2000.08.30(1日目)
セッション3
「いま、企業の経営トップが動くとき」

総合司会
 清原 慶子:東京工科大学メディア学部教授、CJF副座長

ナビゲーター
 成毛 真:マイクロソフト(株)特別顧問、(株)インスパイア社長
 西嶋 美那子:日本経営者団体連盟労務法制次長

パネリスト
 須藤 修:東京大学教授、CJF座長
 阿多 親市:マイクロソフト(株)社長
 手嶋 雅夫:マクロメディア(株)社長
 池田 茂:(株)NTT−ME社長
 金丸 恭文:フューチャーシステムコンサルティング(株)社長
 竹中 ナミ:プロップ・ステーション理事長


清原 慶子:それでは、本日最後のセッションを始めさせていただきます。セッション3は、「いま、企業の経営トップが動くとき」と題して進めさせていただきます。このセッションのナビゲーターは、お一人目はまず向かって一番左、マイクロソフト株式会社特別顧問、株式会社インスパイア社長の成毛眞さんです。お二人目はそのお隣、日本経営者団体連盟の西嶋美那子さんです。

 そして、パネリストとしてお話していただく方は、チャレンジド・ジャパン・フォーラム座長、東京大学社会情報研究所の須藤修さん。マイクロソフト株式会社社長の阿多親市さん。マクロメディア株式会社社長の手嶋雅夫さん。株式会社NTT−ME社長の池田茂さん。フューチャーシステムコンサルティング社長の金丸恭文さん。最後にプロップ・ステーション理事長の竹中ナミさんです。

 それでは、これからの進行は成毛さん、西嶋さんにお願いします。

マイクロソフト(株)特別顧問、(株)インスパイア社長 成毛 真さん 日本経営者団体連盟労務法制次長 西嶋 美那子さん
ナビゲーター
マイクロソフト(株)特別顧問、
(株)インスパイア社長
成毛 真さん(左)
日本経営者団体連盟労務法制次長
西嶋 美那子さん(右)

西嶋 美那子:「企業のトップが動くとき」と言って、動いてしまった成毛さんから、この進行をどうしたいのか、ひと言説明していただきます。

成毛 真:ご紹介いただきましたように、マイクロソフトの社長を退任しまして、今日マイクロソフトの方は阿多社長がきていますので、私はインスパイアの社長として出席しています。

 このセッションは、西嶋さんと二人でナビゲーションをしてまいりますが、基本的に企業のトップというと「ビジネスばかり考えている人間」と思われがちですから、今日は素顔を観てみたいと思いまして、そういう形で進めて行きます。これからの進行をしばらく西嶋さんにお願いして、私の方は、もしも話が停滞したら質問を作り出すという係に徹したいと思いまして、もしかして寝てるかもしれませんが、そのときは勘弁いただきたいと思います(笑)。

西嶋:だいぶお疲れのようですけど、あまり眠らせないようにしようと思います(笑)。それでは、さっそく始めさせていただきます。これだけIT関係の社長がゾロゾロッとそろってるのも珍しいかと思いますので、おもしろい話が伺えると思っています。

 では、まず須藤さんと竹中さんから、社長たちがお話しをする前に、企業に「こうあって欲しいんだよね」とか、夢のような話でもかまわないんですが、一言、二言いただければと思います。

成毛:つまり、最初からプレッシャーを与えておこうというわけですね(笑)。

西嶋:そうなんですけど(笑)。では、まず須藤先生から。

須藤 修:何回も登場していますので、簡略にお話します。

 実は昨日、成毛さんのご紹介で経済同友会の方とお会いしました。経済同友会の方がなぜいらしたかというと、「NPOをどう活用するかで議論している。成毛さんのアドバイスがあってきた」ということだったんです。

東京大学教授、CJF座長 須藤 修さん
東京大学教授、CJF座長
須藤 修

 実は経営者団体も、6割はNPOが何だかわかっていて「外部的な資源を有効活用しよう」という意識があるけれども、そうじゃない、非常に保守的でNPOに対して偏見を持った人たちもいる。「その人たちに理解していただかなければいけないので、何かひとつブチあげてくれ」と言われたわけです。というわけで、NPOやチャレンジドの可能性について、もっと理解してもらわないといけない。

 まず、これは皆さん「目からウロコ」とおっしゃいますが、実際に吉田さんとか何回も登場していただいてますが、皆さん、能力が高いんですね。「使える」と。それを手嶋さんなんかがサポートして、どんどんスキルアップをサポートしてます。バックもあるわけです。それを使わない手はないということ。

