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NEW MEDIA 2002年1月号より転載 |
The Challenged とメディアサポート | ||
「21世紀、日本は地域から変わる」か | ||
「第7回チャレンジド・ジャパン・フォーラム 2001国際会議 in みえ」報告 | ||
![]() 「第7回チャレンジド・ジャパンフォーラム(CJF)2001 国際会議inみえ」が11月1〜2日の両日、三重県志摩スペイン村で開催された。自らの課題に挑戦する前向きな障害者=チャレンジドが自立できるIT社会を目指す。「カンビアモス・ラ・ソシエダ」(スペイン語で「社会を変えよう!」の意)というキャッチフレーズを掲げた今回は、地方の、そして個人の自己変革が日本を変えるというメッセージが強く感じられた。その内容をお伝えする。 (報告:中和正彦−ジャーナリスト 写真:村川勉)
今回のCJFは、北川正恭三重県知事の強い要請で同県での開催が決まった。開会にあたって、知事は次のように語った。 「今まで絶対と思われてきた世の中の仕組みが、アッという間に崩れていく時代です。福祉も、『障害を持つ恵まれない方をお世話しましょう』という考えで発展してきましたが、『個人の尊厳を考えたとき、それでいいのか』という疑問が出てきました。それを10年前から提起してきた竹中ナミさん(社会福祉法人プロップステーション理事長・CJF創始者)の活動は、まさに時代を切り開くチャレンジだったと思います。私もCJFに何回か出席させていただき、『ぜひ三重県で時代を画するようなCJFをやりたい』とお願いして、今回の開催になったわけです」 続いての記念講演は竹中さん。北川知事の心も動かせた、かねての持論を力強く展開した。その要旨を改めて紹介すると−。 重症心身障害を持って生まれた自分の娘はすべての面で介護が必要だが、それには多大な負担がかかる。国が貧しくなる、あるいは人の心が貧しくなると、彼女のような人は生きていくことを許されなくなる。 一方、障害を持つ人々の多くは彼女とは違い、自分も社会に出て自立したい、何か人の役に立ちたいという願いを持ち、潜在能力も持っている。しかし、日本社会は彼らも一括りに保護の対象とし、社会の一員(労働者・納税者・消費者など)として誇りを持って生きられる環境を作ってこなかった。 いま日本では、社会が少子高齢化による負担増に耐えられるかどうか心配されている。その一方で、ITが障害を持つ人々の可能性を大きく拡げている。少子高齢化を乗り切るには、ITを活用して障害者や高齢者もそれぞれの事情や能力に応じて働けるチャンスを増やすことが必要。それが、すべての人が尊厳を持って生きられる社会につながる−。
この竹中さんの主張を核に、産・学・官・民(NPOなど)の枠を超える賛同者・支援者の輪を拡げてきたのが、CJF。いまやその輪は、 中央・地方の政策決定者レベルや海外にまで広がっている。記念講演の2人目は、名古屋米国領事館領事のダーナ・アン・ウェルトンさんだった。 日本は、働けない人にも働ける人に大きく見劣りすることのない生活を保障しようとしてきた“結果平等”の社会だが、米国は、すべての人が働ける社会基盤を保障しようとしてきた“機会平等”の社会。ウェルトンさんは、日本が学ぶべき機会均等のためのさまざまな考え方や取り組みを紹介した。 また、9月の同時多発テロで約2,500人が大怪我をして後遺障害に苦しむ心配があるという現状を紹介。「(あの日以降それまでのようには生きられなくなった)私たちすべてがチャレンジドなのです」と結んだ。
以降の セッションでは、すでに社会に飛び出した障害当事者のチャレンジドたちが次々と自らの挑戦を語っていった。 先月号当連載で紹介したフューチャーシステムコンサルティング社のエンジニア・池内里羽さん(四肢麻痺)は、自らの経験を披露して、最後にこう述べた。 「実は、チャレンジドと呼ばれるのは、何か特別に挑戦しなければならないような感じがして、あまり好きではないんです。早く、チャレンジドという言葉がなくなるくらい障害者が社会に出るのが当たり前になればいいなあと思っています」 今年、絵本作家デビュー作の出版を果たした「くぼりえ」さん(四肢麻痺)は、パソコンとインターネットで、創作活動のみならず生活全般が変わったと語った。デジタルアーティストとして表現の幅を拡げる吉田幾俊さん(四肢麻痺)は、障害を持つがゆえの苦労や将来不安を述べながらも、「健常者・障害者に関わらず、人間、弱いところを持っているほうが表現する情熱も生まれてくる」と語り、会場をうならせた。 マイクロソフトの社員・森正さん(下肢麻痺、在宅でマニュアル等の翻訳にあたる)と細田和也さん(全盲、Windows等のアクセシビリティを担当)は、健常者・障害者に関わらず仕事は厳しいものだということを、体験を通して語った。
