2000.8.31(2日目)
セッション4
「チャレンジドの学習と就労に向けた各地の取り組みと展望」

ナビゲーター
 清原 慶子:東京工科大学教授、CJF副座長

大阪府:障害児学校情報教育推進プロジェクト
 奥野 雅夫:大阪府教育委員会
 中島 康明:大阪府立盲学校
 中内 幸治:プロップ・ステーション システム開発担当
 竹中ナミ:プロップ・ステーション理事長

三重県:ITを活用した教育と就労プロジェクト
 藤川 和重:三重県情報政策課
 谷井 亨:Pep−com代表

 北川 正恭:三重県知事


東京工科大学教授、CJF副座長 清原 慶子さん

ナビゲーター
東京工科大学教授、CJF副座長
清原 慶子さん

清原 慶子:みなさま、おはようございます。第6回チャレンジド・ジャパン・フォーラムの2日目、セッション4として、チャレンジドの学習と就労に向けた各地の取り組みと展望、とくに大阪府と三重県の事例についてご報告をいただきます。

 左から、大阪府教育委員会の奥野雅生さん。大阪府立盲学校の中島康明さん。プロップ・ステーションのシステム開発担当・中内幸治さん。プロップ・ステーション理事長の竹中ナミさん。三重県情報政策課のの藤川和重さん。Pep−com代表の谷井亨さん。それから、会場には三重県知事の北川さんもいらしています。

 それでは、内容に入ります。ご存じの通り、学校教育の情報化は、2000年度から2005年度までの「ミレニアムプロジェクト」により、大きな転機を迎えます。コンピュータ等の活用については多くの関係者が重要性を主張していますが、日本独自に進められてきたコンピュータ教育と教育の情報化について、現場では揺れと言いますか、さまざまな立場から課題も指摘されています。特殊教育諸学校(聾学校、盲学校、養護学校等)でも可能性の認識はされていますが、進め方、また地域での就労や社会参加との結びつけ方については課題が多く指摘されています。

 そうした中で、今日は大阪府と三重県の取り組み、教育委員会が、学校が、教師が、生徒が、保護者が、どのように取り組んでいるかについて事例を中心に語っていただこうと思います。ではまず、大阪府の事例から。奥野さん、よろしくお願いします。

大阪府教育委員会 奥野 雅夫さん
大阪府教育委員会
奥野 雅夫さん

奥野 雅生:大阪の養護教育諸学校では、プロップ・ステーションの協力を得て「OPEN」という情報支援システムを作りました。この中身については竹中さんたちからご報告をいただきますが、まずはシステムそのものの立ち上げについてプロップ・ステーションのご尽力をいただきました。協賛企業も多数あります。この場をお借りして、感謝させていただきます。

 このプロジェクトの経過について簡単に説明します。情報化については、大阪府は先進的な地域で、15年前、インターネットやPCが身近でなかった時から、将来を見据えて関西の各自治体で調査研究するために高度情報化推進委員会というものを作り、調査研究してきました。その中で95年ごろ、プロップ・ステーションの活動についても紹介され、またホームページの作成にあたってはプロップ・ステーションに委託し、大阪府とのつながりもありました。

 ただ、残念ながらプロップ・ステーションの掲げる障害者の情報教育に取り組むまでにはいたっていません。大阪府の教育委員会としても、障害児の情報教育について、どうするか悩んでおりました。養護学校といっても、盲、聾、肢体不自由などいろいろあって、格差もあり、取り組みもバラバラですので。

 たまたま昨年、緊急雇用対策ということで国からの特別地域交付金を活用できることになり、これで何らかの取り組みを進めたいと思いました。当初は人材派遣会社から売り込みがあり、そういうところに委託しようかと思いましたが、やはり障害者の教育については、いいアイデアを持っているところはなかったです。そこで、「プロップさんに一度相談しようか」ということで、うかがいました。そうしたら、竹中さんから我々のアイデアよりもはるかにいいアイデアを、その場でいただき、「では、ぜひ委託させていただきます」となりました。

 その時に竹中さんが「まずは障害者にこそ情報教育が必要だ、訴える場をつくろう」とおっしゃって、フォーラムを開くことになりました。2月15日、竹中さんのご尽力で文部省・労働省・厚生省・羽曳野市の方など、それぞれの立場から意見交換させていただき、「障害のある子供さんにこそ情報教育が本当に必要だ」とアピールできました。