 それから、ちょっと専門的ですが、いま私も関わっているんですけど、電子政府の仕事とB to Bのプラットフォーム作りの仕事を国内外で連携してやっている。これは相当に手間がかかる仕事です。内部資源だけだとうまく行かないことが、いっぱいあります。プロップなんかは、すでに組織ができていて、チャレンジドへの教育機能も持っていて、これをWebベースでやれば、もっとチャレンジドの人材が育つわけですから、この人たちをうまく組織して使わない手はないんです。

 でも、ここまででも、まだわかる人は少ないんです。経営者は、こういうことをわかる努力をしていただきたい。会場にお集まりの方々も、企業経営者のかたにどんどん広げていただきたいということを、まず申し上げておきます。

西嶋:では、一番うまく企業を使っていらっしゃる竹中さんに。

プロップ・ステーション理事長 竹中 ナミ
プロップ・ステーション理事長
竹中 ナミ

竹中:皆さん、日頃から大変お世話になっています。ドッグイヤーの中で先頭を走って、一分一秒を惜しんで企業経営をなさっている方々が、この会にこれだけ出ていただける。しかも、ボランタリーに。それはたいへん嬉しいのと同時に、「そういう時代にもなってきたんやなぁ」と感慨深く思います。

 やはり日本では、企業が変われば社会が変わると思うんですが、企業のトップの方や企業で仕事をされている方ひとり一人が少し、角度でいうと1度くらい、今まで仕事なんかできないと思って来た人たちに期待をかけるだけで、この国は大きく変わるんじゃないかと思うんです。

 今日、朝から伺ったコーエンさんのお話やライファー教授のお話を日本で実現するためには、ここにおられるようなトップの皆さんが動いてくださるのが一番速いんじゃないかと思っておりますが、やっぱりプレッシャーですか?

西嶋:先に多少プレッシャーがかかりましたが、それぞれの企業トップの方からお話を伺いたいと思います。企業のお立場で「公式に」ということではなく、現在おやりになっていることでもかまいませんし、「こんなふうにやったらいいんじゃないかな」とお考えのことでもかまいません。企業と切り離して、個人として別個こういうふうに考えてるということがありましたら、それも付け加えていただいて、お話しいただきたいと思います。では、阿多さんから。

阿多 親市:マイクロソフトの阿多です。5月に社長になりまして、まだ半年もたっていないので、会社のこともこういうことについても、「どういうふうに」とはっきり申し上げられるかどうかわかりません。4ヶ月間勉強してきたことをお話できたらと思います。

マイクロソフト(株)社長 阿多 親市さん
マイクロソフト(株)社長
阿多 親市さん

 会社のほうは、成毛社長時代にプロップ・ステーションさんを初め、いろいろなNPOの方とおつきあいさせていただいたんですけど、私はその間、ビジネスのほうにフォーカスしてきて、5月に社長になったわけです。

 プロップさんを初めとしたNPOとのおつきあい、あるいは社内に障害をもつ人を雇用したことで、社員の意識といいますか、モラルが非常に向上してきたと思います。どこか別の場所で仕事をしてもらうのではなく、継続的に会社の中で一緒に仕事をしてもらうことによって、全社員にモラル向上の効果が高かったと思います。

 社長になりましてから、「実際に自分たちの会社がどのくらいのことができているのだろうか」「どういうマインドでやっているのだろうか」というようなことを考え、調べ、勉強して来ました。ひとつには、会社のビジョンが「ソフトウェアを通じて人々の可能性を広げる」ということに変わりまして、単にパソコンをどんどん売って行きたいということではなく、人の可能性を広げるということに、私どもの社員の生き甲斐がシフトしてきました。それが、障害をもつ人と一緒に働いていくということで、モラルの向上にもつながったのではないかと思います。

 現在、米国の開発部門の中には40名、「アクティブ・アクセシビリティ」という、障害のある方に向けてソフトウェアでどのくらいのお手伝いができるかを研究する部隊があります。日本では2名ですが、そういう人間がいます。なぜ、アクセシビリティに対しての開発支援をするかというと、ひとつには「人々の可能性を広げていく」という会社のビジョンからです。もう一つには、やはり私企業ですから商売のためです。

