2000.8.31(2日目)
セッション6
「チャレンジドと新たな地域コミュニティの創造提言」

総合司会
 清原 慶子:東京工科大学メディア学部教授、CJF副座長

ナビゲーター
 金子 郁容:慶応幼稚舎、慶応義塾大学教授
 成毛 真:マイクロソフト(株)特別顧問、(株)インスパイア社長

パネリスト
 増田 寛也:岩手県知事
 北川 正恭:三重県知事
 浅野 史郎:宮城県知事
 橋本 大二郎:高知県知事
 石川 嘉延:静岡県知事
 竹中 ナミ:プロップ・ステーション理事長


清原 慶子:第6回チャレンジド・ジャパン・フォーラム2000日米会議、最後のセッションを始めます。チャレンジドと新たな地域コミュニティ創造とそれに向けての提言ということでございます。ナビゲーターは、慶応の金子郁容さんと成毛真さんです。そして、皆様向かって左側から、ご提言いたがく方々を紹介します。岩手県知事・増田寛也さん、三重県知事・北川正恭さん、宮城県知事・浅野史郎さん。そして、皆様ご存じ、竹中ナミさんです。それから、後ほど金子さんからもご紹介ありますが、ビデオで高知県知事・橋本大二郎さん、静岡県知事・石川嘉延さんにも参加していただきます。では、ここからは、金子さんと成毛さんに進行していただきます。

慶応幼稚舎長、慶應義塾大学教授 金子 郁容さん
ナビゲーター
慶応幼稚舎長、
慶応義塾大学教授
金子 郁容さん

金子 郁容:IT大臣はいつまでおやりになるのでしょう。大臣はよく変わります。それに対して、知事の皆さんはしばらくおられるので、これから日本を変えるのはこの方々と思っています(笑)。冗談はさておき、二日間の締めくくりです。

 CJFは、第1回から「チャレンジドが本当に参画できる社会づくりには、国の役割はもちろん大きいけれども、地域のイニシアティブが大事だ」ということで、先進的な知事の皆様の積極的な参加をいただいておりますが、今日はその中の何人かにおいでいただいています。日本で先進的な知事がこのくらいしかいないというのは寂しいのですが、あとで橋本さんと石川さんもビデオ参加されます。

 昨日の最後のセッションで、西嶋さんと成毛さんのダブルナビゲーターが面白かったので、今日も成毛さんにナビゲータになっていただきます。ひとこと。

成毛 真:はい、ツッコミ担当の成毛です。よろしくお願いします(笑)。

金子:では、さっそくセッションに入ります。まず、それぞれの知事に5分ぐらい、自分の県、社会をどう変えていくのか、その中にチャレンジドの話も出てくると思いますが、お話いただきます。

 浅野さんは、前回のチャレンジド・ジャパン・フォーラムの主催者でございます。聞くところによると、第7回は三重県だという噂ですが、その次は岩手県でやろうと、職員の方が言っていました。そういう意味では、5回、7回、8回の主催者が並んでいることになります。今後、国体のように毎年いろんな県を渡り歩くことになるのかも知れませんが(笑)、その順番ということで、浅野さんからお願いします。

宮城県 浅野 史郎 知事
宮城県
浅野 史郎 知事

浅野 史郎:その順番は、あいうえお順なんですね。背の小さい順でもあるんですが、正しくはご案内いただいたようにCJFの開催順です。ま、お二人は今後の予定で、予定は未定ですけど、私どもはもう実際に開催いたしました。第5回CJFを宮城県でやりました。

 私の話は、プログラムにある自筆の「知事挨拶」にある通りですが、私は前歴は厚生省で障害福祉課長をやっていました。したがって、障害福祉という仕事は私にとってプロフェッショナルな仕事、つまり給料をもらってやる仕事でした。その仕事をしていて、いろんなことをやったり、やらなかったこともありましたが、その中で認識したのは、「障害福祉の仕事というのは『哀れでかわいそうな障害者のために何かいいことをしてあげる』というものではない」ということです。大事なのは障害者に尊厳を保障すること。そのことは認識しました。ただ、そうは言っても、具体的にLet's be Proud! をどう実現したらいいのか。その確かな答えが見つからないまま過ごしてしまいました。

 いま、こうしてCJFに参画して思いますのは、そこにITというものがあったではないかということです。最新技術を使って、いろいろなハンディキャップを持ったチャレンジドが、それを見事に乗り越えていく。少なくとも可能性は手にした。これは就労や趣味にも結びつきますが、私の問題意識からすれば、人間としての尊厳を獲得することに結びつくわけです。ここでやっと答えを得たという気がしました。

 そこから出発して、我が宮城県も、「障害福祉の目標はひとり一人のチャレンジドに尊厳を持った生活をしてもらうようにすることだ」ということで、そのためにいろんなことをやっていきたいと思っています。来年(2001年)は、我が宮城県で第56回国民体育大会が開催されます。たった1年間で運営費だけで80億円くらいかかります。それまでに何百億円という施設整備のお金がかかって、これはすでに使ってあります。こうしたことをしますと、当然「そんなお金を使っていったい何が残るんだ」という批判が出ます。ですから、宮城県では、そこも踏まえて「バリアフリー国体」と銘打って、この国体を通じてバリアフリーの考え方の実践を示していこうということにしました。いろいろな障害を持たれた方々が、宮城県なら一緒に参画できる、それを、受け入れる県民の側も実感できる仕掛けをしていきたいと思っています。国体の後にはいろいろな財産が残りますが、その一つとして“バリアフリー宮城”というのが残れば、お金をかけた成果と誇ることができると思っています。

 今回のCJFの副題である「Let's be Proud! 」を、私は本当に気に入っています。ここではチャレンジドの問題から出た言葉ですが、いろいろなところで力を与える言葉だと思います。いま、宮城県でもいろいろな地域が過疎と高齢化に悩んでいます。「何とかしてくれ」という話が来ます。しかし、その前に「Let's be Proud! 」。「我が町にはこんな素晴らしいところがある」と、長所を見つけていく作業を通じて、Let's be Proud! と一緒に唱えていただきたい。

 というわけで、今回のCJFへの参加では、チャレンジドとITの出会いということだけでなく、私が県政を進めていく上でのキーワードを得たと思います。あと1つキーワードを言えば、「参加」ということですね。参加して能力を発揮していただくこと、これは動員ではできないし、お金でもできない。自発的な参加ということは、まさにプライドにもつながる。そんなことも思いました。