 また、大阪府教育委員会として委託させていただくのは府立の養護学校の情報教育についてのアドバイスだったのですが、竹中さんから「府立という枠だけでなく、広く先生方の連携が必要だ」というお話があり、他の府内の養護学校もネットワークすることが必要じゃないかという話になりました。そうして、「OPEN」というネットワークを作ることになりました。

 簡単に導入のお話だけさせていただきました。

清原:特殊教育諸学校での教育の情報化を民間と連携しながら進めたいという行政側からの報告でしたが、続いてその委託を受けたプロップ・ステーションの中内さんから取り組みの報告をいただきたいと思います。

プロップ・ステーション システム開発担当 中内 幸治
プロップ・ステーション システム開発担当
中内 幸治

中内 幸治:まず方向性を見いだすために、大阪の養護学校を多数訪問して、そこの校長先生や担当の先生方とお話し、学校の情報化の整備状況などを実地調査させていただきました。その報告ということで、まず第一に環境の整備状況、続いて先生方の取り組みについての話、そのあと「最終的にコンピュータ導入による情報化の利益を享受するのは生徒である」ということで、生徒さんの状況もあわせて報告したいと思います。

 まず、ハードの問題、パソコンの整備状況は各学校平均8台ぐらいと少ないですが、さらに中身が問題です。Windowsマシンは少なくて、一世代前のMS-DOSマシンで間に合わせているようです。十分に生徒さんが使える台数ではありません。「養護学校は一般の学校より生徒が少ないので、その台数で足りるのではないか」という素人考えもあるのでしょうが、「やはりそうではないんですよ」ということを学校の先生に言われました。「養護学校の生徒は、パソコンを扱えても操作が遅いので、もっと台数が必要」ということも言われました。また、パソコンを使える可能性のある生徒が多ければ、相対的にパソコン台数が少ないことになります。

 続いて先生方の取り組みですが、予算が少ない中で、先生方が汗水流して自分たちでLAN回線の配線しているところがありました。また、各生徒さんの状況がそれぞれ微妙に違いますので、生徒さんに使えるようにする自作の機器を用意なさっている先生もおられました。ただ、残念ながら、そういう取り組みをしていない先生方が多数を占める感じでした。一番先生方で特徴的だったのは先進校といわれる学校の校長先生で、先生方に「やってください。何か問題があっても私が引き受けます」という姿勢でした。

 次に生徒さんに関してですが、養護学校には重度の重複障害で、とてもコンピュータにタッチ出来ない生徒さんも多数います。しかし、中にはパソコンを通じてキーボードと画面の関係をみて、キーをムチャクチャ叩いているうちに、家庭でリモコン操作ができるようになったという、知的障害をお持ちの生徒さんもいました。だから、どの生徒さんにも可能性はあるんじゃないかと思いました。

 身体は不自由でも知的に問題のない生徒さんの場合は、コンピューターは興味のあるものですし、作った作品などを壁に掲示して生徒さんのモラルを引き上げる効果をあげているところがありました。そういう状況です。

 能力を伸ばすには先生の協力が必要です。まだ手を染めかねてる先生もいますので、温度差を縮めないといけません。それを訪問で感じました。

清原:ありがとうございました。中内さんも車椅子を使っていて、まさに障害当事者の立場から訪問調査をなさったとのことです。竹中さんはNPOとして公教育の中に参加されて、どのように感じました?

プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミ
プロップ・ステーション理事長
竹中ナミ

竹中 ナミ:ちょっと柔らこうしますか?(笑)

 今回のプロジェクトの一番面白いのところは、国の特別雇用交付金の取り組みがあったときに、大阪府教育委員会がそれでNPOを使おうと思ったことです。学校はなかなか外の風が入りません。そこにNPOで、私や中内くんが入った。

 中内君は進行性の筋ジストロフィーです。もともとSEさんですので、知識が詰まってますけど、障害が進行して、会社に行くにも車の運転が無理になり、最終的に在宅になって、「プロップで力を生かせへんか」ということで来られたんです。

 養護学校の現状を見るには、障害の当事者でコンピュータやネットワークが分かる人が必要ということで、中内君に担当してもらいました。で、現状が見えて来て、それを変えるにはどんな協力が必要かという話になった時点で、「もっと協力がいるやろうな」という予感がしたんで、協力を得るためのコーディネータとして、私も一緒に行きました。

 一般の人からすると学校教育には聖域みたいな雰囲気があって、私も娘が重度心身障害で学校に関わって、PTAの役員もさせられましたが、浮きまくっていました。でも、今回うかがってみると、学校の中でも、ごく一部の先生ですけど、掟破りをしてまで頑張っている方がいました。コンピュータのネットワークについて「外に繋ぐのはダメ」「勝手にLANを敷いてはダメ」というの掟があるところを、「いや、必要だ」ということでゲリラ的にやっていました。このゲリラ的にやってることを、いかに公にも「OK」というところまで持っていくか。それがNPOの“つなぎのメリケン粉”の役割かなと思って取り組みました。

