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SOHOドメイン(旧 月刊SOHO) 2003年11月号より転載

     
  プロップ・ステーション便り ナミねえの道  
 
 
  第17回――
「第9回CJF(チャレンジド・ジャパン・フォーラム)2003
国際会議 in ちば」レポート
 
  ユニバーサル社会に向けた
改革のうねりに手応えあり
 
 
 
     

掲載ページの見出し

プロップ・ステーション
プロップ・ステーションは、1998年に社会福祉法人として認可され、コンピュータと情報通信を活用してチャレンジド(障害者)の自立と社会参画、特に就労の促進と雇用の創出を目標に活動している。

ホームページ
http://www.prop.or.jp/

竹中ナミ氏
通称“ナミねぇ”。社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。重症心身障害児の長女を授かったことから独学で障害児医療・福祉・教育を学ぶ。1991年、プロップ・ステーションを設立した。現在は各行政機関の委員などを歴任する傍ら、各地で講演を行うなどチャレンジドの社会参加と自立を支援する活動を展開している。近著に『ラッキーウーマン 〜マイナスこそプラスの種!』(飛鳥新社)がある。

 8月21、22日の両日「第9回チャレンジド・ジャパン・フォーラム(CJF)2003 国際会議 in ちば」が千葉県幕張メッセ国際会議場で開催され、2日間で約1250人が参加した。「チャレンジドを納税者にできる日本」をスローガンに、産官学政民の幅広い分野の人たちが一堂に会し、実践に向けて議論するというのがCJFの主旨。今回も各界から個性派が集い、ナミねぇと財務省の岸本周平氏のユニークな司会のもとに活発な意見が交わされた


ITの進化が
ユニバーサル化に貢献


 1日目のプログラムでは、スウェーデン福祉研究所のグスタフ・ストランデル女史から、医師の処方に基づくチャレンジドへの補助機器の無償提供や個別ニーズへの対応、費用対効果を見据えた同国の福祉施策等が紹介され、チャレンジドの社会参画が産業界すべてプラスに働くという社会システムのモデルが示された。

「ユニバーサル社会の創造に向けて」のセッションでは、介助犬とともに働く千葉市職員、山口亜紀彦氏と介助犬オリーブが紹介され、携帯電話を口にくわえて渡すなど日常の介助ぶりが披露された。ナミねぇからも「今年6月に米国を訪問した際、職場にも教育機関にも電動車椅子と介助犬がいる風景はごく当たり前でした」との体験談も。ユニバーサル基本法の成立を視野に法律や制度の重要性が示された一方では、盲導犬などの活動が制限されている日本での意識改革が求められた。

 ビデオでナミねぇとの対談風景が紹介されたマイクロソフト会長のビル・ゲイツ氏から、ITの可能性とPCを接点とした親子のコミュニケーションの重要性が語られたことも注目に値する。

 その後「アクセシブルなITがユニバーサル社会を拓く」をテーマに、携帯電話と福祉とのリンケージの可能性が語られた。野田聖子衆議院議員をナビゲータに、立川敬二NTTドコモ社長と林義郎J-フォン会長が登壇。一般、チャレンジドとともに変わらず生活できるためのツール開発がユニバーサル社会実現への一歩だと述べられ、ユビキタス(※)などIT端末を使った情報通信の可能性も示された。


※ユビキタス IT機器がネットワークで結ばれ、いつでもどこでも情報交換。伝達のできる環境

 

CJFフォトレポートの写真

CJF Photo Report
2日間、参加者の気持ちが一つに

1.  左から福井の山崎さん、岩手の村田さん、プロップ・スタッフの山岡さん、ナミねぇ、アクセスインターナショナルの山崎社長。
2. プロップ創成期からの協力メンバーによるパネルディスカッション。左からウッドランド(株)安延社長、インスパイア成毛社長、フューチャーシステムコンサルティング(株)金丸社長、須藤東大教授、金子慶大教授。

3. 利用者のための健康維持を目的とした車椅子シーティングの実践講座は、各界の有識者も注目。強烈なインパクトを与えた。
4. 8年前、大学の一教室から始まったCJFをここまでに育てたのは、やはりナミねぇの熱き思いだ。