 先ほどの講演で「リハビリテーション法の508条」の話が出ましたが、米国ではこの法律によって、来年から政府調達の機器についてはアクセシビリティが考慮されていないものは採用しないことになります。これが92年から検討され、98年に条文化され、来年から実施されることになっています。これは実際の商売に響いてくるわけです。日本では、検討する、あるいは勧めるという形では出てきていますが、法律にはなっていません。しかし、私どもとしては、モラルとビジネスの両面から、アクセシビリティ関係の開発を始めているわけです。

 私自身はもう10年らいウィンドウズを売っていますが、実際に障害をもつ人々に対して我々の技術でどういうことができているのかということに気づいたのが、ごく最近のことです。プロップにも参加している私どもの会社の細田という全盲の社員を通じて、プレゼンテーションしてもらいました。拡大鏡、スクリーン上のキーボード、それらが自分たち全盲の人にとっては有効に思えなくても、他の障害をもつ人にとっては非常に有効であることを教わりました。そして、私たちがまだ提供できていないものとして、スクリーンリーダーを見せてくれました。

 初めてみた時の感動は、すごいものでした。スクリーンリーダーが読み上げる言葉を、私はまったく聞き取ることができませんでした。恐らく、5〜6倍速というスピードだったと思います。その後、標準速度で聞かせてもらって、「そうか」と。「目の見えない人たちは、こういうふうに5〜6倍速で聞き取れるように訓練して、健常者と同じスピードで仕事ができるのか」というのを感じました。

 その後、直近ですが、IBMのイシダ顧問とお話しする機会がありました。アクセシビリティに関して、IBMがどういう感じでやってきて、現状どうなのかを勉強させてもらいました。イシダさんはまず、目が見えない人でもコンピュータの知識がすごくあって初心者に教える力がある人は、コールセンターなどに就労の機会があるのではないかとおっしゃいました。私はスクリーンリーダーやホームページリーダーを見た直後でしたので、「それはいけますね」と思ったんですが、実はまだまだでした。

 コールセンターでは、お客様から電話がかかって来ると、お客様の名前、住所、前にどんな問題があってどう解決したか、そういった情報の一覧を画面上に出します。また、そういうソフトはWebベースに移り変わってきています。そうすると、左上から読み上げていくスクリーンリーダーあるいはホームページリーダーでは、たとえ6倍速で読み上げても、お客様の住所なら住所の欄にすぐには到達できません。

 住所なら住所を聞いて、すぐに住所の欄に到達できるようなソフトは、きっとできるだろうと思います。現在のアクセシビリティの状態では、もっともっとサポートしていかなければいけないことがありますし、またこの分野でもっともっと働く機会を増やせるように、会社として研究活動を支援していきたいと思っている次第です。

西嶋:ありがとうございます。いまIBMの話が出ましたが、実は私はIBMの社員ですので、今日ここに社長がいなくて残念だと思います。さっきのイシダの話ですが、「一緒にやっていきませんか」というお話をマイクロソフトさんにもさせていただいて、他の企業さんにも「手をつなごう」という話をしているようですので、それがまた少し広がったら違う方向になるのかなと期待しています。

成毛:「マイクロソフトとIBMのが十何年来の確執を超えて、チャレンジドが結ぶ永遠の愛」みたな、何か美しい話になってきましたが(笑)。

西嶋:でも、成毛さんとお会いして、「IBMとマイクロソフトで、何かやりたいよね、米国ではやっていないから、日本で何かやろうよね」という話が何年か前からありましたよね。それが、成毛さんがいなくなってから出て来たみたいで、何か……(笑)。

 では、続いて手嶋さん、おねがいします。

マクロメディア(株)社長 手嶋 雅夫さん
マクロメディア(株)社長
手嶋 雅夫さん

手嶋 雅夫:ウチの会社は、クリエイターにプロフェッショナルのツール、特にインターネットのデザインツールを提供している会社です。お金を稼ぐための製品がほとんどで、趣味で使う方も日本ではいますが、基本的にはお金を稼ぐための製品です。

 竹中さんと最初にお目にかかった時、吉田君たちがコンピュータを使って何かの仕事をしてお金を稼ぎたいということで、我々が作っているものと考えが一致したので、「アドビのツールは使わずに、うちのを使って欲しい」と(笑)。