 で、中内君が言ったみたいに、ハードがプアで……、本当はそんなことを言う立場じゃないんですが、それはおいといて(笑)。これもあれも足りないところで、先生の熱意や先生の応援ももらって、DOSパソコンがまだ現役という状態。でも、「これでは先進的なインターネットを重度の児童生徒の生活道具にすることは無理やな」ということで、多くの企業に協力をお願いしました。奥野さんが紹介されたように、今日も支援企業から多数おいでいただいてます。ありがとうございます。

 2学期の冒頭からは、養護学校を繋いで、プロップに大きなサーバーも置いて、楽しいユニークな教材を作っていこうと考えています。あるいは、生徒たちが自分たちの思ってることを発信し、社会からもその中に風が入る、双方向のネットワークが生かせるプロジェクトにしたいと考えています。そして、できれば仕事につなごう、今できないと思われている人も仕事をできるところまで持って行こうと考えています。今回のプロジェクトの期間は2年ですが、ドッグイヤーの2年ですので、けっこういろいろできると思って、楽しみにしてます。

 これは、国、自治体、学校、企業など、普通だったら今まで組むことのなかった者たちが組んでやってる。それがITの時代の特徴です。今まで関係のなかったところが組むこと、タブーと言われていたような組み合わせが生まれること、それがITのすごさだと、プロジェクトの出発で感じてます。2年後の結果を楽しみに。

清原:ナミさんは、よくご自分をいろいろなものをくっつける“つなぎのメリケン粉”と言いますが、その実践を見たような気がします。

 中島先生、この情報教育の取り組みを上手に生かして行くことが大事だと思いますが、教師としてどんなことをお考えでしょう。遠慮せずにお願いします。

大阪府立盲学校 中島 康明さん
大阪府立盲学校
中島 康明さん

中島 康明:竹中さん、“おいしいお好み焼き”を作っていただいて、ありがとうございます。今からいただけるということで、楽しみにしています。今日はその「OPEN」の期待と課題ということで。まだ始まっていませんので府立盲学校で今やっていることをネタに、今後「OPEN」に期待することをお話したいと思います。

 私どもの学校の現状ですが、ネットワークに関して言いますと、「学校で光ファイバーを使ったらどんなことができるのか、やってごらん」という平成10年度から今年度までの研究に参加しています。われわれは2年間、手探りでやってきましたが、今年度、平成12年度で終わってしまうので、そこに今回のプロジェクトの話が来て、本当に嬉しいなと思っています。

 私どもの学校には教職員が百人以上いて、「中島は何をやっとんねん」と言われないように、あるいは「せっかくネットワークがきたのだから活用しよう」ということで、校内のネットワーク委員会を組織しています。当然、LANが必要ですので、いろんなところに張って回っています。「掟破り」と言うとちょっと言葉はキツいですけど、仮配線で、とりあえず使えるように手作りでやっています。

 最近では、ネットワークを使った全国の盲学校の仲間との共同研究などもしています。それから、地域の障害者向けの講習会も、学校としてやっています。その他いろいろ盲学校として言いたいこともあるんですが、ホームページをご覧いただければと思います。

 実際の授業でどんなことをやっているかというと、当然、小学部では調べ学習。調べたいことをいろいろ検索して調べるということをしています。中学部では、普通校もそうですが、平成15年度に向けて前倒しする形で、キーボードやワープロをやっています。普通科には情報コースがあって、わかりやすく言うと教科の「情報」の先取りのようなことをやっています。それから、知的障害などを併せ持っているお子さんの重複学級でも、教室に端末を置いて、メールアカウントをもってもらって、楽しんでいます。

 それから、これはぜひ知っていただきたいんですが、盲学校の中で全国で唯一、情報処理科があります。実は私はそこに所属していて、18歳以上の学生さんに2年間、専門的な情報処理の技術を身につけていただいています。盲学校というと鍼灸按摩が明治以来の伝統でしたが、平成4年から情報処理科ができて、いろいろな企業にも採用していただいています。

