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産経新聞 2003年8月26日より転載

     
 
使う側が試される
 
 
 
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 12年前からITを駆使して、チャレンジド(障害を持つ人)の社会参画と自立、就労の促進を目標に活動してきたプロップ・ステーションを主宰するナミねぇにとって、インターネットや携帯電話を使った犯罪や誹謗(ひぼう)中傷、自殺(あるいは他殺)の呼びかけの多発などに複雑な思いを抱かずにいられません。

 ITは介護や介助の必要なチャレンジドが社会と繋がり、自ら情報の受発信を行い、在宅ででも働けるチャンスを得るという素晴らしいツールであると同時に、重いチャレンジドさえもが「犯罪者」や「犯罪幇助(ほうじょ)者」になれる(?)時代を生み出したともいえます。10年前には想像もできなかったことやけど、ベッドの上のチャレンジドが株で大成功を収めるチャンスを得ると同時に、大失敗することもあり得るし、匿名性のもとで他人になりすましたり、ハッキングの達人になることも可能です。ITの発達は「人間は障害の有無に関係なく、とても多様な存在なのだ」という厳然たる事実を私たちに突きつけることになりました。そんなことを考えている時、アメリカに居る友人がこう言いました。「アメリカには10年以上前からリフト付きのパトカーがあるし、車いす用の留置場だってあるよ」って。うーむ、目から鱗(うろこ)じゃ! 日本では警察署の正面玄関が階段になってて「車いすの方はこのベルを押してください」なんて呼び鈴が壁に付いたりするのにね。

 そういえば、精神障害を持つ人とその家族で組織されたあるグループが「精神障害者ということだけで罪を減じるのは差別だ。精神障害があっても、私たちは善悪の区別ができる」と言っておられるのを聞いた時もナルホドと思ったものです。すっごくむかついた時「アノ掲示板に匿名で書いたろかしらん」という誘惑に負けそうになり、思いとどまった事が何度かあります。便利な道具であればあるほど、使う側が試されるってことやね。

 

竹中ナミ
(たけなか・なみ=プロップ・ステーション理事長)



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