言っています。街に出て区民の皆さんと接して、区民のニーズにかみ合う政策づくりを行う。机上の議論ではだめです。

真のリスク管理とは

武井 DIDは真っ暗闇な中で行動したり、1つのイベントを90日もの長期間で開催するなど、これまで区が経験したことのないことでした。開催にあたり一番の心配は安全面でした。そこで、このところ厳しくなっている建築基準法や消防法の観点からも万全を期して実施しました。いくつか壁もありましたが、行政と民間、NPO、区民が一緒に新しいことに取り組むという魅力は、何にも勝るものでした。

城所 安全に対してはわれわれも一番に考えました。無事故であったのは、アテンドや設営など各担当者がそれぞれの役割を十分に果たしたからだと思います。

竹中 開催を英断したトップの方たちもすごいと思いますが、アテンドの役割と影響は大きかったと思います。安全にしかも楽しめるようにアテンドするには、相当の訓練が必要だったんでしょうね。

金井 アテンドは事前にいろいろな研修を受けます。見えるとはどういうことなのか、なぜ暗闇になると見える人は恐いのかなど、見えた経験のない者にとってはわからないことの説明から始めます。現在、DIDは世界20カ国で開催されていて、それぞれの国にそれぞれのリスク管理があります。開催国の代表が集まってミーティングが開かれるのですが、先進国である日本のリスク管理についてヨーロッパの人たちは、ハードだけに投資していることが一番のリスクだといいます。日本はなぜ人間の可能性とか、人間が本来持っている力を触発するようなこのプロジェクトを支援しないのかと聞かれます。日本もソフト(マンパワー)に投資する時期にきていると感じます。

企業と街のかかわり

城所 3月にTBS旧社屋跡地の再開発複合施設「赤坂サカス」がグランドオープンします。オープン時には赤坂踊りや山車など赤坂にまつわるさまざまなイベントが企画されていますが、どれも地域の方の理解とバックアップがなければできないものです。

 われわれ放送事業者には2つの社会的投割と責任があります。一つは、放送は民主主義と国民の安全に対して重要な役割を担っていますので、放送番組の高い公共性と社会的責任があります。もう一つは企業として果たすべき社会的役割です。地元に愛され、貢献できる企業でなければなりません。TBSは地元赤坂に根を下ろし、街とのコミュニケーションを大事にし、サカスを住民と一緒に活用していきたいと考えています。サカスという名前には街の人だちとのコミュニケーションを「ひらかす」という意味もあるんです。

武井 TBSさんの存在意識は街の人にも伝わっています。だから、気運がこれだけ盛り上がっているのでしょう。サカスは人に優しい街づくりを目指す一つのきっかけになっていると思います。

常設への課題

竹中 DIDの開催は赤坂のイメージアップにもつながっていると思います。それに雇用資格が全盲ということに世の中がびっくりしました。これまでの日本の就業や雇用の常識ではなかったことです。ユーザーとしては、ぜひ赤坂にDIDを常設してほしいですね。赤坂に関するいろいろな事をコンテンツにしていけば観光スポットにもなると思うんです。視覚障害の疑似体験を売り物にするのではなく、楽しみながらインスパイアされることを前面に押し出して。

武井 新しい視点を持った障害者雇用創出ということでも、常設は意義のあることだと思います。

金井 今回のイベントを知った視覚障害者からは、障害があっても社会参加できることを知り勇気づけられたという声をたくさんいただいています。たとえプロトタイプでも社会的雇用創出を見せることは大事なんだと感じています。

城所 常設はTBSラジオ&コミュニケーションをはじめ、かかわった者みんなの望みであり、考えです。TBSの持っている土地で常設できないか調べてみたのですが、容積率の問題などで難しいことがわかりました。

金井 イベントが終わって1ヵ月後に彼らに会うと、その表情には、先が見えない不安からくる脱力感が見えるんです。もちろん、アテンドをやり遂げた達成感がありますから、良い顔ではあるんですが。彼らは、イベントの期間中は参加者から「すごい」と褒め立てられ、シンデレラ状態です。それが、イベントが終了すると同時に放り出されてしまう。このギャップが彼らにとっては大変なストレスなんです。社会的弱者と呼ばれる負の経験を、DIDで人を楽しませることによってプラスに変える経験をした彼らは、イベントとしてテンポラリーに働くのではなく、プロとして進む道を彼ら自身考え始めているようです。ただし、常設するにあたって気をつけなくてはいけないのは、お互いが依存した関係にならないようにすることです。そのためにコンテンツをいろいろと変えるというのも有効なことです。

 みなさんにお願いしたいのは、継続させるための枠組みづくりに知恵をお借りしたいということです。継続イコール収支が合うことです。現在も、次の世代も、そのまた次の世代の時代にも当たり前にあるようにするためにどうしたらいいのか、知恵を拝借したいのです。

竹中 ドイツではどうしているんですか。

金井 ドイツでは国、民間、参加者のそれぞれが1/3ずつ負担しています。

 DIDのコンテンツを作るには、イメージを具体化しなければなりません。これは難しい作業なんですが、日本人は五感が優れている上に、五感をクロスオーバーすることができるのだそうです。例えば、「香道」は香りを「聞く]といって聴覚で表現しますが、香りの感想は「甘い」とか「辛い」と味覚で表現します。日本は独特の五感や文化を特っているわけですから、日本ならでのDIDが作れると思うんです。ドイツから輸入したDIDを、日本オリジナル版に作り上げ、ドイツに輸出する。そして、もう一度再輸入する。これが私の夢なんです。

武井・城所・竹中 ぜひ実現させたいですね。そのためにも一人でも多くの人に体験していただき、継続の道を探しましょう。

 

プロップ・ステーションと読売新聞東京本社が「共生・共助社会(ユニバーサル社会)の実現」をめざしシンポ開催

ダイナー・コーエンさんと竹中ナミの写真

●呼びかけ

 少子高齢社会日本において、「すべての人が持てる力を発揮し支え合う、共生・共助社会(ユニバーサル社会)」の実現が急がれます。
  米国において、「すべての人が誇りを持って生きられるようにすること、それが国防の一歩だ」との理念を掲げ、ICTをはじめ、最先端の科学技術を駆使してこの課題に果敢に取り組む米国防総省CAP(Computer/Electronic Accommodations Program)理事長のダイナー・コーエンさんを招き、日本の各界のリーダーに共生・共助社会(ユニバーサル社会)への理解を深めていただくものです。
  これからの日本の社会保障のあり方を考える上で、また安全保障の基軸でもある日米同盟をより深めるためにも意義深いことであるとの思いから開催するものです。

●開催日時・場所

3月24日(月)17時~19時
ホテルニューオータニ東京 鳳凰の間

●主催(共催)

社会福祉法人プロップ・ステーション、読売新聞東京本社

●後援(予定)

米国防総省、駐日米国大使館、内閣府、外務省、厚生労働省、防衛雀、総務省、国土交通省他

●招待予定者

政官財界等を代表する方々および読売新聞読者一般公募

●プログラムと出演者(予定)

■17:00〜 ご挨拶
内閣総理大臣、駐日米国大使他

■17:10〜 基調講演
米国防総省CAP理事長 ダイナー・コーエンさん

■18:00〜 パネルディスカッション
ダイナー・コーエンさん、参議院議員・与党ユニバーサル社会プロジェクトチームリーダー 浜四津敏子さん、弁護士 大平光代さん、他閣僚より1名、経団連より1名
進行:プロップ・ステーション理事長/社会保障国民会議委員 竹中ナミ

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