 学校では、昨日のお話に出て来ましたスクリーンリーダーなんかも使っています。それから、ネットワークというと交流ですが、普通高校と交流したり、あるいは交流プロジェクトを組んで、たとえばパソコンを持って取材に行くようなこともしています。国際交流では、ハワイの日本語クラスの学生さんたちとも、日本語でですけど、交流しています。また、小学部は、地域の小学校とも交流しています。これも本校のホームページで見られますので、ぜひご覧ください。

 話が硬くなってすみません、緊張しています。

 盲学校でのこれまでの取り組みというのは、要するに「これは子どもたちにとって、学生たちにとっていいことだから、どんどんやりましょう」ということでやってきました。たとえば生徒向けのメールアカウントは、情報の授業を受けていなくても、講習を終了すれば発行しています。生徒たちは、昼休みや放課後などに活発にメール交換しています。実習室は、幼稚部のお子さんから専攻科の学生さんまで使っています。寄宿舎でも24時間使えます。それから、図書室での調べ学習、あるいはホームルームでの利用も、非常に教育的効果が高いなあと思っています。

 もちろん授業でも使っていますが、いまはまだすべての授業でというわけではなくて、情報関係あるいは自立活動、社会科などで使っています。たとえば、全盲の学生さんの場合、普通にテストをしたりすると時間が長くなるのはご存じでしょうが、たとえば情報処理科のテストでは、まず先生がメールで課題を出します。「これをインターネットで調べなさい」とか「こういうソフトウェアをダウンロードして、評価してレポートしなさい」と。学生さんはそれを音声ソフトで読んだり書いたりして提出します。先生はあまり点字を知らなくてもいいと、こういうわけです。

 学生さんの中には、たとえば盲学校に来る前に他の学校にいて、その時の友達とメールのやり取りをしている者もいます。いろいろな趣味の世界のメーリングリストに参加したりする者もいれば、自分でメールマガジンを発行したりする者もいます。

 もちろん、就職活動でも使っています。最近では、就職説明会に行くよりはホームページで就職先を探す。担当者とのコンタクトもメールでする、ということが主流になってきましたので、そういう意味での利用も盛んにしております。また、大学レベルのインターネットを使った教育の話が昨日ありましたけれども、大学の授業を日本語で一部無料で視聴できるところがありまして、そういったところも積極的に活用しています。

 ここまでいい話ばかりですが、ひとつエピソードをお話します。

 地方から来られた全盲の学生さんで、音声で操作するんですが、非常に早くできるようになりまして、成績も非常にいい。「新聞社に入りたい」という。「もしかしたら読者の声に答えたりする仕事、あるいは取材だって、全盲でもできるんじゃないか。確か、大手新聞社には全盲の記者もいる」ということで、面接に行ったんです。

 そうしたら、面接の担当者にこう言われて、ちょっとガッカリしたそうです。「え?電子メール? 何言うてまんねん。はがき。新聞読んでる読者の人に電子メールなんて聞いたことあらしまへん」。私としては。「ま、君のほうが進んでるんやから、がっかりせんと、がんばりや」と言ったんですけど、残念ながらその学生さんは就職を先に延ばすことになりました。

 今ここまで出来るようになったと言っても、「なかなか現実の就職は厳しいな」と。昨日いろいろいいお話を聞きましたけど、学校にいると、なかなかああいういい話も聞けない。なかなか厳しい現実があります。

 ま、そんな中にも、「先生、卒業旅行、中国に行って来ます。メールで知り合った上海の人に呼ばれたんで」とか言って中国に行って、「FM放送に出演してきました。中国に行って思ったけど、海外もええわ」とか、そういう頼もしい学生さんもいます。こういった方は、卒業後も自分のホームページで積極的に活躍しています。

 昨日の話の中で、われわれ教員としてこれまであまり聞いたことのなかった言葉として「Let's be proud! 」というのがありました。プライドが高いというのは、どちらかというと日本ではマイナスイメージがありましたけど、昨日の話を聞いて「この言葉は大事にしなきゃいけないな」と思いました。また、学ぶ、働く、楽しむ。コンピュータ・ネットワークの使い方のキーワードとしていろいろ教えていただきました。やはり「誇りを持てる、そうだなあ」と、地球を一周して帰って来たら教育の原点はそこにあったのかなあという感じで、教育の一応プロとして改めてそんなことを思います。

 「視覚障害は障害でなくなる」というお言葉も昨日いただきまして、「まさにその通りだなあ」と思いました。これまでは“準じる教育”ということで、足りないことが前提でしたが、こういうITの力を借りて、障害が障害でなくなったときに、じゃあ次はどうしたらいいか、そこまで考えなければいけない。