金子:ありがとうございました。では、来年開催の北川さんから。

三重県 北川 正恭 知事
三重県
北川 正恭 知事

北川 正恭:こんにちは。三重県知事の北川正恭でございます。私がこの「チャレンジド」という言葉と出会ったのは数年前になりますが、私の友達が三重県でゴルフ場を経営しておりまして、そこで障害を持つ人のためゴルフ大会が持たれました。その時、「ハンディキャップ・ゴルフ大会」という言葉が「チャレンジド・ゴルフ大会」に変わったんです。そこで「チャレンジド」という言葉の発想に驚いて、毎年その大会には私も参加しています。その「チャレンジド」という言葉の出所は竹中さんだということを後で知って、「ああ、こうやって世の中は変わっていくんだな」と思いました。

 で、そんなことから竹中さんの活動とだんだん関係が深まっていって、来年はCJFを三重県で開催することになりました。どうぞご来県ください。三重県はいろいろな人材を輩出しています。松尾芭蕉がどこの出身か、ご存知でしょうか。私は三重県知事です。いかがでしょうか(笑)。そうなんです。決して宮城県や岩手県ではなくて、三重県なんです。何の話をしているのかわからなくなってきましたが、その三重県でCJFをやりますので、どうぞよろしくお願いしたいと思います。

 いま社会が根底から変わりつつあります。私は、文明史的転換点だと思っています。私は5年ほど前に知事に就任したとき、公務員のいろいろな規定を見ました。そうしたら、何かのところで通勤する場所が指定されていて、通勤しなければならないことになっていました。私は不思議に思って、「通勤できない人はどうするの」と聞きました。

 結局、セッション5で坂本審議官からも話があったように、みんな気がつかない間にバリアをつけているんですね。

 通勤できる健常者を前提にしていること自体が、私には人権無視だと思えます。足に代るパソコンもできたわけですから、やはりホームオフィスというような働き方をどんどん実行しなければならないと思います。

 この5年間、「そんなものだ」と思い込んできた我々のデモクラシーを根底的に見直さなければならないようなIT革命が起きているんだと感じています。したがって、障害者を納税者にという思想からいけば、ホームオフィス、通勤せずとも成果によって対価を得られる。そういう社会を作っていきたい。意欲のある人にチャンスを与え続けるノーマライゼーションの世界を作っていきたい。そういうことをテーマに、来年はCJFをやらせていただきたいと考えています。

 セッション4で谷井くん(Pep-Com)が発表をしてくれましたが、これもプロップ・ステーションのサポートがあって彼が立ち上がり、それが県の施策とも合致して発展しているわけで、私は大変喜んでおります。しかも、成毛さんを初め多くの方が、そういうスピリットに対して温かい支援をしてくださっているということです。21世紀を目前にして20世紀の閉塞感を取り除いていく動きは、こういった形で始まるのではないか。そして、そういう形で自立した地球市民をいかに作って行けるかが三重県政の目標だと、私は思っているところです。次回のCJFでは、そういうコンセプトを見事に出して、「三重県でもノーマライゼーションの世界を率先して目指すのは行政なんだ」というターニングポイントにしたい。そう思って参加させていただきました。

金子:ありがとうございました。浅野さん、北川さんはCJFではおなじみのフィギュアですが、増田さんは前回からですね。

 ぼくは、実は去年学生なんかと一緒に2度ほど岩手県に行っています。非常に空気もよくて素晴らしいところですが、それ以外の私の関心としては、こういうことがあります。有機野菜など食の安全が問題になっていますが、日本の中で自治体とNPOが集まって、どういうものをグローバルスタンダードに照らして安全と認証するか、その認証機関を作る動きがあります。その最初のイグザンプル、「日本中で実績はここだけ」というのが、岩手県にあるんです。

 そういう意味では、岩手はNPO活動が盛んなところで、このフォーラムにもずいぶん岩手県の方がいらしています。マイクロバスで大挙してやって来られて、「岩手に人がいなっちゃうんじゃなか」と(笑)。それは冗談ですが、そういう岩手県の増田さん、よろしくお願いします。

岩手県 増田 寛也 知事
岩手県
増田 寛也 知事

増田 寛也:岩手県知事の増田でございます。いま金子さんからお話のあったように、CJFには昨年の宮城大会から参加しました。さっきの話を聞いていると、来年は三重県だそうです。CJFの開催地はどうやって今まで決まったのかよくわかりませんが、去年の様子を見ていると、誰かが決めたのではなく、何となく決まってしまったたようで、先ほどの話からすると、岩手県が第8回目の会場と決まったような感じもあります。ま、しかし、大変良いことなので、宮城でやって、中間の東京と三重でやって、次に松尾芭蕉が生まれたところではないけれども一番いい作品を残した我が岩手県でやっていただくのもいいな、と(笑)。

 今日いろいろお話を聞いて来て、行政としていちばん心がけるべきことは、余計な口を出さないことではないか。余計なことに口を出すと、だんだんパターン化するんですね。たとえば、「バリアフリーの町づくり」とか「障害者にやさしい町づくり」とかが県の条例にもあるんですけど、それを見ていきますと、最後には町で車道と歩道の段差をなくすとか、なんかそんな目に見えるところだけやって、あとは何も続かないでお終いになってしまうことが多いんですね。隣のいろんなところを見ながら横並びでやっていって、定型化していく。

 実際には、県内にはチャレンジドかどうかなど関係なく、いろいろな人がいて、すごい潜在的な力があるんです。県としては、それをいかに発掘していくかです。みなさんがやりやすいように、今もっている力を最大限に活用できるように、行政でやれる条件整備みたいなことがあれば、やる。そうすれば、あとはみなさん方が自由に力を形にして表してくれるのではないかと思います。ですから、人がいて職員がいて、テーマがあって課題があって、「こうやらなくては」「ああやらなくては」となっていって、かえって潜在的な力を殺してしまうようなことを恐れています。

 たとえば、NPOやNGOの活動の力をさらに引き出していくことが必要ですが、そのために寄付をすると、いま、税制上は寄付なんですが、税金がかかります。アメリカやヨーロッパでは、もっと支援しやすいようになっています。そういう仕組みづくりを行政がして、その後のNPO・NGOの活動は社会から評価を受ければいいんですね。財政をガラス張りにしていい活動をしているところは、多くの方の賛同を得て、さらに一段と優れた活動になるでしょう。そういう力を引き出すような施策を、岩手県でもやっていきたいなあと思っています。