竹中:すみません、今回、Adobe Systemsさんにもご協賛いただいてますので(笑)。

手嶋:ウチは名前も載ってなかったんですけど(笑)、ま、それはいいとして、とにかくウチはプロ用のツールを作っていて、ずっとつきあってきたのはクリエーターだったんですよ。クリエーターというのは、一般社会の常識になかなかフィットしないんです。「朝9時に会社に来い」と言っても、ほとんど来ない。だいたい昼過ぎくらいに来て、夜中働いて帰る。そんな人が多いんです。ある意味で彼らもチャレンジドなんです。普通の会社の仕事が出来ないから、どうチャレンジしていくか。そこで、クリエイティブの仕事を選んだんだと思ってます。だから、自分としては、竹中さんやチャレンジドをサポートするというより、ビジネスのパートナーだとしか思わなかった。そういうところから始まっています。

 インターネットの時代になってくると、距離や時間が意味をなさなくなりました。ここに来られている企業の方も、自分の会社の仕事の構成を分析すると、会社にわざわざ来なくても良いことが、たくさんあると思います。レギュラーの時間じゃなくてもできることも、たくさんあると思います。夜中働ける人に頼めば明日の朝にはできているということが、たくさんあります。たとえば、ある大阪の大きな印刷会社は、インターネットにグラフィックを載せるためにGIFとかJPEGに変換する作業を、ベトナムで1点50銭ぐらいでやっています。在宅でしか働けない人に発注する仕組みさえあれば、そこに流せるような仕事がたくさんあります。

 その一つの例として、ウチも協力させてもらっているんですが、三重県に「サイバー・ウェブ・ジャパン」プロジェクトというものがあります。

 いま官公庁の文書は、いろいろなフォーマットで書かれていて、これをどう電子化するかが大変な問題になっています。ただ、フォーマットが決まれば、それに統一する作業自体は非常に単純なので、在宅でそういう仕事ならできる人にたくさん発注していく仕組みを作ればいい。ビジネスとしても成り立って行きます。

 そういうわけで、いま一番大事なのは、今やっている仕事の行程を分析して、何がどうできるのかを考え直してみることではないかと、最近特に思うようになりました。

西嶋:さっきお話ししていたら、「ぼくがやりたいことは、ぼくの会社で何でもできるんだよな」とおっしゃっていたんですが、この先、何をやりたいのかも、是非お聞きしたいなと思います。

手嶋:ある意味で会社を私物化しているようなところがありますので、好きなことをやってます(笑)。で、そのゴールは何かというと、これまでの社会のヒエラルキーに対して戦って行きたいという気持ちがすごくあるんです。

 個人の能力は無限のはずなのに、いろいろな仕組みやしがらみで能力を発揮できないという状況がたくさんあります。ウチが相手にしているのは、クリエイティブな世界ですから、そういう状況を比較的簡単に壊すんです。壊す可能性があるのであれば、どんどん自分たちのできることを提供して、壊して行きたい。その一つの大きな例が、先ほどのチャレンジドのバーチャル工房です。そういうことをやっていきたいと思っています。

西嶋:ありがとうございました。それでは池田さん、お願いします。池田さんのところは今日お見えの他の企業とは違って、堅い部分もお持ちかと思います。いろいろな大企業がいま大きな問題を抱えていますが、池田さんのところはどうかと思って、お話を楽しみにしているんですが。

池田 茂:多分、一番トシが多いということでバリアも多い。若い人の話になかなかついていけないところがあるんですけど、ずっと前から竹中さんがやっていることは非常に尊敬していますし、かなり前から参加させていただいています。

(株)NTT−ME社長 池田 茂さん
(株)NTT−ME社長
池田 茂さん

 今日は私どもの会社の一つのチャレンジについてお話ししたいと思います。「社員のスキルの転換」ということについて、具体例を紹介させていただいて、私の話とさせていただきたいと思っています。

 結論的に言いますと、やはりプライドを持たなければ、スキルの転換はできなかったと思います。実は、私どもは社員数1万8000人という非常に大きな会社ですが、先週の『ダイヤモンド』誌によりますと、1万人以上の会社で平均年齢が世界で最も高い会社だそうです。平均年齢は48歳です。しかし、私どもは、これをむしろ誇りに思っています。この平均年齢48歳、1万8000人の社員が新しいマルチメディアの時代、インターネットの時代に適応していく。この1万8000名は、今でも基本的には皆さん方のお宅の電話の故障に対応するといった仕事をしっかりとやっているわけですが、そういう社員が、新しい時代の新しいお客様のご要望に答えられるように、スキルを転換していこうということを始めたわけです。

 私どもの会社は去年4月に発足しましたが、このチャレンジは2年前にスタートしました。プライドを持って取り組むには何がいいかと考えた結果、「マイクロソフトのMCP(マイクロソフト認定技術者)の資格を取れば、世界に通用する我々の証になる」ということで、MCPをみんなで取ってスキルの転換をしようというチャレンジを始めました。スタートした時、MCPの資格を持っているのは、90名しかいませんでした。現在は9000名近くが取っています。