 いままでは、「できないんだから、これくらいでいいだろう」「盲学校だから、ちょっとばかり学力も低いよね」といったところがあったんですが、これからは、まずIT技術によって同じ土俵に立てる。たとえば、メールなんかですと、障害がわからないわけですよね。だから、その人が全盲なのか弱視なのかよりも、そのメッセージが重要である。そういうコミュニケーションが世の中にどんどん広まることによって、学校教育も考え直していかなければいけない。そう思っています。

 教育の情報化についてはいろいろ言われていますが、特に盲・ろう・養護学校にはこれからIT技術がどんどん入ってくるんじゃないかと思います。いろんな時間にやっていくことになると思うんですが、特に休み時間、放課後の時間、あるいはお家との連携にも使っていくことが大切だと思います。子供にとって「この時間だけの道具」ということではなく、いつも使える道具にするのが大切なんじゃないかと思います。

 あ、早く終われと?

 すみません。いつも50分しゃべり続けることばかりやってますので、しゃべりだしたら50分止まれないもんで(笑)

 ヒューマン・ネットワークの活性化ということですが、お家と連絡をする時にも、学校で先生が忙しい時間帯にお家には時間がある。お子さんがお家に行かれると、お母さんは忙しいわけですね。そういうタイムラグを電子メールなんかで補えないか。あるいは情報の共有ができないか。そういうことを考えて、開かれた学校へということをやらなくてはいけないと思っています。

 そして、いつでもどこでも誰でも使える環境。やはり、子供にとってわかりやすい、動く絵、音、そういうものを十分に活用する必要があります。それから人を意識できる仕掛け。ただ画面を見るだけでなく、その向こうに人がいることを意識できる仕掛けが必要だなと思います。やはり、子供の活動は「ネットやってるから放っとけばいいわ」じゃなくて、一緒に「面白いね」とやれる、温かい励ましが与えられる環境作りが必要です。もちろん、よく言われるようにプライバシーだとか陰の部分への配慮も要ると思います。こうした取り組みで、ともすれば弱いと言われるマインドの部分を活性化できると思います。

 最後に、これだけは言っておこうと思います。こんなことを言うとあとで後ろから刺されるかもしれませんが、やっぱり正直に言って、教員がバリアになることがあります。つまり、いかにいい環境になっても、先生がそれに触れさせない。そうならないように、われわれ教員が積極的に使っていく必要があるなと思います。今回、大阪府下のいろいろな壁を超えた交流ができるのではないかと期待しています。

清原:ありがとうございました。最後の「教員がバリアにならないように」というのは、私も教育の現場にいるので、痛感しています。たまたま、いま文部省で情報教育について改訂作業をしていて私もその一人に加わってますが、コンセプトは情報教育専門の先生だけではなく、すべての教員がその取り組みを行うということで編集作業をしています。現場からのメッセージが届けばいいなと思いました。

 では、三重県の事例に移りたいと思います。ITを活用した就労プロジェクトということですので、先ほどの学校からの「就労に結びつかない」という大きな問題提起を踏まえて、お話をうかがえればと思います。では、谷井さん。

Pep−com代表 谷井 亨さん
Pep−com代表
谷井 亨さん

谷井 亨:大阪の方から堅いお話をいただいて、いつも元気をいただいているナミさんも固い話になっている様子で、ぼくも固くなると思いますが、よろしくお願いします(笑)。

 まず、三重県のほうで在宅勤務支援事業が始まりました。これまで行政が障害者の関係で動く場合には福祉の関係部署が動くというのがイメージでしたが、今回動いてくれたのは、福祉とはまったく別の部署、能力開発室という部署でした。「保護する」という姿勢ではなく、「働いてもらう」ということだったので、自分としては新しい挑戦ができるという夢を感じて、そのプロジェクトに参加しました。検討委員会は、行政の方、企業の経営者、大学教授、NPOの方など、いろんな方々が集まって、進んでいました。

 その中でいろんなアンケートをしましたが、やはり企業側では「まだ在宅ワークを本格的に考えてない」という結果が出ました。しかし、障害者にアンケートをすると、「就労したい」という方向の答えが出てきました。検討委員会で話を進めていたところ、「NPOで何かできないか」という話になり、それを受けて、Pep−Comという就労支援組織を去年の4月に設立しました。三重県から運営に関する情報など、いろんな部分でのバックアップをしていただいて、在宅就労支援に取り組み始めました。三重県としてこういうことに取り組んでいただいたことには、感謝しています。

