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日刊建設産業新聞 2005年6月30日より転載

 

 
 
自律移動支援プロジェクトの推進
 
 
ユビキタス技術を活用
 
 
「いつでも」「どこでも」「だれでも」
 

 国土交通省は、「ユニバーサル社会の実現」に向けた取り組みの一環として、ユビキタスネットワーク技術を活用し、ハード・ソフトを一体化し、社会参画や就労などにあたって必要となる「移動経路」、「交通手段」、「目的地」などの情報を「いつでも、どこでも、だれでも」が利用できる環境づくりを目指して、自律移動支援プロジェクトを推進している。今年度から神戸市で本格実証実験を開始、現在開催中の愛・地球博で一般モニターによる実証実験を行うとともに、東京都や青森県でも実証実験が予定されている。


 自律移動支援プロジェクトは、案内板、標識、誘導ブロックなどに設置した通信機器(ICタグ等)から、利用者のもつ携帯機器(携帯電話等)に、交通ターミナル、道路上、公共施設など、それぞれの場所の情報を伝えるシステム。これにより、障害を持つ人や外国人などすべての人に「安全な移動経路」、「交通手段の選択」、「目的地および周辺情報」、「緊急時の迂回ルート」、「SOSの発信」などさまざまな情報の提供を可能となる。

 情報は利用者のハンディキャップにかかわらず、文字、音声、振動等で提供されることから、「ユニバーサル社会」を実現する取り組みの一環として、英語、中国語、韓国語など、多くの言語での情報提供も可能で、日本を訪れた外国人を対象した「ビジット・ジャパン・キャンペーン」への応用も期待されている。

 プロジェクトの取り組みを可能としたのは、わが国の世界で最先端のユビキタス・ネットワーク技術。例えば、わずか0.4mm四方という極めて小さいICタグの中に、従来のバーコードよりも信頼性が高く、格段に多い情報量を記録することが可能。また、近年のブロードバンド環境の進展により、一つひとつのICタグの情報をネットワーク化でき、さらに個人の携帯機器からメインサーバーへの接続も可能。となる。

 プロジェクトの推進にあたっては、「自律移動支援プロジェクト推進委員会」を04年3月に設置。委員長は、ユビキタス技術の第一人者であり、家電や携帯電話、自動車などの組込みOSとして世界に普及したTRON(トロン)の開発者でもある坂村健東京大学大学院教授。また、民間企業等63社・団体、23の地方自治体及び内閣官房都市再生本部、警察庁、総務省、厚生労働省、経済産業省の関係省庁が参画、産・学・官・市民が連携による国家的なプロジェクトとしての体制づくりを進めている。

 また、文部科学省の「21世紀COEプログラム」でも、東京大学から提案されたユビキタスコンピュータ技術に関するテーマが採択され、このCOEプログラムと同プロジェクトはタイアップしている。

 

<神戸市の実証実験>

 神戸市は、陸・海・空の交通の要衝であり、海外からも多くの人々が訪れる国際観光都市であるとともに、阪神大震災を乗り越えてユニバーサル社会実現に向けた新しいまちづくりが進められている。昨年度に、実空間での機器の安定性等の検証を行うため神戸市内の2か所でプレ実証実験を実施、今年度からは本格的な実証実験に着手、6月19日に神戸市役所1階玄関ロビーで神戸実証実験開始式が行われた。

 神戸市内での実証実験は、神戸市市役所・神戸合同庁舎、三宮駅、旅客ターミナル・かもめりあ周辺など12エリアで展開され、また、来年2月開港予定の神戸空港で展開する予定で、実験場所などに4万個のICタグが設置されている。

 7月頃に一般モニターを公募し、一般モニターによるコンテンツ体験を実施、8月のチャレンジド・ジャパン・フォーラム2005及びユニバーサルデザイン全国大会のイベントと連携してデモンストレーションを実施する。