 通常の会社の通常の訓練では、これだけの数がこれだけの短期間に取得するのは無理ですが、結果としてできた。なぜか。私どもは社員ひとり一人に「プライドを持とう」「自信を持とう」とずっと呼びかけて来ました。「いまお客様のご要望が変わっているんだから、そのご要望に答えられるように自信を持って変わろう」と、「それがプライドだ」とずっと訴えてきました。それがあったから、59歳、58歳という人もチャレンジして、結果を出してくれました。発表会などやると、たとえば59歳の人から「人生で一番勉強しました」というような言葉が出る。そういう感じで、みんながチャレンジをして、現在でも継続しています。もちろんMCPだけではなくて、私たちはロータスさんの資格も持っていますし、シスコさんの資格も持っています。こうして学ぶことができたのは、プライドというものが根底にあったからだと思っています。

 これから私どもはそういったプライドと自信を身につけて、今度はお客様への貢献として形にしていこうと。20%のプロフェッショナルなお客様には、それはもちろん世界的な技術を持ってやっていきますが、あと80%のプロフェッショナルでない方々にもいろんな形で貢献しようと考えています。操作のしやすいハード・ソフトの提供を進めていこうと思ってます。

 本当の意味での「1億人のIT革命」をやっていくには、どうすればいいか。私どものような、地元に密着して首都圏でも380ヶ所拠点がある、そういう会社が一生懸命になるということが、非常に大事なことの一つではないか。そういう使命感を持って、これからも継続して学んで行く会社を目指して、がんばって行きたいと思っています。

西嶋:ありがとうございます。

成毛:ここ10年ぐらいでしょうか、NTTグループはものすごい勢いで、「電電公社」と言っていた時代には考えられないビジネス展開をなさっています。ここで特に阿多社長に何か聞こうというつもりはありませんが、私としてはすっかり気が楽になったものですから、「やっぱり分割するのがいいのかな」なんて思いながら聞いておりました(笑)。

西嶋:今、MCPのお話が出ましたが、ご存知ない方もいらっしゃると思うので、簡単にお話しいただけますか。

成毛:「Microsoft Certified Professional」と言います。国が作るいろいろな資格がありますけど、それとはまったく別に企業が作る資格というものがありまして、マイクロソフトだけでなく、いろいろな会社が作っていると思います。で、国の資格がその国の中だけで通用する資格であるのに対して、グローバルな企業の資格はグローバルに通用する資格ですから、池田さんがおっしゃったように、世界に通じるというプライドになる資格だろうと思います。

西嶋:かなり厳しい資格ですよね。

成毛:とてつもなく難しいですね。私では絶対に取ることができません。賭けてもいいです。「こんなことを賭けてどうするんだ」と思いますけど(笑)

池田:ひとつだけ成毛さんに言っておきたいことがあります。一昨年の8月のことです。「翌年4月のNTT−MEの発足までの8ヵ月に、MCP保持者を90名から1000名にします」と言ったら、成毛さんは「1000名も取れるわけがない。せいぜい200〜300名だ」と言ったそうです。そういう風に、本人からも聞きました。

成毛:あちゃー。

池田:それが、1月の時点で1000名を突破して、成毛さんは「ごめんなさい」と頭を下げてくださいました。そこで私は「御社の資格を取ろうとがんばっているんですから、もうちょっとサポートしてちょうだいよ」と申し上げました(笑)。

成毛:だんだんおかしな雲行きになってきたな(笑)。

池田:ちなみに、昨年4月発足時に1000名という目標でしたが、その時点で実際には2300名が取りました。

西嶋:先ほど平均年齢が48歳とおっしゃいました。そういう意味では、年齢の上でチャレンジドだと思います。そういう方々が資格を取っていくということは、一つのメッセージじゃないかなと思ってお話をうかがいました。

 では、次に金丸さん、お願いします。

金丸:アングルが良くありませんで、私のほうからちょうど気楽そうな成毛社長の顔が見えます。今日は最初から気楽な役割を決め込んでおられるようなので、ここは「成毛vsアンチ成毛」に話題を変えたほうがIT業界の変化もわかりやすいんじゃないかという気もするわけですけど(笑)。まじめな話に戻りまして、私ども会社・略称フューチャーの話をさせていただきたいのですが、会社は10年前に2人で興しました。その当時、マイクロソフトはすでにガリバーで、新しいソフトをヒットさせた会社は、急にやる気を出したマイクロソフトにパックンされてしまうという状況がありました。それで、自分たちでどんな会社を作ろうかという時、ソフトウェアの会社は作るまいと決めたんです。

