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朝日新聞 2002年12月26日より転載

     
 
考えんとアカンね みんなの道
安全・安心のまちづくりシンポジウム
 
 
心の障壁ない街を
 
 
高齢・障害者も「みんな快適」へ
 
 
 
 
 

 暮らしやすいまちづくりについて話し合うシンポジウム「考えんとアカンね みんなの道――安全・安心のまちづくりシンポジウム」(主催・国土交通省近畿地方整備局、朝日新聞社)が14日、大阪市内で開かれた。冒頭、全国で介護について講演を行っている女優・小山明子さんが「やさしい心で明るい未来を」と題して基調講演。続いて、福祉問題の専門家5人によるパネルディスカッションが行われ、道路を中心に高齢者や身体障害者に優しいまちづくりの課題などを話し合った。


三星 まず、パネリストの方々の活動の現状報告と問題提起をお願いします。

大西 大阪市の老人クラブ連合会は、現在、11万数千人の方が入っており、傘下に24区あります。活動の第一は、健康保持、生き生きとした生活を送ることです。健康であれば、公共の奉仕もできるわけです。

竹中 プロップ・ステーションは、IT(情報技術)を活用して、重い障害のある方々に、できる力を発揮して社会を支える側に回ってもらうことをしているグループです。障害を持っておられる方も、必ずできることがあるわけで、それを引き出して、支え合うことが一番大きな目標です。

伏見 堺市の福祉事業の紹介をさせてもらいます。高齢者から障害者の方まですべての人が、健康で安全・安心して日常の生活を送ることができるよう、鉄道の駅、道路、公園など、だれもが利用しやすいまちづくりを進めています。
 高齢者、障害者の方の自立を支援する施策も進めていますが、課題としては、ハード整備と高齢者、障害者支援策に合わせて、心のバリアフリーを醸成していく必要があると考えています。

瀬戸 高齢者の方や障害を持つ方が、道路を快適に利用できるように、バリアフリー、ユニバーサルデザインといった考え方が、クローズアップされてきています。そのために、歩道の段差を解消したり、点字ブロックを設置したりといったことを進めています。

 

大西夏雄さん
おおにし・なつお 社団法人大阪市老人クラブ連合会理事長。00年12月から現職。
竹中ナミさん
たけなか・なみ 社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。厚生労働省の研究委員なども務める。
伏見弘之さん
ふしみ・ひろゆき 大阪府堺市助役。府土木部事業管理室長を経て02年6月から現職。
瀬戸 馨さん
せと・かおる 国土交通省大阪国道工事事務所長。関東地方建設局を経て01年4月から現職。
三星昭宏さん
(コーディネーター)
みほし・あきひろ 近畿大学理工学部教授。専攻は土木計画学。

 

着々と進むハードの改造

三星 テーマを絞り込んで、ユニバーサルデザインの考え方でまちをどうつくっていくか討議したいと思います。
 これを考える時に、「障害」をとらえ直したいと思います。従来の考え方は、本人国有の心身障害を指していました。でも、環境が障害をつくるととらえたい。例えば、私は近眼ですが、障害者と呼ばれません。眼鏡でカバーできているからですね。カバーされて機能が果たせるなら障害はない、ということになります。まちづくりでもこの考え方がポイントです。
 最初に、全国に先駆けて交通バリアフリー法での移動円滑化基本構想作成に取り組んでいる堺市の伏見さんから、お願いします。

伏見 堺市には、全部で43の駅があり、そのうちの29駅がこの交通バリア法でいう対象駅になっています。駅周辺と小学校や保健所など公共施設を含めた一定エリアのバリアフリー化を段階的に進めているわけです。
 例えば、駅舎であればエレベーターの設置であるとか、それから、誘導の案内、点字の案内設備であるとか、転落時の緊急押しボタンであるとか、バリアフリーの観点からの整備項目というのを定めています。
 計画を進めるために自治会の方、女性団体、老人クラブ、障害者団体などの代表の方などの参画を得まして、総勢32人の委員会を作りました。