 障害を持っている人には、パソコンに触れたことがない方がいっぱいいます。そういう方々に対して、自分としてはインターネットなどパソコンを使うことによってバリアを感じない体験をしてるので、そのことを知っていただきたい。楽しんでいただきたい。いろんな人とのコミュニケーションを持っていただきたい。そして、次の段階として、就労という形に持って行きたい。そういう考えで、Pep−comとしてパソコン教室を始めました。障害を持っているために、いろんな製品を使います。その専門分野的なものを覚えてもらうということで、障害を持つ人たち専門のパソコン教室を始めました。

 しかし、障害者はあまり表に出ないこともあって、かなり勘違いしたイメージを持たれているので、それを変えるために、地域の一般人向けのパソコン教室も始めました。障害を持っている方が講師をする教室です。

 あと、移動できない障害の方も多いということもありまして、出張して教えることも始めました。そして、究極の、インターネットを使った教室も始めました。

 これは小学生とのコミュニケーションの情景ですが、小学生は素直な気持ちで障害者と接することができるので、いろんな形で小学生とコミュニケーションを取りながら、自分たちも小学生からいろいろ学びながら、パソコン教室を進めています。

 出張教室ですが、これは「インターネット教室」として県から援助をうけて実現したものです。やはり、インターネットとパソコンをくっつけた形で体験して進めることが一番効果的ですし、インターネットをインターネットで教えることはできませんので、まず現地へ行って説明して覚えてもらう。そういう教室です。

 続いて、インターネットによる学習システムですが、ぼくらのように本のページを捲れない重度の障害者は、パソコン画面でテキストを見ながら、ワードやエクセルを勉強できるのと助かります。また、ぼくらは障害があるために、どうしても入力機器などが特殊なものになります。自分の使うコンピュータで勉強できるのは、ものすごくプラスです。重度の障害者は、普通のパソコン教室へ行っても、そこのパソコンを使えません。自分の家で、自分のコンピュータで学べるのは、非常に助かるんです。

 以上が県のほうにお世話になって、現在Pep−Comがが進めている教育システムです。そして、今後パソコン教室を進める上で考えているのは、やはり、障害を持った方のパソコン利用ですから、入力・出力装置がその人に合ったものでないと使いづらい。その特殊な部分を指導できる講師が必要です。それで、今後、講師用のパソコン教室、ウインドウズにある「ユーザー補助」の機能などを教えられるようにする教室を考えています。視覚障害者の読み上げソフトについては、最終的には講師も画面を見ずに使えるようになるまで持って行きたいなと考えています。

 あと、実際に在宅で仕事をしていくために、アナログデータのデジタル化などもやってみましたが、これは下準備をしてから在宅の人に流さないと難しいということを、今回Pep−Comとして実感することが出来ました。今後、いろいろな体験をもとに、システム作りを進めたいと思います。

 さて、最初の検討委員会のアンケートでも浮かび上がったように、技術を覚えても就労するのはまだ難しい時代だと思います。その部分で、自分たちでも就労の場を作ろうということで、今回、成毛さんのお世話になって、株式会社インテグラルを発足させました。これをPep−comで勉強した人の次のステップにしたいと思っています。

 そして、そこでは、i−modeなど携帯端末を使いながら情報交換できるような形にしていきたいと思っています。それと、先ほどから申し上げているように、重い障害を持った人には入力がネックになるので、その部分も当事者が意見を出しながら開発していきたいと思っています。

 株式会社インテグラルをPep−comがバックアップできるようにしていきたい。そして、インテグラルがいろんな障害者に仕事を出せるようにしたいと思っています。

 今回、三重県でサイバーウェイブジャパンというものが設立されました。今回のぼくらの動きと似たところがあるので、一緒にやっていければ、今後もっともっと障害者が就労できるのではないかと期待して、楽しみにしております。

清原:ありがとうございました。ところで、Pep−comのの名前の由来を教えてください。

谷井:ペップはやる気で、コムはコミュニケーション。やる気のある人のコミュニケーション・ネットワークで進んで行こうということで、そういう名前をつけました。

清原:ありがとうございました。続いて、藤川さんから、県として谷井さんなどの動きにコラボレートしてきた経過などを。

三重県情報政策課 藤川 和重さん
三重県情報政策課
藤川 和重さん

藤川 和重:おはようございます、よろしくお願いします。いまご説明いただきましたが、三重県としては、特にビジネスという展開で新しいスタイルを模索しています。

 三重県の志摩地域、南のほうで今日のパンフにも紹介があるスペイン村があるところですが、あそこに4本くらいの海底ケーブルが海外から来ていて、いろいろな地域の方々が「これは凄い」とおっしゃる。それで、これを使って何かできるんじゃないかということで。たまたまトップも「やろう」ということで、始めました。