フューチャーシステムコンサルティング(株)社長 金丸 恭文さん
フューチャーシステムコンサルティング(株)社長
金丸 恭文さん

 私はその前はパソコンのハードウェアを作っていたんですけど、我々の業界というのは「標準化」と「差別化」の2つの軸があります。マーケットの要求は「標準化」なんですけど、企業は利益をあげるために「差別化」を図る。しかし、このIT業界では開示性ということで、より標準化が求められるんです。

 そうした中で、私どもが2人で作った会社は、「お客様にナレッジとノウハウの提供する」というビジネスを選択をしました。ナレッジやノウハウを顧客に売るというビジネスモデルなんですが、会社を作った1989年当時、どう売っていたかというと、初期段階ではフェイス・トゥ・フェイスでした。ただ、よりたくさんの顧客に売ろうとした時、利用したのはテレビ会議システムでした。その後だんだん時代が変化して、いまはインターネットによって非常に安価に、我々のナレッジやノウハウを世界中の顧客に提供することができるようになりました。

 たまたま今年の春、竹中さんの主催される神戸のチャレンジドの方々のお集まりで講演する機会がありました。そこで申し上げたのは、社会の中のどのポジションを目指すかということでした。もし皆さんが持っているノウハウがアナログだとすると、それをデジタル化してネットで電送できるようにして、そのナレッジやノウハウをこの社会のリーダーシップを取るところで発揮していただきたいと言いました。

 実は、私の実家は土建業で、父親はずっと下請けの仕事をやってきました。日本の社会は実績主義ですから、ずっといい仕事をしていても元請けとしての実績がないと、元請けにはなれません。そういう構造がありましたから、私は自分がやるなら下から上に上がるのではなく、最初から上から行こうということで、業界の中で頂点にいられるポジショニングを目指したんです。ナレッジやノウハウを顧客に提供するという仕事は、アイデア次第ですから、組織の大小は関係ありません。そういう考えで会社を作って10年間やってきまして、いま社員数が270〜280名になりまして、最近下がったと言えども時価総額1100億円ぐらいの会社になっています。

 最初に私と一緒に会社を起こした人間は、技術にはムチャクチャ詳しいんですが、日本語でしゃべってもほとんど主語と述語がなくて、私以外の人間は彼のノウハウを引き出せないという状態です。私は彼ほどテクノロジーのノウハウはありませんが、彼が言いたいことを引き出す能力はありまして、それでやってきました(笑)。

 我々は、マイクロソフトの製品と競合するオラクルの製品、今後はLINUXなど、いろいろな企業が提供する複数の製品の組み合わせをして、どうやって使うかというノウハウを提供しています。ですから、製品を作る人たちに脅かされる地位ではありません。標準的なナレッジはどこかから買ってくればいいんですけど、我々が提供しているのは差別化したナレッジ。ナレッジ蓄積型のビジネスは参入障壁が高いと思います。

 我々はチャレンジドの方々を雇用するということでは貢献できていませんが、いま竹中さんのところに我々が蓄積したナレッジを、イコールパートナーとして提供させていただいて、そういう中で我々のナレッジを伝達できる仲間を増やしたいと思っています。どちらか元請けになってもかまいませんので。そういう思いで、ここにも参加しています。我々のビジネスモデルこそチャレンジドの皆さんの多少の目標になるのではないかと思ってお手伝いできればと思います。

西嶋:ありがとうございます。ふっかけられた成毛さんが、この場をぬるぬると過ごしていてはいけないと思いますので、何か……(笑)

金丸:成毛さんについて一つだけ言いますと、ぼくがITコンサルティングという今の仕事を始めようとした時、成毛社長は「そんなバカなことはやめた方がいい」と言っておられました。それから7〜8年して、マイクロソフトにコンサルティング事業部というのを作ろうとなさって、私にかなりの金額をご提示いただいたことがあります。あの時、買われていたら、私のボスは阿多さんに代っていたんだなぁと(笑)。それだったら、お売りしても良かったかなぁと(笑)。