瀬戸 国土交通省のバリアフリーへの考え方をお話ししたいと思います。
 内閣府が実施している世論調査では、歩行者の立場から道路整備に望むことで一番多いのは歩道の段差、道路の段差をなくすことです。それから、幅の広い歩道を整備して欲しい、電柱や看板が邪魔になるので撤去して欲しい。それと、迷惑駐車や放置自転車の問題、最近では、自転車と歩行者を分離して欲しい、バリアフリー経路の案内をしてほしいといったような項目が高くなってきています。
 そこで、立体横断施設へのエレベーターの設置、駐輪場の整備、電線類の地中化などについて、個別にやるのではなく、特定整備地区を定めて集中的に取り組んでいます。様々な施策を一定区域で実施することで、交通安全の確保と快適なまちの空間、道の空間を整備していこうというものです。
 大阪府全体では、平成13年度に作成された基本構想は、6市10地区13駅、また14年度では、12市26地区31駅で基本構想の作成を行っているところです。

三星 大西さん、竹中さん、民間の立場からいかがですか。

大西 各区の大会などに出かけますと、道路がきれいに、歩道がきれいに整備されて、バスも乗りやすいようになりました。その点さえ進んでいけば、高齢者としても住み良いし、障害者の方もこれから表へどんどん出られるようになる。

竹中 ユニバーサルデザインとは、ハード面の話ではなくて、理念とか哲学とか文化だと思うんですね。生活するすべての人の力を発揮させるまちなのか、すべての人が移動できる道や鉄道なのか、といったところから入って、それが結果としてハードに表れるのではないでしょうか。

 

思いやり乏しい現実も

三星 おっしゃるとおりように、ハードだけではユニバーサルな社会はつくれませんね。

大西 先ほど道路などが整備されて、表へ出やすくなったと言いましたが、現実を見ていますと、地下鉄の周辺などには自転車がたくさん放置されています。風の強い時など、自転車がみんな横倒しに道路をふさいだりしています。一人一人の思いやりが少ないと感じるざるを得ない。

竹中 階段にスロープができた、エレベーターができたよ、とかいうことを、伝え合う手段が今はITになっているんですね。自分も困ったんやから、きっと困った人もいるやろうと発信された情報は、温かい情報として伝わってくる。一人一人が、そういう情報を伝え合っていければいいなと考えています。

三星 行政のお2人はいかがですか。

伏見 ユニバーサルデザインについて話せてもらいます。
 基本構想の策定時には、点検調査を実施しています。高齢者の方、障害者の方、地方自治体の方に参加してもらいました。13年度は6駅で延べ478人の参加をいただきました。
 また、健常者の方にキャップハンディ体験、ハンディキャップの逆ということで、健常者の方が車いすを利用したり、あるいはアイマスクをしたりという体験も実施しています。5班から6班ぐらいに分けて歩いてもらい、どこに問題があるか点検しているわけです。
瀬戸 ハードだけではバリアフリーは達成できないというお話がありました。放置自転車はその典型です。私どもの職員が、そこに置かないよう呼びかけをしていたわけですが、この部分を地域の皆さんにお願いできないかと、現在話し合いを進めているところです。
 悪気があって皆さん駐輪しているわけではないとは思いますが、1台、2台、となると、後は雪だるま式になってしまう。とにかく1台も駐輪させないようにすることが大切で、そうなると、市民といいますか、自転車利用者のマナーが大切になるわけです。

 

市民の熱度を高めよう

三星 結局、熱度の高い市民がユニバーサルなまちをつくり、またユニバーサルなまちをつくることで市民的熱度を高めるという相互作用があるわけですね。
 今後の目指すべき方向として、参加・参画の問題があります。ユニバーサルデザインを考えていくなら、多様な方々に参加してもらわないと、良いものができない。できたものの良しあしの評価の主体はあくまで市民とか当事者、使う人です。

大西 私たち人間というのは、みんな別々の考えを持っています。バリアフリーのお話でも、案がいろいろ出てきます。それはみんな、その通りだと思いますが、市民の側にも、例えば自転車の置き方のように、一人一人が考えなければならないことはあると思います。
 大阪市の財政も苦しいから、なかなか全部手が回らないということもありますし。

竹中 障害を持つ方々もユニバーサル社会の形成にかかわることができると思います。移動しにくいところを一番モニタリングできて、それを情報発信することができるわけですから。ぜひ、行政の方に、そういう期待を寄せていただいて、彼らの参加と参画を実現させてもらえればと思います。

三星 これからの大きな課題として、情報がまだ市民には行き渡ってない問題があります。情報発信のスキルはこれからもっと勉強していかなければ。一方で、市民の側も情報を得る努力していかないと。何といっても情報を出していくことでユニバーサルデザインが進化していくわけですから。

 


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