 大きく分けて3つの柱があって、ひとつは情報通信インフラ、ネットワークでビジネスをやろうという話。それから、地域特性を生かそうという話。もう一つはバリアフリー。これをやって、みんなで共に生きていこうということで、県の政策に入っています。

 とりあえず、今年度は光ファイバーを整備しました。それから、新しい第3セクターのサイバーウェィブジャパンを作りました。それから、あとは拠点整備です。

 ちょっとアピールしますと、三重県ではケーブルTVが非常に発達しているので、それをネットワークにして、全県下に回線網を張りめぐらしていこうと考えています。それを国内ネットワークと接続することで、新しいビジネスをこっちに持ってきたい。たまたま国外にも線が行っているので、海外ともビジネスをしていきたいと考えています。

 ネットワークだけ敷いてもしょうがないので、「情報でまちづくりをしていこう」と考えています。ハード整備は、基本的に何か核が必要ということで、サーバセンターを作っています。先ほど申し上げた拠点には、作業スペースやベンチャーのオフィスなどを作っていきます。

 今までの発想ですと、こういうのに何十億もの金額を投じていましたが、伊勢志摩には不況で潰れてしまった保養所があるので、それを転用し、非常に小さな予算で改修して使おうと考えています。とりあえず、まずは何か始めたいということで、小さなことから始めようと。小さな事から始めても、一つ一つをモノにしようと。その中にはチャレンジドのこともイメージしています。ニワトリが先か卵が先かの話はありますが、ネットワークだけではいけないので、いろんなSOHOとかリゾートオフィスとか、地域の玄関口のようなサイトを作りたいとか、そういう考えがあります。それと、いま県庁で1人1台パソコンを配布しているので、家庭から行政をのぞく、行政に参加するといったことも考えております。

 とにかく、ひとつ一つきちんとやるというよりも、ITの世界にはいろいろな動きがあるので、出てきたものをキャッチするとか、計画的というよりは何かひとつ何かひとつという形でやっていこうと思っています。うちのトップもよく言いますが、「オンリーワンの政策」ということで、アベレージじゃなくて、何か他にはないひとつ一つをやっていきたい。三重県の場合は、先ほど申し上げたように、ネットワークの地域特性がありますので、それをうまく活用していきたいと思っています。

 今日のテーマということでお話したいのは、先ほどの谷井さんのお話、あるいは昨日のコーエンさんの言葉も、行政マンとして非常に勇気づけられまして、やはりやらなきゃいけないと肝に銘じているわけです。それにはコーディネート機関が重要だということで、プロップ・ステーションさんの取り組み、谷井さんのところの取り組みなど、まさに一緒にやれるよう考えています。とはいえ、こちらはまだまだ、そこまでしか行っていないので、これからまた竹中さんや谷井さんにご指導していただいて展開していていきたいと思っています。よろしくお願いします。

 もう一つだけ言いたいのは、三重県からのチャレンジということで、三重県はやはり東京や大阪・名古屋には負けちゃうので、「もっと情報発信しようじゃないか」ということで、ビジネスパートナーを発掘しようと考えています。提案していくとか構想を発信していくとか、あるいは民間の方々の情報をキャッチして「三重県と一緒にチャレンジしませんか?」と。「三重県もベンチャーマインドを持っていますよ」と。たまたま三重県にはネットワークの特性とケーブルTVの発達という環境がありますので、大容量コンテンツでのビジネスもできます。今日この会場にお出でになっている皆さんにも、ぜひ三重県にも注目していただいて、パートナーを組んでいただきたいと思っています。

 北川知事がいつも言っているんですが、「ビジネス的な発想を持て」と。行政マンはどうも小さく凝り固まって小さな仕事しかしないんで、「失敗しても良いからチャレンジするんだ」と、そう行っています。失敗は許されないかもしれませんが、われわれとしてはとにかくやっていこうと。たとえばバリアフリーについても、徹底的にやるという話になっていますので、今日お集まりの皆さんにもぜひご協力いただければと思っています。

清原:ありがとうございました。三重県の取り組みには、根っこにPep−comの取り組みに表れているようにチャレンジドひとり一人の状況に応じて就労に結び付けようという動きがあります。また他方には県としての応援があり、さらに株式会社としての取り組みで、経営的な感覚も持って就労機会の拡大やバリアフリー化に積極的に取り組みたいということです。