西嶋:何かだいぶ反旗を翻されているようですが(笑)、いかがですか。

成毛:意表を突かれました。でも、皆さんもお聞きになって、「企業もまんざら捨てたものではないな」と思われたんじゃないかと思います。もう一つは、こういう場でチャレンジドやNPOが企業の中身の話を聞くこともないんじゃないか。どうも、断絶があるような気がしてくるわけですね。そういう意味で、このチャレンジド・ジャパン・フォーラムのセッションは、企業とそれ以外のセクターとのつながりがあって非常に面白いだろうと自画自賛しております。

 先ほどモラルの話がありました。NPOを運営するうえでのモラルの維持、またその上で企業との関係をどう考えていくか、今までの話をまとめる意味でも、須藤先生から少しお話いただこうかと……。

西嶋:その前に成毛さんに、今度の新しいお仕事のこと。こういうことに関して、おやりになりたい、できたらいいと思っていることを、お聞きできればと思います。

成毛:今度作りましたインスパイアという会社は、投資会社です。ですから、これは変な比喩をして恐縮ですが、いわゆる古い会社、たとえば製造業や建築業や食品加工業といった会社で、しかも上場しているところに対して、第三者割り当て増資を引き受けます。つまり、資金を提供します。その資金でIT化をしていただこうという会社です。

 ある意味、法人分野でそういう企業はチャレンジドに相当します。そういったところに資金とノウハウを提供するものです。

 ところが、そのインスパイアが最初に出資したのが奇妙な会社でして、今日そこに来ている赤い電動車椅子の谷井くんが急に社長になって始めた会社なんです。最初に出資したのが、ベンチャーでかつチャレンジドの会社ということで、ちょっと資金回収が不安になっておりますが(笑)、冗談です。そこから実は投資が始まったということです。

西嶋:チャレンジドの方で「これから起業を」という方には、いいサポートが増えたと考えていいわけですね。

成毛:そうですね。「なぜかチャレンジドの会社に投資をする無謀なベンチャーキャピタル」ということになるかと(笑)。

西嶋:最初の方はぜひ倒産しないようにいい例を作っていただきたいと思います(笑)。それでは、須藤さん、すみません、先ほどの成毛さんが振った質問に対して。

須藤:企業とNPOの関係についてロジカルにしゃべると、けっこう難しいことがたくさんあります。この前、日経に「沖縄特集をやるからIT革命の意義について書け」と言われて書いたら、大学の先生や行政官や経営者からは評判が良かったんですけど、NPOの方お一人から「何が書いてあるのか、さっぱりわからん。難しすぎる」というお手紙をいただきました。講演だったら3時間分ぐらいの話を3200字に凝縮して書いたので、そうなったと思うんですけど、ぼくは日経というのはそういう方が読むとは思っていなかったので、申し訳なかったなと思います。

 今日は具体的なところでお話します。三重県の話が成毛さんのほうから出ましたので、それに関係して言います。たとえば、成毛さんのおっしゃるように、やはり本格的な活動をするためには株式会社形態がいいんです。ただし、株式会社では収益性が重要になりますから、必ずしも収益が出ないようなことを手がける場合にどうするかという問題があります。そういう場合、これからは戦略的に「プロジェクト・マネージメント」というコンセプトを使って、私企業と行政、NPOが短期的に協力関係を結んでプロジェクトを完成させるというやり方が、非常に重要になると思います。成毛さんも阿多さんも、そのことは明確に認識なさっていますし、金丸さんも意識されているでしょう。

 私企業が集まり、行政が動く。そのときに行政からお金が供給されることがあると思います。たとえば、大阪の関西情報センターというところで行政情報化の委員長をもう3年ぐらいやっているんですけど、ここではNPOを受け皿にして、そこに私企業に入ってもらって、プロジェクト・マネージメントをやろうと考えています。自治省が法律を作ったPFI(Private Financial Initiative)という考え方を使うわけです。公的資金を投げて、事業の推進を民間部門に委ねる。ただし、その民間というのは、完全に私企業の場合には行政評価をしなければいけないんですけど、そうすると不適格になることがあり得るんです。そこでNPOという非営利的な組織を使って、そこに投げて、そこから与えられた範囲で責任を分担できる私企業が責任を持って活動するという形になる。

 三重県では北川知事から頼まれて、電子県庁のプロジェクトの委員長を拝命しているんですけど、行政評価を外部で行うという構想を作っています。その構想では、NPOを重点的に使おうと考えています。ぼくの意見では、そこにチャレンジドのNPOにも入っていただこうと思っています。そして、NPOでソーシャルマネジメントの資格制度を作って、行政評価の資格みたいなものを作ってしまったらいいんじゃないかと思っています。

