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NTTネオメイトは今年7月、在宅のチャレンジドをブロードバンドネットワークで同社の地図工場とつなぎ、デジタル地図製作の戦力として活用するという画期的な事業をスタートさせた。
この「デジタル地図バーチャルファクトリ」には、竹中ナミ理事長率いる社会福祉法人プロップステーションも、パートナーとして参画している。NTTネオメイトの西村憲一代表取締役と竹中理事長に、この事業を聞いた。
(報告:中和正彦=ジャーナリスト、写真:本誌編集部)
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決断を後押ししたのは
社員の感動とやる気
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―― まず今回の事業が生まれた経緯をお聞かせください。
西村 私どもはNTTグループが電話工事などのために作っていた独自の地図の版権を共有という形で継承し、8つの工場でデジタル地図の製作・メンテナンスを行ってきました。コスト削減と品質向上のために、これを1つに統合したいという考えが、まずありました。そのとき、「ブロードバンドを使えば、1ヵ所に巨大な工場を作って人を集めなくても済むのではないか。地域を越えたバーチャルな工場が可能ではないか」という発想が生まれました。
それなら、毎日通勤できないために就労の機会に恵まれなかった方々に働いていただくことだって可能になります。そこで、「チャレンジドの方々に働いていただこう」という思いにいったのです。
―― 西村さんご自身の思いから始まったわけですか。
西村 そうですが、企業は組織ですから、社長一人の思いでは動きません。特に今回の事業は、チャレンジドやその支援を一生懸命やっている方々とつながりを作っていく仕事ですから、「上の命令でやらされる」という感覚だったら絶対にうまくいかないと思いました。
そこでチャレンジド・テレワークの活用について社員に意見を求めると、最初はみんな躊躇としました。「社長の思いはわかるが、ビジネスとしては難しい」と。私は、プロップステーションなど、この分野の先進的な活動を実際に見てきたら考えが変わるかどうか、3ヵ月ほど勉強の時間を与えました。
3ヵ月後、彼らは180度変わって、「ぜひやりましょう」と言ってきました。目の色が変わっていました。彼ら自身が、一生懸命に取り組むチャレンジドやそれを支える人たちの姿に感動して、「ぜひやりたい」という気持ちになっていたのです。「社員がそう思ってくれるなら、これはやらねばやらない。やろう」と決断したのです。
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テレワークのキーポイントは
セキュリティ問題だった
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―― プロップステーションは、重度の障害を持つ人が在宅でテレワークする事例をいくつも実現させてきました。今回の事業については、どう受け止めましたか。
竹中 まず遠隔で地図づくりをする仕組みそのものがすごいと思いました。これまでのテレワークでは、割り振られた仕事の全データを自分のパソコンに取り込んで作業していたので、地図の仕事はデータが重くて取り扱いが大変でした。ところが、今回の仕組みでは、サーバにアクセスして、作業した部分のデータだけ、その都度やり取りできるようになっています。技術の進歩を実感しました。
西村 サーバ・ペースト・コンピューティングという技術です。私どもにとってのポイントは、端末側にダウンロードさせることなく仕事を出せるので、高いセキュリティが求められる仕事でも任せられることでした。これがなければ、今回の話は成立しなかったか、または「通勤してください」という話になってしまったと思います。私どもは地図に載せる情報として、お客様の大事な情報を扱いますし、場合によってはその中にお客様の顧客情報なども含まれます。だから、セキュリティには一番気を使いました。
竹中 「テレワークで距離と時間を越えて仕事ができる」とずっと言われてきましたが、企業は外部の在宅ワーカーの活用に慎重でした。その理由の一つは、まさにセキュリティの問題でした。仕事を出すことによって情報が漏れることを恐れていたのです。だから、中核を担うような仕事は在宅ワーカーには来ないというイメージもありました。それが、今回の技術で変わりますね。大きな進歩です。
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企業・県・NPO
三者をつなげたもの
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―― 事業の拠点であるデジタル地図センタは、熊本市に設置されました。熊本というと、潮谷義子県知事が2001年に竹中さん主宰のチャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)で「障害者雇用促進のためのテレワークモデルの構築に取り組む」と宣言し、昨年10月に「チャレンジド・テレワーク・プロジェクト」を立ち上げました。センタの熊本設置は、そういう状況があったからですか。
西村 竹中さんの活動については、NTT西日本の広島支店長時代に毎回CJFに参加しているという非常に熱意のある女性社員がいて、彼女からCJFの話を聞き、竹中さんの本も読み、非常に感銘を受けていました。
しかし、潮谷知事の取り組みは、知りませんでした。西日本エリアにあった8つの地図工場を1つにまとめることを考えたとき、高度な技能を持った従業員が一番多いのが熊本だったのです。その後、チャレンジド・テレワークの可能性について検討しはじめたとき、初めて知りました。そして、こちらがそういう検討をしていることを知った県の方から「ぜひ一緒にやりましょう」というアプローチをいただきました。