 会場に北川知事がみえていますので、知事から一言ご発言いただければ、と思います。

三重県 北川 正恭 知事
三重県
北川 正恭 知事

北川 正恭:突然の指名、ありがとうございました。三重県知事の北川正恭です。実は、このチャレンジド・ジャパン・フォーラムを来年、三重県で開催させていただきたいと思っていますので、まず第一に来年の皆さんのご来県をお待ちしております。

 在宅で仕事をするという、いわゆるホームオフィスの推進を、民間・NPOと協力して県行政がどこまで突っ込んでやれるか、勇気を持ってチャレンジしたいと思っています。私は、21世紀はノーマライゼーションの世界をどこがいち早く作り上げるかがとても重要であると考えていまして、まだまだどこまでやったらいいのか悩んだり苦しんだりしている行政・地域、あるいは国もそうかもしれないが、そうしたバリアを取っ払って、来年はチャレンジド・ジャパン・フォーラムを一つのメルクマールとして、突き進んで欲しいと思います。

 三重県では、谷井さんなんかの仕事を成功に導き、サイバー・ウェーブ・ジャパンという会社で、私は社長をしていますが、そこでどれだけホームオフィスに仕事的に突っ込んでいけるか、挑戦してみたいと思っています。来年のこのフォーラムで発表できるよう、行政をあげて努力をしていきたいと思っていますので、多くのみなさんにご支援、ご指導いただきたい。三重県のやり方について、いろんな意味ご注文もいただいたりして、やっていければと考えています。至らない点はいっぱいあるかと思いますけれども、皆さんの前で宣言した以上はがんばるということで、誠心誠意努力したいと思います。よろしくお願いします。

清原:突然ご指名させていただきましたが、ありがとうございました。意思表明というか宣言をしていただきましたので、来年をまた期待したいと思います。

 ちょうど予定の時間になっておりますが、最後に手短にひと言づつ決意のほどを、北川知事にならって言っていただれればと思います。

奥野:私から始まって堅苦しいセッションになってしまって、すいません。三重県の職員の方々は、知事からのプレッシャーがあって大変だろうとひしひしと感じてます。われわれとしては、役所には失敗が許されないという雰囲気はありますが、「OPEN」は民間主導で、むしろ壮大な失敗をしながら、どんなことになったか検証しながら、やれることはやろうと、不安と期待が入り交じってますが、そう考えています。

中島:これまで教育委員会からハッパをかけられたり、あるいは文部省から研究助成をいただいたりと、個々の話はありましたが、OPENのような地域全体でやる話、しかもNPOの協力でやっていくというのは、始めてです。教育委員会からは「何でもやっていいよ」と言われていますので、「これで何かできなかったら、教員の責任だな」ということをヒシヒシと感じています。明日から新学期で、「大変なことになってきたな」と思っていますが、頑張っていきたいと思います。

中内:額に汗してがんばる人たちがいますので、そういう人たちに根づかせていけるよう頑張っていきたいと思います。

谷井:在宅就労の形で、もっといろいろチャレンジしたいと思います。Pep−comでは教育事業を、株式会社インテグラルでは仕事を、推進していきたいと思います。サイバー・ウェブ・ジャパンの力もお借りしながら、どんな障害を持った方にどんな仕事をしていただくか考えながら、今後進めていきたいと思います。皆さんのご意見をお聞かせいただきたいと思います。

藤川:プレッシャーというよりはやりがいを感じて、みんな職員やってます。今日も本当に、皆さんの話を聞いて「がんばんなあかん」と思いますので、職員にもはっぱをかけます。よろしくお願いします。

竹中:いままでプロップが何らかの形で関わった大阪と三重の取り組みがこのようの紹介されて、とても嬉しく思います。

 堅かったですが、これは良い意味の緊張と興奮を持って取り組んでおられる表れだと思いますので、ぜひ今後を見守ってください。北川知事がおっしゃったように、来年は三重県で結果が報告されるようなので、私も非常に期待感をいだいてます。

清原:ありがとうございました。これから、チャレンジドだけでなく、すべての人にとって情報教育が重要になりますが、それを進めるにはチャレンジドにとっても望ましい形でに進めることが大事だということ。知識を得る上でも、交流を進める上でも、社会に関わって参画していく上でも、とても大事だということを、改めて確認できたと思います。

 教育はきわめて重要で、その機会を得られなかった人にきちんと保障していくことは社会の責任だと思います。ただ勉強のための勉強ではなく、人と出会ったり、自分が成長したり、人を愛したりするための基礎としての教育。そういうものが大事だということを、皆様の取り組みから感じました。

 それでは、これでセッション4を終わります。ありがとうございました。


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