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● プロップ・ステーション
プロップ・ステーションは、1998年に社会福祉法人として認可され、コンピュータと情報 通信を活用してチャレンジド(障害者)の自立と社会参画、特に就労の促進と雇用の創出
を目標に活動している。
ホームページ
http://www.prop.or.jp/
● 竹中ナミ氏
社会福祉法人プロップ・ステーション理事長。重症心身障害児の長女を授かったことから 独学で障害児医療・福祉・教育を学ぶ。1991年、プロップ・ステーションを設立した。現
在は各行政機関の委員などを歴任する傍ら、各地で講演を行うなどチャレンジドの社会参 加と自立を支援する活動を展開している。
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日本ではまだ、車椅子は“腰掛けた状態で単に移動させるもの”であり、チャレンジドが果敢に社会に出て仕事をするための“体の一部としての大切な道具”という認識はない。今回は働きたい一心でプロップで学び、Webデザイナーとして社会人の仲間入りを果たしたある青年を紹介する。
PC嫌いを克服
教師を目指していた山崎安雅さんは大学の卒業式の当日、バイクで転倒し頸椎(けいつい)損傷の大怪我を負った。助からないといわれるほどの重症だったが、約1年半の入院生活とリハビリを、持ち前の体力と精神力でこなし、奇跡的に回復。その後、働きたいという強い意志で福井県三方町から家族の車で4時間かけて神戸のプロップ・ステーションに1年半通い続けた。「安雅くんはもともと体育系で、やろうと決意すると最後までやり抜く熱血漢タイプの青年です。毎週、遠くから通い続けられたんは本人の強い意志と、その本人の意志を尊重した家族の応援、そしてITや電動車椅子など科学技術の進歩があったからでしょうね。働くために不可欠なシーティング(※1)を施した車椅子は、仕事のほかにも、たとえばこれから恋愛もするやろうし、自分の人生設計において目標に向かって移動するのに必要だという話をよくするんです」(ナミねぇ)
高校、大学を通じてボート部で活躍し、高校時代は大きな大会での優勝経験もある。体を動かすのが得意でパソコンは大の苦手だった。PC嫌いを克服した彼の努力は、周囲の誰もが認めるところだ。
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――プロップとの出会いのきっかけは?
山崎 兵庫県の施設でリハビリを受けた後に、全国にある重度障害者更正援護施設で、さらにリハビリを望んだのですが、症状が重度過ぎて難しいと次々と断られてしまいました。家で悶々としながらPCを触っていたのですが、あるOT(※2)(作業療法士)の先生が就職するために勉強する場所があるよと教えてくれたんです。
――プロップのホームページで衝撃を受けたとか。
山崎 はい。今まで自分の思っていることがすべて書かれていました。私が障害者になると友人らは働くことよりも障害者スポーツなど、まず遊ぶことを勧めるんですよ。何で働き口を教えてくれへんのや、働かんと遊ぶこともできへんやんという気持ちでいっぱいでした。プロップに電話をするとすぐに「とりあえず頑張って来てみるか」と二つ返事が受け入れてくれたことも驚きでした。
――プロップのセミナーの印象は?
山崎 とんでもないとこに来たなというのが正直な感想です。本気で働く気がないとついていけないし、プロの講師の言葉だけに重みが違うんですよ。最初は家で1時間でもPCの前に座っていればもういいかという状態でしたが、自分はPCが好きなんだと半ば暗示をかけながら無我夢中で頑張りました(笑)。
――シーティングの車椅子について。
山崎 最初の車椅子は何をどうしていいのかわからず、最小限の改造で障害者が車椅子に無理やり体を合わせていました。国内メーカーの車椅子は働くことを前提に作られておらず、長時間の座位が可能な車椅子はないに等しいと思います。私のような障害はベッド上でPCを使う場合、5時間も座ると褥創(じょくそう、床ずれ)ができてお尻に良くないんです。そこで体に車椅子を合わせるシーティング技術を使うことで長時間座ることができるんです。
――車椅子は国から補助を受けているそうですが?
山崎 すべての車椅子が補助を受けているわけではありませんし、シーティング技術を取り入れた特別仕様の車椅子も規格外という呼び方をされます。しかし、チャレンジドも働けると認めて、働くために必要なPCや車椅子を先行投資するという考え方があれば、いずれ長いスパンで資金も循環するのでは、と思います。
――これからの目標を聞かせてください。
山崎 何よりもプロップの仕事を受注できる自分となり結果を出すこと、つまり収入を得ることですね。障害者だからといって働かなくてもいいという考えはとおらないし、就労の義務もあれば納税の義務もある。手段は人それぞれで、PC使う人はPCを通じて、義務を果たせるべきだと思っています。決してあきらめず、少しずつでいいんですから。
車椅子は働くための道具
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※ 1【シーティング】
障害者の身体に合わせて車椅子を設定することで、長時間使用しても疲れや痛みを感じずに残存機能を最大限に発揮できるという車椅子処方の技術をいう。
野田聖子衆議院議員が座長を務めるユニバーサルPT勉強会でも、シーティングに関する勉強会とデモンストレーションが行われたそうだ。
※ 2 OT=Occupational Therapy |
山崎さんは現在、補助申請に向けて医師や理学療法士の理由書を集めている段階だが、障害者福祉が救済型から自立支援型へと国の方針が転換した今、地方自治体の動きが注目されるところだ。
「首や腰骨の骨折の場合は、感覚がなくなるためにまさに褥創との戦いです。山崎くんのように長時間PCで仕事をするには、シーティング(座位保持)車椅子がとても重要になります。
チャレンジドが働くには欠かせない補助の問題も、たとえば働くための道具として社会人になる後押しをする場合、たとえ税金が投入されたとしても納税という形で社会還元されたり、あるいはチャレンジドが得た収入で良き消費者になるという善の循環が始まります。今、日本の車椅子の指定業者でシーティングをするところはほとんどありません。これからは自分の体の状態がどうであれ、仕事がしたい、働きたいという人がどんどん現れてくるわけですから、車椅子が働く道具として見直され、シーティングが当たり前の世界になればいいと思っています」(ナミねぇ)
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