読売新聞 10月16日夕刊より転載

障害者福祉 最前線 セミナー報告 上

知的ハンデ太鼓で自立

月給16万 妻子と暮らす

 障害者福祉の向上をテーマにした「福祉のトップセミナーin雲仙2007」がこのほど、長崎県雲仙市で開かれた。読売新聞社とともにセミナーを主催した社会福祉法人「南高愛隣会」は、我が国の知的障害者支援の草分けとして知られる。同会の取り組みとトップたちが描く夢に、これからの障害者福祉の在り方を探った。   (安田武晴、 写真も)

公演 年100回超

 力強い太鼓の音に、視察に訪れた福祉関係者や自治体職員ら約30人が聞き入った。プロの和太鼓チーム「瑞宝(ずいほう)太鼓」の演奏だ。全国各地で年間100回以上の公演をこなすメンバー6人は、いずれも知的障害者。和太鼓は、同会が障害者自立支援法に基づきワークトレーニングセンターあいりん(同県雲仙市)で運営する障害者の「就労継続支援事業」なのだ。

 団長の岩本友広さん(31)は、演奏活動により月額約16万円の給与をもらい、妻と2歳の長男とともに、同市内のグループホームで暮らす。「毎日が充実している。将来は、息子と一緒に和太鼓チームを作りたい」と夢を語る。

 障害者が地域社会で自立して暮らせるよう支援する同会は、中でも就労支援に力を入れている。最低賃金が保証される就労継続支援・雇用型事業所としては、瑞宝太鼓のほかにもパン、めん類製造など4か所を運営し、賃金は月平均で10万5000円だ。3か所ある非雇用型事業所でも、全国平均を上回る同2万1000円を支払っている。

瑞宝太鼓のメンバーの写真
視察の参加者に演奏を披露する「瑞宝太鼓」のメンバー。後列左が岩本さん(雲仙市の「ワークトレーニングセンターあいりん」で)

就職率97.5%

 セミナーに先立って行われた視察には132人が参加。同会が運営する施設やグループホームなどを見て回った。

 「長崎能力開発センター」(雲仙市)で、視察者たちは、「障害者だから、という甘えが一切ない」と一様に驚きを見せた。

 センターは、同会や長崎県などで構成する第3セクターが、職業能力開発促進法に基づいて運営し、知的障害者40人が2年間の全寮制で職業訓練と生活訓練を積む。民間企業などへの就職率は97.5%を誇る。

 訓練科目は、養豚とそうめん製造だ。訓練生は、起床から就寝まで、決められたスケジュールに従って暮らす。そうめんの製造工場では、だれもが小走りで作業機器の間を移動する。担当者は「どんな職種の企業でも適用するよう、厳しく指導している」と話した。

そうめんの製造の写真
そうめんの製造を通じて、企業で働くための能力を養う「長崎能力開発センター」の訓練生たち

普通の暮らしを

 同会の活動は、1978年4月に開設した知的障害者の入所授産施設が始まり。だが、利用者が昼夜、施設の中で集団生活を送る環境に疑問を感じ、その後、日中だけ通う「通所型」の施設や、生活の場となるグループホームなどを相次いで開設していった。

 今では、就労や居住など、障害者の暮らし全般を支える42の事業を同県内で展開し、知的、身体、精神障害者ら約1100人が利用する。昨年の自立支援法施行に伴い入所施設を解体。今年4月に、就労支援、生活介護、グループホームなどの事業に細分化した。恋愛や結婚の相談支援、罪を犯した障害者の出所後の支援などにも力を入れる。

 田島良昭理事長は、「どんなに障害が重くても、普通の場所で、普通の暮らしを安心して送れるよう、これからも支援していきたい」と意欲を見せる。

 視察に参加した鹿児島県奄美市の障害福祉サービス事業「あしたば園」の福崎伸悟・主任支援員は、「障害者に何が必要かを見極めて、サービスを地域の中で提供する運営手法は、たいへん参考になる」と話していた。

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