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日本工業新聞 2003年1月30日より転載

     
  活力自治体フェア2003  
 
電子政府・自治体でニッポン再生
 
 
 

調
総務省顧問月尾嘉男氏の写真
総務省顧問
月尾 嘉男氏

 早期で財政再建図る

 今の日本は大きな転換期にさしかかっている。人口は増大から縮小へ、生きがいは仕事から生活へ、社会構造は集中から分散へ、経済は物質から情報へと転換している。数千年前の農業(AT)革命から数百年前の産業(ET)革命へ、そして現代の情報(IT)革命へ。こうした大きな流れの中で、地方自治体など地域が直面している課題も多い。
 地方分権、財政再建、市町村合併、産業再編という、さまざまな課題を解決していくには、IT(情報技術)を活用して電子行政を推し進めることが重要だ。電子行政により市民が情報を共有することで地方分権を促し、業務改革による財政再建や、自治体の再編で行政サービスを向上させ、新しい産業を育成。こうして構造改革を進め、自治体を社会改革の拠点とするために、電子政府・電子自治体を実現する必要がある。
 日本の電子政府の現状は、世界で17位と遅れている。日本政府は、「e−Japan戦略」の重点項目のひとつとして、電子政府・電子自治体の早期実現を掲げている。自治体の行政にかかわる皆さんには、この社会をより良い方向へ転換させる電子政府・電子自治体を積極的に推進してもらいたい。
(東大大学院教授、前総務省総務審議官)

 
 
活力自治体フェア
 
岐阜県は「D−ガバメント構想」を実現するための具体的な取り組み事例を数多く紹介

 各自治体による展示ブースは、前回以上にIT(情報技術)活用に対する意識の高まりを印象づける内容となった。「第2回電子自治体大賞」の受賞自治体によるデモブースでは、グランプリに輝いた岐阜県が「D−ガバメント構想」を紹介。ITを使って情報化するだけでなく、行政サービスの質的向上も目指す同構想は、多くの自治体関係者の関心を呼んでいた。同県はこのほかにも、「日米電子自治体会議」の創設を提唱するなど、電子自治体の“先頭ランナー”にふさわしい、独自性の高い展示内容が目立った。

グランプリ事例に高い関心

 
三重県上野市は職員が忍者姿で純米酒などの名産品をPR

 都道府県部門で優秀賞を受賞した三重県は、岐阜県やNTTコミュニケーションズ(東京都千代田区)などと共同で設立したサイバーウェイブジャパン(三重県津市)が提供中の「CWJ電子商取引サービス」を紹介。おもに三重県内の企業を対象とした同サービスは、「これまでFAXや電話に頼っていた見積書の依頼がクリックひとつで済む」(本田祐吉・サイバーウェイブジャパンEC事業部長)など、電子商取引(EC)を低コストで行えるのが特徴だ。IT投資を最小限におさえたい中小企業からの引き合いは活発で、昨年6月のサービス開始以来、すでに130社が利用しているという。
 町村部門で優秀賞を受賞した京都府園部町は、指紋による認証システムをデモ展示。センサーで中指を当てた後、ID番号を打ち込むだけでドアが開閉する仕組みだ。同システムはベンチャー企業のバイオニクス(大阪市西区)が開発、同町では来年度をめどにサーバールームの入退室用に採用したい意向だ。

 
Net Security Solution
 
最新機器・システムの展示や技術を紹介したパネルに見入る来場者(アマノのブース)

ウイルス対策などを目玉に

 今回はeビジネスの健全な発展を目指す「Net Security Solution」が同時開催された。丸紅ソリューションは、業務と無関係のホームページ(HP)へのアクセスがブロックできるコンテンツ(情報の内容)フィルターを出展した。松尾元治副部長は「自治体を対象にした展示会の出展は今回が初めて。不正侵入検知システムと合わせて市場への浸透を図りたい」と意気込んでいた。
 eラーニングで学ぶインターネットセキュリティー講座を紹介するのは産業能率大学。昨年12月に開講した新しい講座で、最前線で働く実務者が対象だ。学習時間は6時間で、情報セキュリティーの基本がマスターできる。受講目標数は年間3千人。
 日本ネットワークアンシエイツはウイルス対策の運用、管理の自動化を可能にしたウイルス対策サービス製品を目玉に据えた。中村陽子課長は「岡山、山形、和歌山の各県庁で導入されており、自治体関係者の関心は高い」とPR。昨年7月の発売から12月末までに、一般企業1,500社が購入しヒット商品となっている。

 
会場から 行政、事業に活かします
参議院議員ツルネン・マルティ氏の写真

参議院議員

ツルネン・マルティ氏

 「環境に興味があり来場した。自分は今EMのまちづくりを推進しており、現在関連の議員立法を作成している。昨年も来場したが、その日は自分が繰り上げ当選が決まった日で、途中で帰らなくてはならなかった。今年は3日間かけて、ゆっくり展示会に参加するつもりでいる」

福岡県議会議員石橋保則氏の写真

福岡県議会議員

石橋 保則氏

 「このフェアに初めて参加した。展示会は、さまざまな角度から自治体を取り上げている点がいい。現在有明海の環境問題に取り組んでおり、明日のセミナーで意見発表をする予定だ。今回勉強したことを福岡の行政に生かしていきたい」

十六コンピュータサービス社長足立育雄氏の写真

十六コンピュータ
サービス社長

足立 育雄氏

 「私たちは電子自治体大賞を受賞した岐阜県のバリアフリー端末を供給しているが、展示会という形で取り組みを紹介してもえることは非常にうれしい。かねてから知事が地方のIT業者が仕事を取る努力が必要だといっているが、こういう場で勉強することがまず重要だと感じた」
 