 6月19日の開始式では、国土交通省の佐藤信秋技監が「国際観光都市の神戸において、外国人でも自由に使え、ユニバーサル社会の中枢をなすものとして、実験で改善しながらよりよいシステムを構築されることを期待したい」と挨拶。次いで、矢田立郎神戸市長が「ユニバーサル社会の実現に向け、委員会や国交省と共に取り組んでいきたい」と挨拶した。

 このあと、プロジェクト推進委員会の坂村健委員長が「このような街中での実験は世界初で、世界に模範となるには長期にわたる努力が必要。電子都市の先鋒として、率先して世界に発信していきたい」と述べ、実証実験の概要説明を行い、道路標識や交差点案内標識、駅前の地域案内にインテリジェント機能を持たせたユビキタス情報ステーション「ibox」に最新の地域情報を携帯端末(ユビキタス・コミュニケータ)にダウンロードし、車いす使用者の後藤委員が携帯端末をタグシートに反応させ、音声で案内する経路検索や、視覚障害者の長谷川委員がICタグ入りの点字ブロックに反応させた音声の案内で来庁通知や経路検索、障害物接近警告、など様々なデモンストレーションを行った。プロジェクト推進委員会では、神戸での実証実験やコンテンツ確認実験を基に詳細項目の検討を行い、年度末までに技術仕様書を完成させる予定。

 

テープカットの写真
神戸市で本格実証実験を開始

長谷川委員によるデモンストレーション

デモの写真

 

<東京都の実証実験>

 東京都は、「ICタグ実証実験」を9月から上野公園で開始する。浅草で行った実証実験に続くもので、IT技術を活用した観光客拡大と商業振興が狙い。技術仕様の国際標準化を視野に入れ、ユビキタス要素技術の効果的な組み合わせも検証する。実験では来園者に携帯情報端末を貸し出し、公園内のルートや観光情報などを画面で提供。無線マーカー、GPSを使用した情報提供や、電子マネーによる商品購入の実験も試みる。実験開始に合わせて、秋葉原ITセンターにショールームを設置、ICタグ技術やシステムの紹介を行う予定。

 携帯情報端末は、ICタグや各種マーカーとの通信機能を備えたユビキタス・コミュニケータを使用。西郷隆盛の銅像など主要観光スポットごとに設置されているICタグに近づけると「ucode」を取得、名所の由来や施設の催し物情報が動画や文字などで表示される。英語、中国語、韓国語での情報紹介も実施する。公園・動物園の各所に設置した無線マーカー、GPSを活用、利用者が現在位置を把握できる地図情報の提供も行う。

 情報携帯端末は上野公園で1ヵ所、上野動物園で2ヵ所の貸出場所を設ける。端末のインターフェイス機能を利用し、電子マネーによる店舗での商品購入も実験、カーナビゲーションを装備した電動カートによる園内通行も行う。

 なお、東京都では、年度末には銀座地区での実証実験を予定しており、浅草、上野公園での実験結果を反映させより幅広い情報環境構築を試みることとしている。

 

システムの概要の写真
自律移動支援プロジェクトシステムの概要

 

<ゆきナビあおもりプロジェクト>

 青森県全域が積雪寒冷地で青森市は特別豪雪地帯に指定されている。青森市の年間降雪量は75cmで人口30万人規模の都市としては日本一の豪雪都市。「ゆきナビあおもりプロジェクト」は、ICタグを活用した場所情報システムを活用して、高齢者、障害者を含めた誰もが冬期間に安心・快適に移動できる環境づくりを推進することを目指している。

 同プロジェクトに先立ち、冬期環境下でのハードウエアの動作状況等を事前に確認するための検証試験を、今年4月〜5月に青森市酸ヶ湯周辺で実施、その結果を6月21日〜22日の「ユビキタス・フェア2005」で報告した。検証結果をもとに、システムを構築し05年初冬から本格的な実証実験を青森市柳通りで開始する予定。

 




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