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SOHOドメイン(旧 月刊SOHO) 2004年2月号より転載 |
プロップ・ステーション便り ナミねえの道 | ||
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第20回――プロップに追いつけ! 追い越せ! | ||
島根の実力派施設(ピー・ター・パン)は
「ネバーランド」を目指す |
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夕景が美しい宍道湖(しんじこ)を抱き、城郭に巡らされた堀の水面に鳥たちが憩う。水の都・松江は風光明媚な観光都市だ。市街から車で約20分、閑静な住宅街の一角に小規模通所授産施設「ピー・ター・パン」がある。PCに向かい黙々と仕事をするチャレンジドたち。リーダーの新田裕之さんは車椅子で巡回しながらその作業を見守る。 “接着剤”の役割を担う コンピュータ歴は8ビット時代から20年という新田裕之さんは、脳性麻痺の障害で4歳の頃から親元を離れて児童施設で過ごした。その後も更生施設、職業リハビリテーション施設を経験し、27歳で福祉施設に事務員として就職。得意とするPCでの仕事は会計関係のデータ入力や文書作成などで、給与システムも自らが開発した。そこで施設の運営のことや仕組み、会計のことなど数多くを学んだ新田さんは33歳のとき、高校時代からの夢だった作業所の創設に参画。周囲の協力もあって、「障害はあってもやればできる、気兼ねなく働ける場」である、作業所「ピー・ター・パン」が設立された。 「チャレンジドの就労では仕事ができて当たり前、技術は必須。それ以上に重要なのが人柄や個性なんです。PCを使うと顔を合わせることが少ないですから、データの受け渡し一つでも人格が問われる。新田さんのキャラクターは、元気で明るい。彼の明るさに触れてピー・ター・パンが発展する予感はありました」(ナミねぇ) 現在、ピー・ター・パンで働くチャレンジドは、在宅スタッフを含めて20人。それぞれが役割分担しながら責任のある仕事を遂行する。 ● ――ナミねぇとの出会いは。 新田●きっかけは共同作業所としてピー・ター・パンを起ち上げた頃に、ナミねぇの講演会で参考になる話を聞かせてもらったのが最初です。それから神戸出張のときにお会いして、プロップ・ステーションの活動とピー・ター・パンとが、場所は違うけれど活動は一緒だと思い、2003年の11月にナミねぇを招いて記念講演会を開催しました。話を聞くにつれてすごいことをされているので、地方都市でもプロップのような動きにつなげていくために勉強させてほしいです。
――仕事の内容について。 新田●施設としては、印刷関連のデータ作成、いわゆるDTPが全体の90%を占め、ホームページの作成が10%という割合です。スタッフはチャレンジド14人、健常者2人で、LANで6人の在宅スタッフともつながっています。社内では10人ほどがPCを扱えるようになったので、今後はホームページ作成に力を入れたいですね。私は現場での仕事の段取りや、種々の事業に携わっているため事務的な処理に追われています。今でも忙しいときには現場に入って手伝うこともありますが、作業所立ち上げ当初は残業も珍しくなかった(笑)。今ではスタッフも実力がつき、安心して任せています。 ――なぜ、チャレンジド主体なのか。 新田●確かにチャレンジドが運営主体という点では、ピー・ター・パンの特徴かもしれませんね。僕自身、小さい頃から施設で暮らしてきましたが、普通の施設だと健常者の職員がいて、言われたことを仕事としてやればとりあえずOKなんですよ。でも、どうしても甘えが出たり、いい加減になったするんじゃないかと。今の職場で仕事の厳しさを口にすることはありませんが、自然な形で仕事に対する真剣な雰囲気が出てくればいいなと思っています。 ――給与システムについて。 新田●月々の売上げを単純に分配することになると、多かったり少なかったりするため安定した生活は望めません。そこで、作業所の時代から自立して地域で暮らしていけることを前提に、必ず決まった給料を出すことにしています。それは個人のスキルなどによって決めるわけですが、その分毎月の売上げを確保する必要があります。それだけに責任ある仕事の役割分担が要求されるので、厳しいなりにやりがいがあると思います。少しずつですが、給与水準もアップしていますし、今までに一度も決めた額を下回ったことはありません。 ――今後のビジョンを。 新田●2002年に通所授産施設になったこともあって、やはり中心になる「仕事」を前面に打ち出して、仕事のできる環境整備を進めていきたいです。一方では、地域で暮らしていくためにチャレンジドが生活できる施設にしていきたい。そのために、『ネバーランド』という情報誌を発行し、僕らの活動を紹介していますが、もっと周りに理解してもらえるよう努力したい。また、施設としてさまざまな事務局を兼任しているため、接着剤のようなつなぎの役割もあると思います。一人一人は小さいことしかできませんが、みんなでやれば結構大きなことができるってことを私たちは実感していますので、理解してもらい、一緒にできる人たちとともに夢を実現したいですね。 地方都市の実力派として 全国にはおよそ6000ヵ所の小規模作業所と呼ばれる施設があり、毎年約300ヵ所増え続けているという。だが、「作業所や授産施設を“本当の働く場”に」というナミねぇの願いとは裏腹に、月給1万円に満たない給料の作業所や施設が少なくないのが現状だ。 都心部では比較的PCなどを勉強する環境も整いつつあるが、地方都市における実力派の授産施設としてピー・ター・パンに寄せられるチャレンジドの期待は大きい。 |
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構成/木戸隆文 撮影/有本真紀・田中康弘 |
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