 今日、会場には地域の活動をしている人たちが大勢来てくれています。岩手県は北海道に次ぐ大きな面積がありますが、それ以上にすばらしい人材がいっぱいいます。その中にはチャレンジドの人もいます。ぼくは、実はチャレンジドという言葉自体知らなかったんですけど、「神からチャンスを与えられた人」という意味だそうですね。非常に前向きにとらえている。そういう人たちの力を、ぜひ引き出していきたいと思います。

 今まで行政はパターン化していましたが、その原因の一つは、下の人から途中の人を経てという多くの段階を踏んだ意思決定の形にありました。しかし、今はIT革命で中抜けですよね。現場と意思決定をするトップがダイレクトに結べるようになっている。県民からもメールがたくさん来るようになって、実にリアルに状況がわかるような時代になっています。中抜きということは、やがては「県」も要らなくなるかもしれないですけど、そういうITの力などを使って、本当に地域の人の力が出てくるような、そういうことをこれから、岩手県として是非やりたいと思っています。

 再来年、岩手県でのCJFがそういうことのキッカケ、あるいは象徴として開催できればいいなと思っています。私も一個人の立場で、県内の人とどういうことがいいことなのか相談していきたいと思います。第一ラウンドはこんなところかと。

金子:ありがとうございました。普通知事の人と話すと、「こいつ、何を言っているのかな」と思うような人が多くていらいらするんですけど、この3人の話は普通に聞けて、それだけでもすごいことだなと思いました。県政を預かる立場だから制約もあると思うんだけど、ごく普通の言葉で気持ちをこう自然に話せる。それが、なんかすごくいいなと思っちゃったんですけど、成毛さん、どうですか。

成毛:“竹中効果”とでも言うんでしょうか。私人の立場で登壇しておられるのか、公人の立場で登壇しておられるのか。靖国神社じゃありませんが、“竹中神社”とでもいうのか(笑)。ま、そんなことより、ビデオを見ましょう。

金子:では、引き続き、高知県・橋本知事と静岡県・石川知事のビデオ・メッセージを見ましょう。


高知県 橋本 大二郎 知事
高知県
橋本 大二郎 知事

橋本 大二郎:皆さん、こんにちは。高知県知事の橋本大二郎です。本日はお招きをいただき、誠にありがとうございました。竹中さんのお誘いでしたのでぜひ参加したかったのですが、この8月末に夏休みを取ることを前から決意をしておりました。というのも、休みを決めておかないと取れないという状況が続いたからです。そのため、今日は出席できません。ごめんなさい。その代わりに、ビデオで出演させていただくことにしました。

 ITは、竹中さんが進めている障害者の皆さんが納税者になるという取り組みに。たいへん大きな道具だと思います。高知県内でも障害を持つ方々が、お互いにいろいろな情報交換をする、また、福祉の自動車づくりのモニタリングをしたりするといった活動をなさっています。お家の中でパソコンを使って就労できるということは、これから障害者を持つ皆さんが仕事の機会を広げるためにもたいへん重要だと思います。高知県でも、だんだんSOHOで仕事をされる障害者の方が増えて来ました。これに応えて、来年ぐらいから県職員として、あるいは臨時職員といった形ででも、家で仕事をされるチャレンジドの方に県の仕事をお願いしていく、そんな仕組みを作って行きたいと思います。

 IT革命、情報化には、喜んでばかりはいられない面がたくさんあると感じています。ぼくから下の世代は、パソコンに抵抗感があまりありません。それを使って新しい分野への挑戦を考える人もたくさんいます。けれども、ぼくより上の世代の方々、中高年の方々には、IT革命はなかなか辛い出来事だと思います。IT革命によって新しい雇用の場は広がりますが、その一方、古い仕組みがどんどんリストラをされていく。例をあげると今その職場にいる人に悪いですが、流通や小売はIT革命によってずいぶん大きく変化していきます。具体的には、職場を奪われる方々もかなり出てくると思います。そういう意味では、IT革命には陰の面もあります。

 こういうことに備えて行政も、IT革命の波に乗れなかった人に新しい職場をどう提供するかも考える必要があります。その時に、ITを中心にした職業教育をどう進めていくかも大きな課題です。国にもそういうことに力を入れて取り組んで欲しいですし、高知県でも県として取り組める範囲で、IT革命に備えた教育に力を入れたいと思います。

 もう1つ、ぼくが情報化に関して悩んでいるのは、情報化の裾野をどう広げていくかということです。別の言い方をしますと、情報化をどう高知県の文化に拡げていけるかということです。というのは、情報化はまだまだ特定の方々のものと考えられていますし、そういう意識があるために、お年寄りを中心に情報化に参加してない人がまだたくさんいらっしゃいます。こういう人たちが参加してネットワークが拡がることが、情報化の本当の意味ですし、そこから新しいビジネスもきっと出てくるのだろうと思うんです。

 ですから、情報化の裾野をどうやって広げていったらいいかを、ここ1〜2年考えているんですが、なかなかいい知恵が浮かびません。特に行政は、公共事業を進めるといった既にできあがった仕組みの上で手際よくやっていくことには慣れているんですけれども、これまでなかったような新しい文化を地域に根づかせるといった仕事は、非常に苦手にしています。だから、なかなか行政だけでは進まないのですが、だからと言って民間だけでもうまく進みません。それが、いまの私の率直な悩みです。

 教育の情報化についても、高知県としてもいろいろな取り組みをしています。その取り組みも、ただ単に子どもたちが知識を得やすいようにして偏差値を高めるといったことではなくて、教育という分野を通じて子どもたちが情報化に慣れていくこと、情報化を文化として身につけることを大切にしています。というのも、情報化は大人が子どもに教えるよりも、子どもから大人が教えられる特徴があると思います。たとえば、子どもがパソコンなどの扱いに慣れて、家に帰ってお父さんやお母さんに「こんなに楽しい」「こんなことにも使える」と教える。それによって、お父さんたちがパソコンを地域で使うことにもつながります。

