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NEW MEDIA 2003年1月号より転載

     
  北川正恭・三重県知事 VS 竹中ナミ・社会福祉法人プロップステーション理事長  
 
就労支援組織「eふぉーらむ」は
チャレンジドも参画の自治を目指す
 
     
 
 
 
 

いま、障害者福祉を「保護」から「自立支援」へと大転換させるための具体的な取り組みが、地方自治体に広がり始めている。竹中ナミ・社会福祉法人プロップステーション理事長の「チャレンジドを納税者にできる日本」という訴えが、知事たちの間にまで賛同の輪を拡げたことによる動きである。
その先頭を走るのが三重県。北川正恭知事のリーダーシップで、2002年7月にチャレンジドのITを活用した自立を支援する組織「eふぉーらむ」を立ち上げた。この取り組みの持つ意味について、北川知事と竹中理事長に語ってもらった。

(構成:中和正彦=ジャーナリスト、写真:松岡由大)


北川正恭
●三重県知事


官と民のコラボレーションで1+1を10にも20にも

―― 「eふぉーらむ」は、行政だけで進めるのではなく、地域のNPO・企業・各種団体・個人と一緒になって進めるという形を取っています。このような組織にした理由は何ですか。

北川 これまで行政の職員は、「人員と予算がこれだけあって、そこに国の補助金がこれだけつくから、これだけの仕事」という考え方をしていました。「役所の仕事とはそういうものだ」という思い込みがあったと思います。
 しかし、その非効率性は明らかで、国と地方を合わせた借金が700兆円もあるわけです。極端に言うと、これからは予算も半分で何十倍の仕事をしないといけない。だとしたら、行政の人間はどんどん外に出て民間の皆さんと一緒にやっていくしかないんです。

―― 行政には「役所の仕事に間違いはない」という思い込みもあったと思いますが、知事は常々「ある程度考えたら、まずやってみて、間違ったら大胆に直せばいい」と公言し、前例のないことへの挑戦を奨励しておられますね。

北川 大事なのは、いろいろな人とぶつかりあって、共鳴しあって、新しい価値を創り出すこと。そうしない限り、いまの日本を覆っている閉塞感は取れないでしょう。
 最近、「北京で蝶々が羽ばたいたらニューヨークでハリケーンが起きる」という話があって、とても気に入っています。これは「ミクロのゆらぎがマクロを動かす」という複雑系の理論の話なんですが、私はそういう共鳴を起こしたいわけですよ。官と民のコラボレーションによって、1+1が10にも20にもなっていく仕組みを作りたいわけです。

プロップの最終目標はプロップが要らなくなること

―― 「eふぉーらむ」のアドバイザーになっている竹中さんとしては、知事がそういう考え方で進めていこうとしているのは、心強いですよね。

竹中 そうですね。今後のプロセスをどんどん情報公開して、人を巻き込むパワーをつけていってほしいと思います。
 プロップステーションは、いわば実験プロジェクトで、チャレンジドがITを活用して働けるようになり、納税もできるようになるプロセスのモデル作りをしてきました。その活動の最終目標は、実はプロップが要らなくなることなんです。
 三重県で「eふぉーらむ」が生まれて、いくつかの自治体でそれに続く動きが出てきて、いま国レベルでもチャレンジドの就労について制度改革に向けて動きが始まっています。この動きが順調に進んで、47都道府県に最低1つずつ「eふぉーらむ」のような組織ができて、全国津々浦々までチャレンジド就労支援の仕組みが行き届いたとき、プロップは要らなくなる。それを目指しているんです。

―― 竹中さんが言い出した「チャレンジドを納税者に」というスローガンは、いまや大きなうねりを生み出していますね。

竹中 そうですね。でも、これは私がどうのという話ではなく、時代です。旧来の考え方を変えなければならない、ギリギリのところまで来ていたんです。
 最初は、チャレンジドの中にも、「税金で障害者に何かしてあげるのが福祉なのに、障害者に税金払えとは何事や!」という人がたくさんいました。それに対して、私たちは「あなたがそういう考え方なのは構わないけれども、働いて社会を支える側に回りたいという人には、それができる選択肢があっていいじゃないですか」というスタンスで活動してきました。そうしたら、その選択肢を選ぶ人が徐々に増えて、企業や行政にもそれを応援しようという人が増えて、「eふぉーらむ」のようなものが出てきたわけです。

ノーマライゼーションも社会貢献から社会的責任へ

竹中 「eふぉーらむ」を軌道に乗せるには、県が率先して補助金を出すのではなく、仕事を出すことが必要になると思います。しかし、これはなかなか大変なことですよね。「入札の制度はこうで、対象となる事業者はこうで」と、条件がガチガチに固まっていて、それを変えなければいけない。変えるには、「法的整合性が要る」「議会の承認が要る」と幾重ものハードルがある。そのあたりのことは、どうお考えですか?

北川 やるんだという腹は決めているので、順序を踏んで、きちんと説明して理解を得ていきたいと思っています。
 近年、「市民社会に対してきちんと責任を果たしている企業に投資しよう」という社会的責任投資の考え方が高まっています。そうした中で、いまや環境保全は社会貢献というよりも社会的責任と捉えるべきであり、「きちんと果たさない企業は存続しませんよ」という時代になっています。私は、やがてノーマライゼーションもそうなると思っているんです。
 三重県では、「環境に優しいものは優先的に買いましょう」というグリーン購入の制度を、すでにスタートさせています。チャレンジド就労支援にも、こういう考え方を適用できると思っています。

自己実現しやすい社会 参画しやすい社会を

北川 私は常々「生活者起点の行政」ということを言っていますが、生活者が求める豊かさは変わったんです。貧しかったときはto have、つまり、たくさん所有することに豊かさを感じたわけですけれど、いまはto be 、つまり人としての在り方、生き方の問題になってきている。
 だとしたら、行政もそこに焦点を当てるべきだと思うんです。これからのテーマは、いかに自己実現しやすい社会をつくるか、自己実現を阻むバリアをなくしていくか、ということだと思うわけです。

竹中 それに、ミクロで見ると、いまは不況で雇用も大変ですが、マクロで見ると少子高齢社会で、いわゆる健常な若い人たちだけしか働かないのでは、社会を支えられなくなるわけですよね。どうしても、高齢者もチャレンジドも働ける社会をつくることが必要なんです。

―― その仕組みができたらプロップは要らなくなるという話でしたが、目標はいつ頃ですか。

竹中 長くかかっても5年以内。

北川 その頃には、県庁も要らなくなったり(笑)。

竹中 そんな(笑)。

北川 いや、そうなってもいいんです。市民は何でもかでも行政に要求し、市町村は何でもかでも県に要求し、打ち出の小槌を期待し続けるという関係は、終わりにしないといけない。
 いまNPOが行政から自立した団体として大きな役割を担うようになってきたわけですが、私は、「自立」というのは市民一人ひとりがNPOのようになる社会ではないか。その基盤は「参画」ということではないかと思うんです。
 成熟した民主主義のためにも、チャレンジドや高齢者を含めたすべての人が参画できるようにする「ノーマライゼーション」の推進が必要だと思います。

―― ありがとうございました。


竹中ナミ
●社会福祉法人プロップステーション理事長


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