特別講演

IT、環境重点で生き残り

 三重県知事 北川 正恭氏

三重県知事北川正恭氏の写真 ITの進化は、行政がすべての情報をオープンにし、「生活者起点」つまり、納税者の視点に立たなければならないということを教えてくれた。
 私は知事就任以来、3つの視点を掲げている。1つば、「情報サービス県」にするということだ。幸い県内にCATV(ケーブルテレビ)網が発達していたため、現在はほぼ100%のブロードバンド(広帯域)化を実現している。
 2つに「情報発信の人づくり先進県」にすることだ。ユビキタス社会普及には時間がかかるため、ITが活用できる人材を少しでも増やすことが重要だ。
そうすることで、県民全体のリテラシー向上にもつながる。3つには、「情報デモクラシー先進県」になることにも注力している。
 ITとともに環境にも力を入れてきた。環境ISO導入で業務を見直すことで、3年間で16億円の経費削減を実現できた。
環境に配慮しないと生き残れずに損したな、という社会に確実になっていると強く感じる。
 21世紀は、行政が地域に溶け込み、市民に信頼されることで、真の民主主義を高めることができるはずだ。


ITで障害者の自立促す

 社会福祉法人プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミ氏

社会福祉法人プロップ・ステーション理事長竹中ナミ氏の写真 社会福祉法人の「プロップ・ステーション」は、ITを活用して障害者の自立と社会参画を促すのを目的に活動している。
私たちは障害者を、挑戦という課題やチャンスを与えられた人という意味をもつ「チャレンジド」と呼んでいる。障害を社会のためにポジティブに生かしていこうという思いからだ。
 これまで日本の福祉政策は、障害者を「守ってあげる」「救済してあげる」という考え方でやってきた。しかし、これでは障害者が誇りを持つことができない。障害者それぞれがもつ可能性を引き出し、その知識や能力を社会のために役立てることができれば、障害者の真の自立につながり、誇りも持てるようになる。また、このことは、少子高齢化を迎える日本にとって必要不可欠の社会的な仕組みでもある。
 障害者の可能性を引き出す有効なツールがコンピューター(IT)だ。プロップ・ステーションの活動を通じ、障害者や高齢者が元気をもって働ける国にしていきたい、と考えている。


電子自治体都道府県報告
民間との協力、提携不可欠

 岐阜県知事 梶原 拓氏

岐阜県知事梶原拓氏の写真 自治体がIT政策巷進めるには、戦略的なアウトソーシングが必要だ。特に電子政府・電子自治体という高度な政策の実現は、自治体が単独できるものではない。民間企業との協力、提携関係の構築が不可欠だ。
 岐阜県では、NTTコミュニケーションズと115億円でアウトソーシング契約を結んだが、行政の情報システムの再構築で66億円、運営経費を7年間で35億円節減するという大きな成果を生んでいる。このアウトソーシングは、地域のIT産業を育てるうえでも大きく役立っている。この業務にベンチャー企業を含め、地元企業を半分くらい活用している。
 岐阜県のアウトソーシングモデルは、ITの専門家を内部で育成しづらい自治体には良い例になると思う。「第2回電子自治体大賞」でグランプリを受賞した理由もそこにある。ITの進展は“秒進分歩”だ。民間との協力なくして電子自治体の実現はない。岐阜県では、産官そして学を含めたネットワークでIT政策を進め、行政サービスの顧客である県民の立場から真の電子自治体を考え、県民の夢の実現を目指したい。

 
EMシンポジウム EMで地球環境を救う

琉球大学教授比嘉照夫氏の写真琉球大学教授 比嘉 照夫氏

 人間にとってよい働きをする微生物を複合した液体のEM(有効微生物群)の活用が急速に拡大してきた。これまで行政サイドは、EMに対し二十年間抵抗してきたが、それが一変、現時点で全国で七百を超える自治体が採用するまでに輪が広がった。
 最近では、広島県知事が指揮し、EMの実証実験を開始するなど大きな動きも見られる。地域の活性化には、こうしたトップの決断が今後さらに重要になる。
 全国の自治体は、法律に拘束された従来の高コスト体制に行き詰まりを感じている。こうした現状は、安全、快適、ローコスト、ハイクオリティーを備えた本物≠フシステムでしか解決できないが、EMはこの四点をすべて満たしており、急速な普及の理由になったといえる。
 EMの技術情報は常にオープンにしており、インターネットなどを駆使すれば、知恵の増幅効果も期待できる。各自治体にはフレキシブルな対応を期待したい。

IT調達セミナー プロセス高度化が必要

プロシード社長西野弘氏の写真プロシード社長 西野 弘氏

 80年代後半から90年代にかけて、米国では発注者側の政府機関が数十兆円規模のIT投資を行ってきた。しかし、発注者側の政府機関による間違えた調達マネジメントや管理が原因で多くの調達に失敗し、投資の半分はドブに捨てることになった。
 その後の度重なる改善努力により、ITを含めた政府機関の調達の多くはコストやスケジュール、さらにそのパフォーマンスにおいて大きな成果をあげてきた。
 日本の政府、自治体は、同じわだちを踏まないために「賢いIT調達手法」を実に身につける必要がある。調達手法の高度化のための課題は、IT調達に関する行政職員への教育、行政職員とシステムの専門家による共同体制の構築、ガイドブックの作成と改善・充実、国や他の自治体、民間企業との連携だ。調達プロセスの高度化ができるかどうか、それが今後、各自治体が生き残れるかどうかのカギであり、将来を大きく左右するものになるだろう。


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