今回のCJFで最大の関心を集めたのは、プログラム最後の「21世紀、日本は地域から変わる!」と題する改革派の知事たちによるセッションだった。 当初は、太田房江大阪府知事、潮谷義子熊本県知事、堂本暁子千葉県知事、増田寛也岩手県知事、北川三重県知事の5知事の予定だったが、太田知事が急遽病欠。残念ながら、「女性3知事が公開の場で顔を合わせて議論する初の機会」は実現しなかった。しかし、4人の知事がこのような場に会して2時間以上もチャレンジドやITを中心に地方改革を語るというのは異例のことである。
それぞれの活発な発言を要点のみコンパクトにまとめると、次のようになる。 【潮谷知事】これから先、障害を持つ方々がITというツールを使ってバリアを取り除いていくことを、私はとても期待している。
だから、県として、障害者・高齢者に積極的にIT講習会に臨んでもらえるよう力を入れた。 また、NEXT熊本というNPOを立ち上げ、その中で「障害者雇用促進のためのテレワークモデルの構築」という取り組みを始めた。平成14年度のモデル事業立ち上げを目指している。 2002年は熊本で「アビリンピック」(全国障害者技能競技大会)を開くが、何事につけ障害を持つ人がチャンレンジする姿はもっと表に出していかないと、なかなか理解が広がらない。障害を持つ方々とは、社会に出ることが社会を変える力になるという意識を共有していきたい。 【堂本知事】県も市町村も、私が「もっと当事者の声を聞いて」と言うと、「では施設の職員を呼んで」といった答えが返ってくる。施設に入所している人の声、本当の当事者の声を聞きに行くという姿勢を持ってもらわないといけない。また、当事者も、本気になって声を上げてもらわないといけない。そういう動きが地方から出てきたとき、国のシステムも変えることができると思う。 施設については、「働けない人が入るところ」という前提はなくすべきだと、今日のチャレンジドの方々の発表を聞いて強く思った。 IT社会では、施設で介護を受けながら情報的自立・経済的自立を果たすことも可能になる。そういう環境を作ることは、行政がやるべき仕事の一つだと思う。
【増田知事】県内各地に福祉作業所があり、これまでは補助金頼みという状況だった。いまこれを自立経営できる方向に持っていこうとしている。売れるものを作るには、ネットワーク化とニーズの掘り起こしが必要で、その手段は、やはりIT。これから地域社会が生きていくにはITが不可欠と考え、積極的に取り組んでいる。 地方自治体は現場を持っているために大変な部分もあるが、逆にそこから国にない強みが生まれる。地域に合った政策が磨かれる。これからは、そういう部分に力を入れていく。 【北川知事】海外から志摩地域に大容量・高速の海底ケーブルが陸揚げされる。三重県はこれを活用した情報化まちづくり施策「志摩サイバーペ−スプロジェクト」を立ち上げたが、その柱の一つとして、ITを活用したチャレンジドの就労支援・自立支援を考えている。 いま日本は東京一極集中で、地方は地盤沈下している。変革の意志を持った地方が力を合わせて、地方から日本の構造を変革していく必要がある。それには、「行政は絶対に間違ってはいけない」と新しい取り組みに慎重になるのではなく、「間違ったらすぐ直す」という姿勢でどんどんやってみる。そうして競い合っていくことが大切だと思う。 * * IT社会で活躍するチャレンジドたちと、地方改革に取り組む知事たち。別世界に生きる両者に、時として同じようなものが感じられた。それは挑戦者の姿勢だろうか。とにかく、それには官民、男女、障害の有無といった違いはまったく感じられなかった。
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