 こういう意味で、いきなり地域文化とつなげないならば、教育の情報化ということから出来ればいいなと思っています。

 高知県は情報化の先頭を走っているグループの一つだと言われ、そのことは聞いて嬉しいと思います。ただ、最初に情報化ということに手を挙げ、ネットワークを整備し、いろいろな事業のアドバルーンを上げるというところまでは良かったんですが、その次の段階について悩んでいます。それがうまく展開すれば、情報化によるいろいろなメリットもでてきますし、また、出て来た課題を解決することから全国的なビジネスも出て来だろうと思います。いまは、そのための産みの苦しみの時期かなと感じています。


金子:続きまして、静岡県・石川知事です。


静岡県 石川 嘉延 知事
静岡県
石川 嘉延 知事

石川 嘉延:静岡県知事の石川嘉延です。プロップ・ステーションの竹中さんからせっかくお招きいただいたんですが、前々からの日程でどうしようもなくてお断りしました。そうしたら最近はテレビ出演という方法もあるんだということで、こういう形になりました。

 第6回のチャレンジド・ジャパン・フォーラムは、ITをどのように活用するか、それをチャレンジドの方々がどう活用するかということがメインテーマだと承っていますが、このフォーラムそのものが第6回を数えること、しかも日米をまたいでいるということにまず驚きました。私のところでは過去4回、国際的な大きな学術フォーラムを開催していますけれども、その苦労からすると、チャレンジド・ジャパン・フォーラムが6回もかなり大きな規模で開催されていることに、非常に驚きます。と同時に、あらためてNPOの偉大さというか、その力の大きさを痛感いたしました。

 静岡県でもNPO活動がずいぶん盛んになってきまして、県でもNPOと行政との協働をどう確立するかがテーマになっています。特にプロップ・ステーションが提案しているIT活用したチャレンジドの方々の就労については、私も同感です。今年の初めに竹中さんにお話をうかがってから、なおのこと、静岡県でこれからやることについて自信をいただきまして、これから皆さま方と同じ路線というか、同じ発想で取り組んで行きたいと思っています。

竹中 ナミ:ありがとうございます。静岡県ではSOHOについての取り組みもあると聞いていますが、それはどんなお話でしょう。

石川:静岡県ではSOHOのインキュベーションを、ちょうど1年くらい前から三島で展開していますけれども、そこそこの実績が上がりつつあります。その中には、まだチャレンジドの方々に向けたものはありません。ただ、いま県内6カ所くらい、障害者のパソコン教室を開催して、裾野を広げています。これはたいへん好評で、毎日5〜10名くらいが各会場でパソコンの技能を磨いておられます。

 今後これがどんどん進んで行きますと、もっともっとレベルの高い活動をする人が生まれて来ることになります。したがって、いまのSOHOのインキュベートを、静岡・浜松と3拠点に拡大すると同時に、文字通りSOHOとしてどこに住んでいてもできるような形に持って行けるよう、県としての支援の準備をしています。

竹中:ありがとうございます。最後に、このCJFには自治体職員の方々の参加もたくさんありますので、静岡県だけでなく、自治体とNPOの関係のあり方、その場合の意識といったことについて、うかがえますでしょうか。

石川:障害者の関係する分野では、竹中さんなどのご活動があります。また、静岡県内では、環境問題などでも活発なNPOが存在します。そういうものが引き金になって、私自身、来年度から県の重点施策を戦略的に行おうということで、その戦略目標の一つとしてNPOとの協働=コラボレーションをどう拡大するかということを考えています。

 プロップ・ステーションの活動にも典型的なように、NPOの力というのはものすごい。行政の原理から考えると、最大公約数を押さえるのが宿命になります。しかし、今日のように今までの枠組みをいろんなところで取り払って新しいものを作らなければいけない時には、そうはしていられない。そこで、まさにNPOが主役になる時代が来ているのではないかと、プロップ・ステーションの活動を見ていて痛感するんです。

 ですから、我々はこれからどうやって、今後の時代の主役のひとりであるNPOとタイアップしていくか、ここに賭けてみたいと思っています。

竹中:ありがとうございます。NPOとしては励まされるのと同時に責任も感じますが、これから力を合わせて一緒にやれればと思います。今日はありがとうございました。


金子:ということで、5人の知事からのメッセージでした。竹中さん、先ほどの平沼通産大臣もそうでしたが、竹中さんには一度会うと取り込んでしまう力があるようですが、これには何か秘密があるんでしょうか。

プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミ
プロップ・ステーション理事長
竹中 ナミ

竹中:人をハエ取り紙のように言うのはやめて(笑)。ただ、私は「自分の役割は“つなぎのメリケン粉”だな」とすごく思っています。

 ”メリケン粉”として言いたいことが2つあって、ひとつはこういうこと。私は自分の娘が重症心身障害で、いま28歳になってますけど、28年前は重度の障害を持って生まれて来た子どもを育てるための情報が全然なかったんです。周りには「かわいそう」という言葉しかなかった。そこで、「情報がないと人間はいかに行動を起こせないか」ということをイヤというほど感じさせられた。だから、いまの状況、ともすると情報の洪水の中で溺れそうにも成るけれども、情報を自由に得ることができて取捨選択もできるという状況、これは人間がモチベーションを持って何かをしたいと思った時には絶好の状況だと思うんです。だから、何かやりたいと思っている人には、ぜひその情報にアクセスする道具を使って欲しい。

 もう一つは、私自身は障害児の母ちゃんであって、大学教授でもなければお医者さんでもない、要するにただ母ちゃんです。そうすると、重い障害を持って生まれた子をどう育てるかという知恵や方法は、自分だけではわからないから、いろんな人から教わるわけ。そのとき、いちばん教えてくれたのがチャレンジド自身だったんですよ。そこで、「自分の力がわずかしかなくても、たくさんの人の力をコーディネートできれば、自分の子どもに結果を出してやれる」ということを知った。情報の大切さと、いろんな人の協力の大切さ、それを感じてやってきた延長線上に、プロップ・ステーションの活動があるんです。

 で、私の経験や体験が他の人の元気の素になればうれしい。「最高のコーディネーターと呼ばれたい」なんて野心もありますが、そういう意味で“つなぎのメリケン粉”と言わせてもらっています。

金子:竹中さんがどうして皆から評価が高いかというと、ぼくは2つ秘密があると思っています。それについては、会場の外で売っている『プロップ・ステーションの挑戦』という本の中で対談をしていますので、詳しくはそれをご覧になってください。