「ビビビッ」と来るものがありましたね(笑)。「熊本でどうだろうかと思っていたら、こんな出会いがあるなんて、これは運が開けている」と思いました。
竹中 プロップはいろいろな企業や自治体とプロジェクトを組んできましたが、一緒に始めてみると「志の部分で共鳴できる人が、つながるべくしてつながったのだな」と感じます。でも、今回はその中でも特にすごい出会いだと思います。
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現行制度で働けない人に
働くチャンスを
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―― 今回の事業では、NTTネオメイトがチャレンジドを採用するのではなく、チャレンジド就労支援事業を実施する熊本ソフトウェア(県のチャレンジド・テレワーク・プロジェクトに参画する第三セクタ)やプロップステーションに業務委託する形を採っています。その理由は。
西村 最初は、法定雇用率を満たすためにNTTネオメイトとして特例子会社を設立することも考えました。
しかし、これまで就労の機会が得られなかったチャレンジドには、身体的な事情で1日4時間しか働けないとか、毎日は働けないという人が多い。特例子会社は常用雇用を基本としますので、そういう方々にはあまり向いていません。では、どう働いていただいたらいいか、私どもにはよくわからないところもあります。
そこで、企業と当事者の間に立って仕事のコーディネーションをしてくださるところと組む形を採ったのです。
竹中 チャレンジドの就労を後押しする制度は、1959年にできた雇用率制度しかありません。企業は法定割合の障害者を雇用するのが義務で、それを果たせない場合は、罰金(納付金)を納めなければならないというものですね。
チャレンジドには、働きたくても雇用率にカウントされるような働き方ができない人がいるのに、そういう人たちの活用を促すような制度は現時点では見当たりません。
今回の取り組みは、その部分の開拓を促すような本格的な取り組みとして、すごく期待しています。
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eラーニングで研修
3ヵ月で能率3倍アップ
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―― 具体的な仕事の技能は、どのように在宅の人に身につけてもらうのですか。
西村 私どもでは、自宅や外部のオフィスでデジタル地図づくりに携わる人を「クリエータ」、その仕事の場を「デジタル地図工房」と呼んでいます。各工房は熊本のデジタル地図センタとNTT西日本のBフレッツをも用いたブロードバンドネットワークでつながっています。技能の研修や実際の業務の上での指導も、これを活用して遠隔で行います。
センタのスーパーバイザが遠隔会議システムや作業画面の共有機能を使って、各工房のクリエータと互いに顔を見ながら指導を行えるようになっています。
―― スキルは順調に上がっていますか。
西村 はい。この事業を始めてからどのくらいスキルが上がったか、センタに通う健常者とプロップステーションのオフィスや自宅で仕事をするチャレンジド、両方の新人について追跡しました。
すると、最初のうちチャレンジドは健常者に比べて能率が悪く、個人間の能力差も大きかった。ところが、3ヵ月間までにチャレンジドの能率3倍上がり、最も能率の高い人は健常者の最優秀者に遜色のない仕事をするようになりました。障害の程度によって超えられない壁はあるかも知れませんが、努力してもらえば一緒にやっていける可能性が十分に確信しました。最終的には、さらに3倍の能率アップを期待します。
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チャレンジド就労変える
第一歩となるか
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―― 最後に竹中さんからNTTネオメイトに期待することは。
竹中 チャレンジドに課題を与えたとき、比較的スムーズに進む人もいますが、そうでない人もたくさんいます。そこで求められるのは、辛抱強く待つことです。厳しい競争にさらされている企業には厳しいと思いますが、どうか彼らへの期待を持ち続けてほしい。
西村 チャレンジドのクリエータに、就業2ヵ月目にアンケートを採りました。「何とかやっていけそうだ」という声がある一方で、「思ったより難しくて辛い」という声もありましたが、私どもが多少時間を掛けて取り組んでいけば、きっと希望を持ってついて来てくれると思うことができました。
―― 西村さんからプロップへの期待は。
西村 いま、今後の在宅クリエータの核になるようなチャレンジドを育てていただいているところですが、早くチャレンジドがチャレンジドを育てるような形になってほしい。その方が、健常者があれこれ指導するよりずっと説得力があり、教わる側のやる気も出ると思います。
竹中 がんばります。実は、厚生労働省が来年度から、プロップのような就労支援組織を全国各地に設置するという事業を始めます。とりあえず20ヵ所ほど作るそうです。でも、そこに仕事を出す企業や自治体がなければ、補助金の受け皿を作るだけです。
今後は、全国のチャレンジドが各地にできる就労支援組織を通じてデジタル地図づくりに参加するようになってほしいし、「ウチもああいう形でアウトソースしてみよう」という企業や自治体がどんどん出てきてほしい。私はそういう意味で、今回の取り組みの成功が、今後のチャレンジド就労の状況に大きく前進させる気がしています。
ですから、ぜひ今後とも力を合わせて前に進んでいきましょう。
―― ありがとうございました。
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