[up] [next] [previous]
  

財界 2002年5月より転載

     
 
Challenged(チャレンジド)
 
 
 
 
  Shuhei & Yoshiの 英楽通法  第21回 岸本 周平
 
     


「チャレンジドを納税者にできる日本」を旗印に社会運動をしている元気印の竹中ナミさん。茶髪で派手なノリノリの関西系の美女(!?)である。肩書きは社会福祉法人プロップ・ステーションの理事長さん。親分肌の姉御なので、ニックネームは「ナミねぇ」。“the challenged”というのは“handicapped”に代わる新しい米語で、「神さまから挑戦すべき課題や使命、あるいはチャンスを与えられた人」という意味。普通は障害者を“challenged”と呼ぶが、健常者でも何かに立ち向かって挑戦している人はみんな“challenged”である。ノーマライゼーションよりももっとpositive(積極的)な語感がある。「障害があるから、挑戦することができるんだ」という意識はこれまでの国の障害者政策を根本からひっくり返してしまうパワーを呼び起こす。しかも、「しっかり働いて税金払いなさいよ!社会を支える側にまわるのよ」というのである。 ナミねぇは「隔離し、保護する。できない部分を教えて、そこを埋め合わせるために補助をするという日本の福祉政策」に“No”を突きつけた。「チャレンジド達の眠っている能力を生かして、誇りを取り戻す。できることなら、働いて納税をすることができないか」そのために、ITを使ってチャレンジドの能力を高めるセミナーをし、就職のお世話をするというのがプロップ・ステーションの仕事である。

彼女は、このスローガンのヒントを1962年2月1日のジョン・F・ケネディ大統領の 演説からもらったと言う。ケネディ大統領は「We must find ways of returning far more of our dependent people to independence. We must find ways of returning them to a participating and productive role in the community.」と演説している。曰く「The goals of our public welfare programs must be positive and constructive-to create economic and social opportunities for the less fortunate-to help them find productive, happy, and independent lives.」

社会への参加や生産的な役割、そして独立した生活という新しい概念を散りばめた名演説である。今から、40年前のケネディ大統領の政策が、日本政府ではなく、決して大きいとは言えないNPOによって実行されていることに感動を覚える。


きしもと・しゅうへい  『中年英語組』著者。1956年和歌山県生まれ。東京大学法学部 卒業後、大蔵省入省、主税局、主計局などを経て95年ブリンストン大学国際問題研究所 客員研究員、現在は経済産業省文化情報関連産業課長。