 ちょっとだけ言いますと、一つは非常にアグレッシブなんですが、物欲しげでないんです。「欲しい、欲しい」「下さい、下さい」と言って行政や企業の人に寄り添っていくのではなくて、「こんなことをやってるけど、どう?」という感じ。で、それが「ああ、そうだね」と興味を持てるものなんです。今回は「Let's be proud! 」というタイトルがついていますが、プライドを持って接している。これはなかなか難しいことなんですね。

 もう一つは、これも簡単なようで難しいんですけど、やはり竹中さんは実績を出しているんですよね、言うだけではなく、一歩一歩実績を積んでいる。やはり相手は企業や行政ですから、実績を見て評価しますよね。その実績にはいろんな評価の仕方があると思います。ただ、企業は実績で来ますが、行政はあまり実績だけではいかない面が、今までありました。たぶん竹中さんに興味を持っている行政の人は、実力主義でないにしても良いものをちゃんと評価できるような人なのかと、私は思っています。

 成毛さん、ちょっとお聞きします。今日は知事がいらっしゃってますが、県行政の役割と、成毛さんのようなビジネス・企業の役割、私のような大学の研究者の役割、それぞれあると思うんですが、そのあたりはどう考えていますか。

マイクロソフト(株)特別顧問、(株)インスパイア社長 成毛 真さん

ナビゲーター
マイクロソフト(株)特別顧問、
(株)インスパイア社長
成毛 真さん

成毛:それこそ、知事がお3方いらしているので、聞いてみたいところですね。地方自治に足りないところがあるとお考えならば、それをどういうふうにしていくか、直接おうかがいしたいと思います。また、今回はアメリカの国防総省の方からお話がありましたが、来年の三重のCJFでは中国の人民解放軍の方でも来るのかなと(笑)。そのあたりの来年に向けた抱負も、ぜひうかがいたいと思います。宮城知事には、あれから一年たっているので結果報告も聞きたいと思います。

金子:そうですね。昨日の前半、国防総省のダイナー・コーエンさんのスピーチがありましたけれども、知事の方はいらっしゃらなかったので、さわりだけ紹介します。

 コーエンさんのスピーチは大変すばらしいと思ったんですが、DOD(国防総省)は制服組が120万人、シビリアンが70万人、約200万人の雇用者なんですね。しかも、860万人の退役軍人も抱えている組識です。当然、大きな予算を持っているんですけど、その力をよく利用しているというのが、すごく大事なことだとだと思いました。

 彼女はCAPといって、チャレンジドの人が情報にアクセスできるようにする機器や環境を提供するプログラムの責任者で、日本円にして30億円ぐらいの予算を持っていて、どんどん力のあるチャレンジドの人が働ける環境を作ってるということでした。

 そこには計算がちゃんとあって、「スマートビジネス」と何回も言ってました。要するに「ただ渡すんじゃないよ。その人たちがちゃんと働けるようにすると、すごくいい結果が出るからやるんだよ」と。しかも、大変おもしろかったのは、「チャレンジドを雇うと金がかかるからいやだ」という人がいるけれども、実は調べてみるとそうではない。DODのチャレンジドの80〜90%は、特別にかかる年間のコストが1000ドル以下。一方、そのコストをかけた結果のリターンはすごく大きい。冷静に見てみれば、グッドビジネスなんだと、そうおっしゃっていました。

 官庁の人が「グッドビジネス」というのはおもしろい言い方ですが、先ほど成毛さんから聞いたら「マイクロソフトもDODには頭が上がらないんだ。たくさん買ってもらっているから」とおっしゃっていました。行政がそういう影響力を利用してやるというのは、ある意味ですごく単純なことですが、これは企業ではなかなかできないところですよね。

 そういったことも含めて、知事の方にお話いただきたいと思います。

浅野:去年CJFをやってどうだったかというご質問がありましたが、まずは「成功体験をした」ということですね。実行委員長が知事ということもあって、県庁職員は有形無形のプレッシャーを感じながらボランティアとして手を挙げた……。論理矛盾ですね。手を挙げさせられたという面もあったかも知れませんが、まあ、自然に手が挙がりました。

 で、やってみると、これ、けっこう大変なんですよ、北川さん(笑)。まあ、しかし、その大変な事業を一応まがりなりにもやった。良かった。参加して「Let's be proud! 」である、と。この体験は、これだけに終わらず、これからいろんなプロジェクトをやっていく上で生きると思うんですよ。

 いままでこういうイベントをやるときは、実はけっこうエージェントに頼んでいたんです。彼らに頼めば、間違いなく人を集めるし、進行も滞りなくやるんです。それを今回は頼まないで、自分たちでやった。それが成功体験になった。成功体験は可能性への期待を生みます。「もっといろんなことができるんじゃないか」と。それが大きいと思います。

 具体的に実を結んでいるのは、さっき言ったバリアフリー国体の映像処理の仕事。中継まで行かないが、映像記録をとってインターネット上で紹介をする。この業務の半分以上を、チャレンジドのいま認証申請中のNPOでやります。これも、竹中さんのところの技術的なサディスションも受けながらやっています。こういう実態がある。また企業からは「私たちにこの分野でなにができるでしょうか」というオファーが来ているということなので、こちらから「こんなことをお願いします」と出せば結びつくと思います。これも前回のCJFの成果です。

 よく官尊民卑ということが言われます。お役所は威張っていて、それでも民間は言うことを聞き、お願いをしなければならない。そのように言われます。たぶん、それは法律や規則で官や行政が力を持たされているからとか、お金を持っているからではなくて、競争の中に身を置いていないからだと思います。行政のやることというのは、「宮城県はどうもダメだから福島県にお願いしよう」というわけに行かないんですね。

 一方、成毛なんかは、たとえばマイクロソフトがダメなら他の会社がすぐに取って代わるという環境に、いやでも毎日さらされるわけです。宮城県庁は幸か不幸か、そういう競争にさらされていません。ですから、お客様に対して威張るというよりも、お客様の意向に対して無関心なんですね。黙っていても、お客様はついてくるから。

 これは、金子さんは「コミュニティースクール」というものを提唱なさっていますけれども、学校の分野にも言えるんです。公立学校では、黙っていても学区の子供が通学してくる。そういう競争のないところで何が起こるかという問題が大きいと思うんです。