5. 弊誌でもおなじみのチャレンジド、川本さん(中央)と後藤田さんも登壇。療護施設での起業の様子を語った。

6.  床からカードを拾い上げるオリーブの介助ぶりに会場から拍手が沸いた。。

 


注目を浴びた
車椅子シーティング


 さて、フォーラムではチャレンジド・ワーカーからの発信も注目の一つ。今回は京都府内の療護施設のベッドの上で起業した川本浩之氏(本誌2002年2月号で紹介)と徳島県内の療護施設で働くプロップ・スタッフ後藤田勇二氏(本誌2003年2月号で紹介)の2人が登場。ナミねぇをコーディネーターに、それぞれ仕事をすることへの熱意が語られた。川本氏からは「仕事は生き甲斐じゃない、生き甲斐を得るための義務。意地と度胸がなければ何もできんと自分に言い聞かせています」と力強いメッセージ。後藤田氏は「敗者復活のようにやり直せる選択肢のあるような社会になればいい」と思いの丈を述べた。また、ナミねぇからは「どうすれば介護を必要とするチャレンジドが働けるかを議論すべき」と、施設がチャレンジドの働く場になる可能性に言及した。

 初日の最後になったセッション「ユニバーサル社会創造への課題」では、プロップ創成期からの協力メンバーが集結。ユニバーサル社会を創造するためには、単なる世の中への不平不満と、何かを実現したいという意思のあるチャレンジャーの提案の声をしっかりと聞き分けて課題を解決すべきという結論が示された。

 フォーラム2日目は、米国ペンタゴンとのインターネットによる二元中継を皮切りに、地元千葉県のチャレンジドや企業の活動状況が報告された。

 引き続き行われた健康維持のための「車椅子のシーティング」実践講座は、CJF初の試みとして大いに注目を集めた。車椅子利用者に正しい座位を提供するシーティングは、褥痩(じょくそう)や身体の歪みに悩むチャレンジドにとっては欠かせない。自ら繰り返し褥痩を患い解決策を求めて渡米。以来、シーティングスペシャリストになるための訓練を受け、日本での普及に努めるアクセスインターナショナル社長・山崎泰広氏がシーティングの意義を熱っぽく語った。

 実際にシーティング車椅子を使っている山崎安雅氏(本誌2002年11月号で紹介)からも「ついPCの勉強に集中してベッド上で長時間座ってしまい、今までに年に4、5回は褥痩に悩まされました。現在のシーティング車椅子では、朝9時半から夜12時近くまでPCを使ったり外出していますが一度も褥痩はできていません」と車椅子の違いによる生活の変化が述べられた。ITを活用するチャレンジドの就労拡大に欠かせない技術だけに、日本の福祉政策への大きな問題提起となったに違いない。

 


現職知事によるセッション
地域の取り組みを語る


 「ユニバーサル社会創造に向けた官からの発信」では、インスパイア社長成毛真氏の軽妙な司会のもとに、各省から電子政府などへの取り組みの経緯が説明された。ある官僚からはチャレンジドらが行政の理不尽を批判することなく、自身でできることからチャレンジしているという姿勢に頭が下がるとの見解を示されたほか、課題認識の共存の必要性も述べられた。最後となった「ユニバーサルな日本創造は地域から!」では堂本暁子千葉県知事、井戸敏三兵庫県知事をはじめとした5人の知事と神戸市長ほかオブザーバーに北川正恭早稲田大学教授を迎え、ナミねぇを中心に笑いあり、感動ありのセッションが行われた。

 各県のユニバーサル化への取り組みが報告された後、小規模作業所・授産施設を本当の働く場にするための「チャレンジド・クリエイティブ・プロジェクト」が紹介され、フェリシモ社長矢崎和彦氏から経緯が説明された。本音を交えた討論に会場は熱気に包まれ、最後にユニバーサル社会創造に向けての「CJF2003 国際会議ちば宣言」を採択。チャレンジドに限らず、すべての人々が持てる力を発揮し支え合う「ユニバーサル社会」形成へ向けて、参加者の気持ちが一つになってフォーラムは幕を閉じた。

 


構成/木戸隆文  撮影/有本真紀・佐々木啓太


[チャレンジド] 神から挑戦する使命を与えられた人を示し、近年「ハンディキャップ」に代わる新たな言葉として米国で使われるようになった。


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●出版社 株式会社サイビズ