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シルバー新報 2001年10月19日より転載

     
  プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミさんに聞く  
  誇りある自立を促す支援を  
 
 
  一人ひとりが主役の福祉を
  = Let's challenge! =
 
     
 社福祉法人プロップ・ステーション理事長の竹中ナミさんは、「チャレンジド(障害 者)を納税者にできる日本」を目指し、IT講習や就労支援に取り組んでいる。小泉内閣が 規制改革に伴って整備しようとしているセーフティネットについて、「従来型のための補 助金では国民は失望する。誇りある自立を促す予算を」とメールで阪口厚生大臣に提言。 これを受けて大臣も内閣の発行するメールマガジンで「もう一度厚生労働行政を見直した い」と考えを明らかにした。提言の具体的な中身について竹中さんに聞いた。 (鶴賀 茂)


教育課程で別扱いされてきた障害者
  −具体的には大臣にどんな提言を。


 「障害を持っている人が日本ではなぜ仕事ができないのかについて問題を整理し、私な りの解決策をいくつか提言しました。問題の一つは、チャレンジドは仕事をしようにもそのための知識を身に付けられないこと。

  障害児は就学義務を猶予・免除されてきましたので、かつては義務教育すら受けられませんでした。昭和54年に児童福祉法が改定され、就学が義務化されましたが、義務化さ れたのは養護学校で、いわゆる特殊教育。障害児が普通学校に通学する道が広がるように文部科学省が就学指導基準の見直しを打ち出したのはつい昨年の暮れのことです。

  つまり、昨年までは障害を持つ人はそもそも教育課程において、一般の人とは別扱いさ れてきました。障害の内容や程度によって理解力は人それぞれなのにそこは考慮されない。 結果的に、基礎学力が乏しく、切磋琢磨や競争も含めた社会的な経験をする機会が与えら れない。

 学齢期を過ぎると、今度は、障害者雇用促進法によりさらに別枠扱いを受けました。

 こうした現状は理不尽というか、不合理としかいえないと指摘し、解決策としては、障害を持つ人に対して、仕事ができないことに対して補助金を出すのではなくて、むしろ仕事ができるように能力を身に付け、就労を促すことに予算を使うべきだと提言しました。

  学校教育を十分に受けられなかった人たちに、チャンスをもう一度提供する。それは、公立の学校に限らず、いろいろな場で行えばいい」

教育と就労の両面で社会的な支援を
  −プロップの主な活動も就労支援ですね。

 「障害を持つ人や高齢者を対象にコンピュータ講座を開催し、さらに、そこで技術を身 に付けた人たちが企業などから在宅ワークの仕事を受注できるようにコーディネートする活動を、約10年間、続けてきました。

 受講者は昨年までに500人を超え、50人以上が企業のシステム開発やホームページ制作などの仕事を請け負ったり、企業に就職ないし在宅就労している人たちも10人以上い ます。

  受講者の多くが、障害の度合いに応じて国から支給される障害基礎年金の中から、自腹を切ってでも勉強したいと参加してきます。

  ただ障害を持つというだけで全員に年金が支給されるのは日本だけです。

  働けば年金は減らされるだけ。自分の努力で収入を積み上げることができない仕組みなのです。教育と就労支援の両面での社会的な支援策が必要です」

在宅就労促すNPO組織を全国に
  −国でも法定雇用率を設けるなどの対策がありますが。

 「雇用率制度のマイナス面は、一つは、企業は障害を持つ人を雇用率を達成するための数字としてしか見えず、障害を持つ人もどんな仕事ができるか問われないことに慣れてしまっている点です。

 二つ目は、雇用でなく在宅就労を広げることに役立っていないことです。先進国では企業がチャレンジドに仕事をアウトソースしたり、就労のための訓練に貢献したりすることも、企業努力としてカウントされるようになりつつありますが、日本ではまだ雇用率一本やりです。

 就労障害を持つ人の在宅就労のために企業とチャレンジをつないでいくプロップのようなNPO組織を各地に増やしていくことです」

施設入居者にも就労の機会を
   −他に提言した点は。

 「チャレンジドの在宅就労を促進していくためにも、施設に入っていても働けるかという点も問題になってきつつありますので、施設介護を受けながらでも働けるような方策についても提言しました。

 自宅で家族の介護を受けながら働いていた人が、家族が介護できなくなって施設に入っ た場合でも働き続けられるようにしたい。そうすれば、家族が元気になった時には自宅に戻って働くことができます。介護していた家族が亡くなっても、ただ自宅から施設へと住まいが変わったというだけで働くことを断念せずにすみます。

 現実には、IT技術を身に付けたとしても、施設に自分専用の仕事スペースを確保するの はまだまだ難しい面もあります。でも、特養ホームで生活しながら俳人、作家として働き続け、ホームページを開設している花田春兆さん(大正14年生まれ)のような人もいるんですよ。

 むしろ大きな問題は福祉や介護に対する考え方です。障害を持つ人のマイナス面を補うのが福祉であるという考え方から、誇りある自立のために応援する、その人の持っている力を引き出すのがこれからの福祉であってほしい。

 これまで施設は入居者は働けない人という考え方が前提としてあったと思いますが、ITの普及もあってそうではなくなってきました。法律的に壁があるのではなく、施設側の考え方を変える必要があるのです」


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