 隣の北川さんの専売特許ですが、やはり顧客満足というか、「我々宮城県庁もお客様を相手にしているサービス提供業者である」という意識を持ってやっていく必要がある。そこにITやチャレンジドを持ち出していいわけでないのですが、CJFをやったことによって、いままでとは別の観点から、宮城県庁も意識しつつあります。それは知事が100回訓辞を垂れるより大きい。

 私も、競争にさらされているというか、顧客がいるということを、情報公開で実感します。官尊民卑で100年間やってきたものを変えるのが、情報公開。情報公開をすることによって、行政は良くも悪くも顧客と直に結びつくことになり、大きく変わらざるを得なくなります。これから宮城に帰ると情報公開をめぐってケンカ(県警との対立)が待っているのですが、こうしたことはひとつ一つこなしていかなければいけない。これから情報公開は、我々の行政ビジネスを変えます。ITも変えます。

成毛:北川さんのところでは「生活者主権」という別の標語で県政を進めておられます。そのあたりを、来年のチャレンジド・ジャパン・フォーラムに向けての抱負も含めて。

北川:人民解放軍が来るかどうかは別にしまして、これから浅野さんのところの失敗を存分に調べて(笑)、今日の大会の成果を調べて、よりジャンプアップしたいと思います。そして、三重県の失敗は全部増田さんに提供して、岩手県で生かしていただく、と。これがいままでの知事と違うところでして、県境を越えてオープンにしているんです。

 で、増田さんのところが失敗したら手を引く。これを行政の“カナリヤ理論”と言うんです(笑)。トンネルを掘るときに先頭の人がカナリヤのカゴを下げて入って、そのカナリアが死んだら、有毒ガスが出ていて危ないということで、逃げるでしょう。そのカナリアのカゴを「今回は何とかして浅野さんに持たせよう」と。浅野さんが失敗したら、ぼくらは止めればいいし、成功したら続けばいい。この3人は、実はそういう関係にあるんです。今までの行政は、出来るだけ低い水準に合わせて「これならどこも大丈夫」という風にやってきたところが多かったと思うんですが、私どもはいちばん高い水準の成功例を観に行って、ベンチマークにして、自分たちのイベントなり政策を成功させていこうと、こういう姿勢で臨んでいるんです。

 したがって、浅野さんのところの成功例と失敗例、官民の役割分担をどうしたのかといった内容などについて勉強させていただき、今回の東京の大会も分析させていただき、来年の私どもの時にはさらに進める。そういう“進化論”を取っています。で、その成果を今度は増田さんが持っていけばいいわけですね。そうやってどんどん高みにつけば、行政でも競争が起こるわけで、そのための実験例を来年はやらせていただきたい。

 私としては、ホームオフィスという在宅で仕事をする形で、障害を持たれた方も納税者になりうるんだと、全県民、もっと大きく言うと全国民が思うようなターニングポイントというか、エポックメイキングというか、そういう大会にしたいと思っています。それを目指してどんどん内容を充実させていき、成功例はただで増田さんにあげます。そういうことでバトンタッチします(笑)。

増田:何をバトンタッチされたのかよくわからないのですが(笑)、今の文脈を受けてお話しします。

 社会経済生産性本部というのがありまして、いろんな企業の経営の品質を評価している基準を持っています。「ああいう民間企業のサービスとか経営を評価する基準を行政に持ち込んで、岩手県の仕事ぶりを外部から評価してもらおう」ということでやってみたら、1000点満点で430点でした。

北川:三重県は480点です(笑)。

増田:これでも一部上場企業の標準的な点数だということです。実は私は、あまりいい点数になると職員が自信を持ちすぎるので、内心うんと低い点数でいいと思っていたんですが、3年たったらもう一度やって、どれだけ底が上がっているかを調べる、そんなことをいま考えています。

 浅野さんが大事なことは情報公開と言っておられましたが、とにかくお互いに県同士が納税者の皆さんの前にすべてをガラス張りにして、いつ第三者に見られても大丈夫ということを柱にして、サービスを競う時代になっていくと思います。失敗例も成功例も包み隠さずオープンにして、お互いに情報交換する。そうして成功のビジネスモデルをひとつ一つ実際に作る。その積み重ねではないかと思います。

成毛:「成功のビジネスモデル」なんて、現職の知事の言葉とは思えないですね。

金子:素晴らしいですね。いい意味で、3人の知事がいいことを言おう、アピールしようということで、すごくいいお話が聞けました。浅野知事がもうお帰りの時間のようです。最後にひと言。

浅野:何か聞いてください。

成毛:いまの3知事のお話は、ひとつには競争がないので、お互いに学び合う話をしてますね。その点、NPOは意外と競争しつつあって、全部とは言いませんが、意外と協力関係になかったりします。NPOとの連携はどうお考えですか?

浅野:NPOの振興には力を入れてまして、NPO花盛りの県にしようと思っています。で、初年度の目標は「まず認証数を増やそう」と思い定めまして、人口あたりのNPOの数で日本一になろうと思ったんですが、いま第6位です。5位が三重県なんですね。ちょっと目の上のたんこぶなんですが(笑)

 それはそれとして、NPOもITと同じで、使ってなんぼなんですね。宮城県は第2段階に入りました。NPOの数はけっこう増えて、分野も出揃ってきています。で、使ってなんぼというときに、そこに中身をつけようと考えています。

 NPOにもいろんな分野がありますから、どうするかというと、まず青少年問題というのがあります。17歳問題。ひょっとすると、ああいったことの原因のひとつに、いまの若者が現実の世界というものを実感していないということがあるかも知れない。これは、ある意味でITの暗い面かもしれない。世の中には、どうしようもない貧しさがあったり、まったく自分のせいでないのにチャレンジドと呼ばれる人がいたりするのに、そういう人たちがこうして生きているということを実感する契機がない。その部分を、NPOに付託したいと思っています。

 青少年が単にボランティア活動をするのではなく、NPOそのものに参画してもらう。そういうことを考えています。たとえば、わが県でおもしろいなあと思うのに、仙台女子商業高校の学生がNPOの会計事務を手伝っているという例があります。NPOには会計とかお金の管理に弱いところが多いので、それを学校で習っている生徒が帳簿や会計をボランティアでやっているわけです。これはつまり、経営に参画しているんですね。帳簿をつけていれば、NPOがどういう活動していてお金がどう動いているかを知りますから、そこからいろんな問題意識も出て来ます。

