”障害者の就労”がテーマのイベント |
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チャレンジド・ジャパン・フォーラム |
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7月8日に開催されたチャレンジド・ジャパン・フォーラム(主催:東京大学社会情報研究所、プロップ・ステーション、株式会社ニューメディア)では、「チャレンジドを納税者にできる日本・実現に向けたアクション・プラン作り」をテーマに、さまざまな角度から障害者のネットワーク利用に関して熱心に議論された。 | ||
●「チャレンジド」は「挑戦し続ける人」
「チャレンジド」とは、アメリカで身体障害者を示す言葉である。日本では「障害者」という言葉で括られるが、アメリカでは「挑戦し続ける人」という意味を込めて、障害者をこう呼ぶ。「チャレンジド」という言葉に対する感じ方はそれぞれ違う。障害者の中には、「別にわれわれは挑戦しているわけではない」と言う人もいる。ただ、現在の障害者の就労を取り巻く状況は厳しく、その中で、あえて仕事を通じて社会にかかわろうとする彼らの姿は、まさに「挑戦し続ける人」という言葉がぴったりだ。そして、その挑戦を実現していくツールとして、今インターネットが注目されている。
●チャレンジド・ジャパン・フォーラムの概況
チャレンジド・ジャパン・フォーラムは、大阪のプロップ・ステーション(代表:竹中ナミ)という組織が主催して開催された。プロップ・ステーションは障害者の就労を支援する組織で、いわゆるNPO(非営利組織)であり、関西地域を中心に活動している。加盟している障害者を企業に斡旋したり、何社かの協力を得て、実際にネットワークを使って就労している会員が何人かいる。
このフォーラムは、今回で3回目である。実は、第1回と第2回は一般公開されていない、プロップ・ステーションの会員向けの会合だった。今回、初めて一般公開となった。このフォーラムの特徴は、実際に障害者が出てきて自らの体験を語ること、そして、「障害者の就労」に協力的な企業の代表者が出席して、企業の側からの意見も言うことの2点だ。今回は、ウィンドウズ95でおなじみのマイクロソフト株式会社、そしてWeb上でアニメーションが見られる「ショックウェーブ」の開発元であるマクロメディア・ジャパン株式会社の2社の代表取締役がパネリストとして出席し、同社の障害者の雇用に関する考え方や、障害者が使うソフトウェアのあり方などを語った。
また、障害者を納税者にするために、行政機関がどのように動けばいいのかということも重要であるために、通産省や郵政省、自治省などの行政側からも出席者を招聘している。障害者自身の立場から政策を考えるとともに、企業や行政などの意見も取り入れている点は、なかなか他のイベントでは見られない。●藤沢と大阪にも会場を設置
第1回は東京、第2回は大阪で開催された同フォーラムだが、今回は東京大学の山上会館で開催された。ただ、より多くの人に見てもらえるように、大阪市と神奈川県藤沢市にも会場設置して、NTTの協力を得てビデオ会議システムで映像を中継した。そのため、3会場合わせた来場者も今回は300名と前回よりも多い。このビデオ会議は同時に、パネリストの参加にも利用される。大阪や藤沢にいるパネリストが、これを利用して出席するためである。藤沢市の会場では慶応大学教授の金子郁容氏、そして大阪会場からは関西電力の絹川正明氏が参加した。
聴覚障害者のための手話通訳もいた。
●「障害者とネットワーク」についてさまざまな面で考察
第1部では「21世紀に向けたテレワーク」と題して、マイクロソフトの成毛真社長やマクロメディアの手嶋雅夫氏、金子郁容氏、プロップ・ステーションの竹中代表らで、ディスカッションが行われた。ネットワークを利用しての在宅勤務のあり方、そして企業側として障害者をどのように見ているかということを話し合った。その中で、障害者の就労がコンピュータネットワークを使うことでスムーズになること、そして、だからこそ障害者も健常者となんら変わることなく、「一芸」を身に付ける必要があるのだという意見が成毛氏や手嶋氏から寄せられた。また、「積極的に企業を活用してほしい」という意見も成毛氏から寄せられた。
その後、成毛氏と細田和也さんによる対談(詳しくは下段参照)、第2部ではプロップ・ステーションの活動紹介および障害者の在宅就労事例、通産省や郵政省、自治省の人を交えて、NPOのあり方などについて討議された。障害者が単独で企業にアプローチするよりも、支援組織を活用したほうがはるかにやりやすくなる。ただ、支援組織がスムーズに障害者を支援できるようにするためにも、NPOという組織形態をもう少し社会的に認知される必要がある。そのための法制度の改正についての意見などが述べられた。民間、行政、研究機関とさまざまな人から意見が寄せられたことにも、大きな意味があったと言える。
東京会場には約100人ほどが集まった。
障害者が使いやすいウィンドウズを目指して |
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――― 細田和也さん ―――
マイクロソフト社と共同してウィンドウズ95のソフトウェア開発に勤しんでいる全盲のパソコンユーザー、細田和也さん。今回、マイクロソフト株式会社の成毛社長との対談となった。
細田さんは生後1歳半で癌のために両眼を摘出した。ただ、工作が好きでパソコンやラジオの製作に興味を持ち、現在淑徳大学4年に籍を置きながら、マイクロソフト社に協力している。「シュアの大きいソフトが使えなければ仕事にならない」というきっかけでウィンドウズ95に挑戦するが、日本語環境による音声装置の不備に不満を感じた。そして視覚障害者が使うためのソフトウェアが日本語版よりもはるかに整っている英語版ウィンドウズ95をインストールして使っている。マイクロソフト社に協力している細田氏だが、それは現在のウィンドウズ95に大きな不満を持っているからだと、会場では包み隠さず語る。
対する成毛社長もその批判は真撃に受け止めている。日本語版ウィンドウズ95には入力デバイス、ソフトウェアともに、全盲の人が使える環境が整っていない。それに関しては現状をとにかく認めたうえでこれから、製品を出して、それに対する意見をフィールドバックして新たな商品を開発していくしかないと語る。
成毛社長が「少なくとも、パソコンのソフトウェアを売らせたらうちは世界一です。だからこそ、チャレンジドの方はもっとうまくプロを利用してほしい」と語ったのに対して、細田氏は「成毛さんは、ソフト業界では(マイクロソフトはプロだ)と言います。僕も、長い間全盲やってますんで、全盲にかけてはプロです。ですから、全盲にかけては、とにかく、僕を利用してくれればどういうことかというのを知ることができますし、それでどんどん良いものができてくれれば、それでいいということです」とやりかえす場面も見られた。細田さんがかかわることで、次のウィンドウズはどのように変わるのか。視覚障害者が使うということを真に考えた次世代ウィンドウズの登場が待たれる。
対談後にパネリスト一同で。向かって左からプロップ・ステーション代表の竹中ナミ女史、マイクロソフト代表の成毛真氏、細田氏、マイクロソフトの技術スタッフの真中信一氏。