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日本工業新聞 2003年2月25日より転載

     
  活力自治体フェア2003特別講演  
 
ITが拓く新しい社会
 
 
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長
竹中 ナミ氏
 
 
 

▼ 社会を支える側に回れる

竹中ナミ写真

《たけなか・なみ》

 神戸市立本山中卒。91年障害者の自立と就労を推進するボランティア団体プロップ・ステーションを発足。98年社会福祉法人格取得、理事長に就任。岐阜県IT顧問、総務省情報通信審議会委員など自治体、中央官庁のアドバイザーを歴任。54歳。兵庫県出身。

 私が主宰している社会福祉法人プロップ・ステーションというのは、障害が重くて家族の介護を受けている方や養護施設にいる方々が、IT(情報技術)を活用することで社会とつながりコミュニケーションをとり、働く人=タックス・ペイヤーになって社会を支える側の一員になってもらいたい、と12年前の91年5月に踏み出したボランティアのグループです。

 この10年はよく失われた10年といわれるのですが、私たちの活動にとって、実に充実した10年でした。生きる誇りとか人間の尊厳とかというものを、ITを使って取り戻してきた10年でした。私がなぜITを使うという活動をするのか。福祉という部分に機械を使うなんてというのが、私がこの活動を始めるまでの感覚でした。

 ところが、全国の重度あるいは重症といわれる人たちからアンケートをとると、寄せられた回答の8割が働きたい。コンピューターを使って仕事ができるようになりたい。でも勉強できる場所がない。雇ってくれる会社もない。勉強の場所と、プロの技術者と認定してくれる仕組みと、仕事を在宅でできたら自分たちはコンピューターを武器に仕事人になれる。12年前に重度の障害を持つ人が回答を寄せてきたのです。そうか勉強の場所と評価の仕組みと仕事と在宅か、壁はたった4つか。それならこの4つをクリアしたらいいのだと。その4つを実際クリアするのにこの10年近くかかったわけです。

 私たちはボランティアですから、お金は1円もありません。そこで企業に協力を求めました。あなたの会社の商品の良きユーザー、あなたの会社の仕事をやり遂げる働き手が生まれてくるので、ぜひ先行投資してくださいと言ったのです。ほとんどすべてのコンピューターのメーカー、それからソフト関係の会社、国内外問わず支援していただきました。

 次は仕事です。プロの方が教えてくださっていますから、この人はもうこれくらいの仕事ならできると分かるわけです。そうしていくつかの仕事をもらい、きちんとやり遂げるというような経験をさせていただきました。

 そのときにひとつ大きな問題が起きました。それは、私たちがボランティアグループだったということなのです。電子政府・電子自治体から発生するITの仕事を、個人商店に出せるかというと出せないのです。私たちは法人化しなければならなくなりました。

 ところがITですから、情報処理とかが入った社会福祉法人ってひとつもないのです。しかし世の中、風が吹くときは拭くなという感じですね。私たちが申請をしたときにすでに、ITはこれから社会福祉に使えるのではないかと、いろんな省庁、研究者の方たちが言い始めていました。プロップのような活動は、面白いんじゃないかと、いろんな人が言ってくださったようで、認可が下りました。

 奇跡だといわれましたが、認可が下りるということになってビックリしました。「1億円の基金を積みなさい」と言われたのです。それで支援者の方にいろいろ相談をさせていただきました。なんと背中を押してくださった方がおりました。当時マイクロソフトの社長、成毛真さんです。ビル・ゲイツさんと相談をし、社内マッチングギフトという制度を使って1億円そろえてくださいました。

 ですからプロップ・ステーションは最初からITの申し子といいますが、いろんな面でITの力でここまでやってきました。プロップの12年間の活動で、本当に重度・重症の方が働けるようになるんだということが証明されてきました。

 三重県では、自治体と地元企業と地元のNPOの人たちが一緒になってコンピューターの勉強をし、プロにし、そして自治体や地元企業の仕事を障害を持つ方につなぐ「e−フォーラム」というグループが立ち上がりました。その後、熊本県で同様の「熊本テレワークプロジェクト」が立ち上がりました。

 つまりプロップというのは、この12年間ひとつの実験だったんです。このようなプロセスを踏むと、彼らが社会を支える側に回れるというプロセスを見せたグループということです。私の望みは、都道府県に一つくらいは、自治体と地元の企業と地元のNPOが一緒になって運営する組織があり、プロップのノウハウを見習い、それがまたコンピューターネットワークでつながって情報交換して、「あそこだけではできない大きな仕事が入ったみたい。それならみんなでやり遂げようか」というように発展していったらうれしいと思います。


▼ チャレンジドオブ納税者

 プロップ・ステーションのスローガンは「チャレンジドオブ納税者」つまり障害を持つ人をタックス・ペイヤーにしようというスローガンで非常に過激です。福祉というのは、税金からなんぼとれるかであってなんぼ払うかではない。日本ではそうですよね。でもそのタックス・ペイヤーになるということは、発言者になるということなのです。たとえ1日1−2時間しか働けない人に対しても、全面的な福祉の対象というのではなくて、1−2時間は働けるという部分を評価してあげて、残りの部分を社会が支えるというような新しい働き方や支え方の概念を生み出してほしいと思います。

 日本の経済が本当に立ち直ってほしいと私は思っていますが、ぜひ彼らの力を経済を立て直す一員に使ってやってください。私はよく行政の方にもお願いするんです。1万円の補助金ではなく1万円の仕事を出してやってください。補助ではなく仕事をください。プロップのような組織が、必ずきちんとコーディネーションをして一人前の働き手を育てます。できる量は少ないかもしれないけれど、1人分を3人や5人で行います。納期と価格とグレードはきちっと守ります。それをコーディネートする組織が責任を持てば、私は彼らの力を十分生かせると思っています。

 こういうことを全国に広めていくために、私たちは「チャレンジド・ジャパン・フォーラム」というのを毎年開いております。今年は8月21、22日に、この幕張メッセ国際会議場で開きます。米国やスウェーデンなどの先進的な団体の方々も参加する予定ですので、ぜひぜひ集まっていただければと思います。


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