 そんな形で、多くの青少年をNPOに巻き込んでいきたい。「ボランティアを義務づける」なんて馬鹿なことを言う人もいますが、義務づけるならNPOに「青少年を巻き込め」と義務づけたい。で、これだけ青少年を巻き込んだというのを発表して、県知事賞を差し上げるなどして、「できてなんぼ」ではなくて「青少年を巻き込む活動でなんぼ」ということにしていきたい。これが、いま我々がNPOと一体になってやっていく上で期待していることです。ということで、私は去ります。ありがとうございました。

成毛:いま青少年の話が出ましたが、意外と東京都心や大阪の中心部より、地方都市のほうが、17歳問題とかいじめが多いような気がします。今日のテーマではありませんが。

 さて、NPOの話に引き戻すと、NPOと企業の誘致という問題も、各県には経済問題としてあると思います。外部から持って来るのか、内部から生み出すのか、そのあたりについて、順番で北川さんにうかがいます。

北川:従来は企業誘致が圧倒的だったと思います。企業誘致は、雇用確保にも税収確保にもいい。しかし、これからは工場や企業といった施設の誘致よりも、仕事そのものの誘致をどうするかということも考えるべきだと思います。

 私ども三重県は地理的には比較的恵まれていて、大阪と名古屋にはさまれていて、水は豊富で土地も安い。従来のインフラの評価では、非常にいいところに入っています。だいたい全国で、いつも上位にいます。これはこれで、努力していきたい。たとえば、いまシャープの大きな工場が三重県にあります。液晶のクリスタルな製品を作っていて、何としても韓国・台湾との価格競争に勝ちたいという意向を持っておられます。そこで、「私どもとコラボレーションしましょうよ」と持ちかけて、たとえば運搬物流のコストを安くするための算段を一緒になってやったりしています。さらに、「どういった勉強をした生徒を採用してくれますか」と聞いて、我々としてできることをやる。そういうふうなトータルな取り組みとして、シリコンバレーの向こうを張って“クリスタルバレー”というのをやっています。

 今度はゾーンを作るということで、パールバレーというのもやっています。テラビット級の5本のケーブルが志摩半島に来ていますので、そこをパールバレーということで産業を興していきたい。つまり、従来の水や道路だけでなく、「ITが集積しています」「人材がいます」「文化の蓄積もあります」といったことが、これからはウリになると思っています。それには、自分たちで自主自立の地域を作り、人材を作り、仕事を作っていくことも必要だと思います。

成毛:インターネットを使ってチャレンジドが仕事をするには、仕事があればいい。おっしゃる通り、大きな工場を誘致するよりも、三重のホームページにいけば仕事があるという状況を作るほうが、ある意味で正しい誘致なのかもしれない感じを受けますね。

金子:増田さん、先ほどいろんな人材がいるというお話で、これは大変すばらしいと思います。大変申し訳ないですが、岩手県の場合にはすべてがそろっていないことが、実は可能性があるということなのだと思います。

 去年11月に岩手県に行ったらとても寒かったんですけど、あそこは有機野菜、農法についてはトップなんです。「どうして」って聞いたら、気候が寒いからさほど農薬がいらなかったということもあるし、みんな非常に工夫してきたということもある。それが今になって生きてきたということなんですね。

 こういうことが大事で、これまでのように箱ものを作ってビジネス振興というのでは、地方は復活しないと思います。

増田:岩手県では一次産業、農・林・水のすべてが県の基幹産業として長らく中心になっていましたが、いまはご承知の通り、産業構造が変わり、そういう時代ではなくなってきました。そこで、これから先どうしていくかというと、私はやっぱりITだと思います。ただ、それをどう使うか。浅野さんが言ったようにIT自体は道具立てですから、たとえば農業の現場にどう応用できるか、どう付加価値を高めるために使えるかということだと思います。

 有機栽培ですが、高温多湿のところでは雑菌が広がるので農薬が必要になり、今の日本は非常に有機栽培に適さないところだと言われています。しかし、いろいろ見ていくと、岩手県でも海抜の高いところに行けば、非常に微量の農薬で栽培可能で、まったく無農薬にすることもできます。いろんなやり方がありますが、その土壌分析や精密農法をやるのにITを使えるのではないか。また、岩手県は県北にいくと畜産も盛んです。フランスのワインなんかは、「どういう土壌で日当たりがどうである、どこそこの斜面の何年産のブドウで作ったワイン」ということで、べらぼうな価値が出ますが、これをITを使って畜産でやる方法もあるのではないかと思っています。岩手県では、三重の松阪牛などとはちょっと肉質の違う、山に自然に放牧する肉牛がいます。これはアメリカやヨーロッパのタイプの肉なんですけど、そういうものは春から秋まで放牧してるので、どこのどういう草を食ってるかわからないんです。でも、牛の首のところに発信機をつけると、どこを動いたか判る。そうすると、「ここのこういういい山のいい草を食べて育った肉牛で、脂肪分が少なく大変ヘルシー」とか、いろいろ付加価値のつけ方が出て来るわけです。

 岩手県で情報通信ネットワークを整備するときには、まだ基盤が十分出来ていないからこそ、モバイル通信の基盤に切り替えて、モバイル技術を一次産業に応用する。そういう目のつけ方は、若い農業者が中心になって、現場からどんどん出つつあります。そういうのを大事にして、モデルをまとめるのが重要になるんじゃないかと思っています。

 さっき成毛さんから17歳の犯罪の話がありましたけど、農村部だと自然の中でゆったり育っているから心配ないかというと、そうでもないです。農業ではなかなか飯が食えません。ですから、共稼ぎで子供はだいたい一人っ子です。そうすると、子供たちのテレビやゲームなどそういうものに費やす時間は、東京よりもむしろ岩手の農村群の子供たちのほうが多いんですよ。で、体力はどうかというと、50m走の記録で岩手県の子供たちは、全国平均はおろか、東京の子供たちよりもタイムが劣っています。なぜかというと、過疎だから学校の統合でスクールバスが普及した。だから、自宅から学校まではバスにのる、冬は寒いからドア・トゥー・ドアで送っていく。東京の子供ほど歩かない。東京で地下鉄の階段を昇り降りしている子供たちのほうが、よっぽど運動しているわけです。

 いま農村はそういう状況ですが、さっき言いましたようにITで付加価値をつけることが可能になってきた。まだ量的に出ないので農業の中心にはなっていませんが、もうひと工夫すると、希少価値のビンテージものみたいなものを作り出せるようになります。いまは、遺伝子組み替え商品などに進んでアメリカの戦略に下るか、それとも岩手らしさ、日本の中の岩手の風土、大地の中の農業で行くか、その選択を迫られているときだと思います。そこで、「岩手らしさ」という方を取って走っていっても、それに見合った収入が得られるようなビジネスモデルを作らなければならない。それをもたらすのがITだと思うんです。岩手県は「岩手らしさ」を追求するためにITを使うべきだと思っています。

成毛:いま17歳の話を受けていただいて、地方の子供のほうが体力的に劣るという話がありましたが、おっしゃるとおり、経済状況・過疎の問題があるわけですね。大都会と地方の違いは健常者とハンディキャップの違いほど大きくないとわかりつつも、日本の病巣のように思いました。しかし、ここに参加いただいているプロップ・ステーションは大阪で生まれた団体ですから、本来なら大坂府知事が来ていていもよいのですが、むしろ、ここにおられるような本当に日本をリードする知事たちは、地方からきている。これは、とてもおもしろい、インタレスティングという意味でおもしろいと思いました。そのあたりが助け合うというよりも、むしろチャレンジする。地方から新しいアイデア・枠組みが出てくるのかな、と思いました。もう一言ずついただきましょうか。

金子:失敗に学ぶといったことを、行政がなかなかできなくてイライラしてきましたが、今回はそのあたりで非常にいいお話も出ました。最後にもう一言ずつ知事からいただいて締めたいと思います。

北川:今おっしゃった「失敗に学ぶ」ということですけど、これまで「行政は無謬」とか「県民が困るから失敗できない」とかいった意識で推移してきました。しかし、失敗したら、もちろん県民にも困る人が出るかも知れませんが、本当は失敗していちばん困るのは本人なんです。減点主義の中で本人は出世したいですから、誰よりも失敗が怖い。

 しかし、これからは変革期ですから、前例踏襲を重ねるだけでは、失敗はもっと大きくなります。ですから、失敗するリスクを取ってもっと大きなチャレンジをする勇気を持たなければいけないと思います。行政のシステムとしては、減点主義から加点主義、得点主義に変える必要があると思っています。要するに、どんどん失敗する中で学んで進化していけばいいわけですね。

 先ほど、1000点満点で増田さんのところが430点、私のところが480点という話がありまして、私のところのほうが点数が高いから言うのですが(笑)、彼のところには570点の余裕があるんです。がんばればいいわけです。で、私どもをすっと抜いていき、私どもがまた抜いていく。そういうのがいいと思うんです。そういう中では、隠すことは実にバカげたことです。これからは是非とも「隠して先送り」から「オープンにして解決」にしていかなければいけない。

 これもIT革命で、情報非公開だった時代は隠せましたが、残念ながらITの進歩で隠し果せなくなった。そのことを認識して、出てしまう前に出して、どんどん解決していかなければいけない。転ばぬ先の杖をついて早くなおす。それが行政にとってとても重要であり、そういう真摯な努力を県民に見ていただいて「行政は信頼に足る」と思っていただいたとき、行政効率が最高に上がる。こういうことで問題点を共有し、増田さんや浅野さん、あるいは他の知事とも一緒に進んで行きたいと思っています。

 私は「三重県が変われば国も変わる」と言いますが、国全体が変わらなければ三重県も変われない。両面あるわけですから、三重県だけが変わるのでなしに、いい事例は真似していただき、また真似させていただき、そういうことの総和として、21世紀、単に経済大国としてでなく志を持った国として世界に認められる新しい日本ができると思います。まさに、ここに頂いた「Let's be proud! 」で国民のプライドや資質が全体的に上がっていくこと。そんな中で17歳問題も解決したいと思っています。

増田:北川知事は尊敬する知事さんで、兄貴分、見習うべき先達と思っています。別名カナリア知事とも言われているようですが、とにかく「オープンにする」ということは、北川知事がおっしゃったように本当に大切だと思っています。

 もうひとつ、北川さんの言っておられることで、私がいつも反省して、繰り返して心に刻んでいるのが、「ピンチこそチャンスで、大きな転換点になる」ということです。努力して変えなければ、ピンチはいつまで経ってもピンチですから、変えていく努力というのが大事だと思います。

 今回「Let's be proud! 」に込められた意味は、今までとは180度逆から見るようなことで、大いに触発されました。来年の三重県でのCJFをよく見て、岩手県にその成果を持っていきたいと思っています。

金子:ありがとうございました。今日の「失敗から学ぶ」「ピンチをチャンスに」というのは、普通の健常者だと何もしなくてもダラダラしているうちに出来てしまうことが、チャレンジドはそうではなくて、そこにプラスの意味があるということで、はからずもプロップ・ステーションの命題に行き着いたと思います。

 競いながら学ぶとか、いいことも悪いこともさらけ出して前に進むということが、これまでの障害者関係の団体は得意でなかった。それの転換がプロップでした。最後に、竹中さんからコメント、メッセジーを。

竹中:みなさん、長時間ありがとうございました。人間は地べたをべたべたと移動するしかできない生物だったのに、飛行機に乗ってあちこち行ったり、ロケットで宇宙に行ったりしている。つまり、人間は自分の不可能を可能にしていくことで、文明や科学を発展させてきたのかな、と。そうすると、不可能をたくさん持っている自分、不可能を持っているときが、実はいちばん科学や文化に貢献できる状態なのかな、と。そんなふうにも考えています。

 私が一緒に活動しているメンバーの多くは、家族の介護を受けています。けれども仕事がしたいという彼らの状況は、これから高齢社会の中でもっとたくさんの人の状況になる。そのとき、その状況こそ自分を向上させ、その自分が社会を向上させる。そういう誇りを持っていたいと思います。

 不可能の中にいっぱい可能性がある、みなさんのおっしゃった「ピンチこそチャンス」というのは、まさにそうだと思います。この2日間のセッションが、全体のタイトルに掲げさせていただいた「Let's be Proud! 」ということをみなさんにお伝えできていれば嬉しいと思います。これを機会にプロップもチャレンジドのメンバーも、ますます自分なりの努力をしていきますので、たくさんのみなさんの支援がいただければ、また、参画していただければ嬉しいです。来年の北川さん、再来年の増田さん、よろしくお願いします。みなさん、どうもありがとうございました。


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