 特に、竹中さんなんかは年来言われているんですが、都市開発にはバリアフリーの発想が必要なんです。ところが、本当にわかる人はそんなにいないはずなんです。それは、たとえば車椅子に座って動いてみたいと見えないこと、実際に長く生活しないとわからないことがたくさんあるはずです。そういう観点を身につけるトレーニングあるいは資格の取得を研修に入れるべきだというのが私の意見です。

 恐らく、北川知事も、これについては反対なさらないだろうと思います。ただ、北川知事からは「フレキシビリティのない制度は作るなよ」とずっと言われていますので、そのあたりは考慮しすが、要は「NPOと私企業が組む」ということが短期的なプロジェクトでは非常に重要になってきます。これは行政も乗りやすいんです。そういう新しい枠組みを、このチャレンジド・ジャパン・フォーラムで提案したいし、人材はプロップからも出てくるし、ここにお集まりの企業の方々からも協力を得られると考えています。そういう具体的なイメージでよろしいですか?

マイクロソフト(株)特別顧問、(株)インスパイア社長 成毛 真さん
マイクロソフト(株)特別顧問、
(株)インスパイア社長
成毛 真さん

成毛:はい。いまうかがっていても、企業とNPOだけでなく、自治体も巻き込んで、従来の秩序が破壊されている、新しい秩序を求めているという感じを受けました。慶応大学の金子先生が「コミュニティースクール」という提案をなさいましたけど、これも新しい学校・教育の形の提案です。

 そういう意味で、いくつもの既存秩序がミックスされ、破壊しながらも新しいものを探っているという感じです。そこで、今日ここで来られている企業の方々の中でも、最も秩序の破壊者になりそうな金丸さんに、お聞きしたいと思います。ここでしゃべらせれば、もう文句も来ないだろうと思いますので(笑)。「秩序を破壊する上での苦労」というのが当然あると思うんですけど、いかがですか? 

金丸:ご配慮いただきありがとうございます。われわれの会社のお客様には大企業が多いわけですけど、「未来価値をより高める」ということでそういう会社の改革のお手伝いをしています。多くのプロジェクトは、だいたいにおいて経営トップの理解は深くてやりやすいんですけど、だいたい中間の人たちが改革の阻害要因になります。なぜかなと考えてみますと、日本社会というのは減点社会なので、成功するかしないかわからないことをリスクを取ってやるインセンティブが少ないんだと思います。いま経営トップは株主の方などの監視もきついですから、経営トップのほうは改革へのインセンティブが働くんです。

 それから、我々も我々のお客様も売上を成績の基準として行動して来ましたので、売上からいろんな経費を引いた後の利益の責任者というのが、だいたいにおいて、いないんです。合計値の利益の責任者は、経営陣であったり社長であったりするんですけど、それぞれの分野の収益の責任者というのはいなくて、そういった意味でも、ITが情報の最小単位で企業内のできごとを瞬時に把握できるという仕組みができていない。これも、インセンティブが作りにくいということに起因するのだと思います。

 成毛さんには、我々も最近ではデストロイヤーとしてはやっていないのでご安心をいただいて、我々のお手伝いしている企業にも投資をしていただきたいと思います。

西嶋:ありがとうございます。金丸さんのお話にありましたが、組織というものはなかなか動かない。トップが動いても中間が動かない。あるいは、中間が「これぜったいやるべきだ」と思っていることが、トップに届かないとうい面もある。両方あるのかなという気がするんですけど、それぞれの企業はどういう体質なんでしょう。

阿多:サイズの問題もしくは担当している仕事の幅の問題もあるかと思います。私のところでは現在、日本で働いている従業員が1400名になろうかと思います。私にレポートしてくれている役員が13名。それ以外に、開発部隊が11に分かれていて、それぞれが本社にレポートしている。トータルで大きく分けても24部署あります。それぞれの部隊は、小さいものだと10名のものもありますし、大きいところは260名というところもあります。

 そういう組織をどうマネージしていくか、どのようなモラルで仕事をしてもらうか、まだ大きなことは言えませんが、いつもトップとして考えて、コミュニケーションを絶やさないように心掛けたいと思っています。

 これでもう回ってこないと思いますので、もう一つお話させてください。今日この中でお話ししたいなと思って来たのは、雇用の問題です。当社にも法定雇用率は課せられていて、1400名の1.8%ですから、20数名にチャレンジドの方を雇用する義務があります。私にとっては、株主に対する責任も含めて、非常に良い規則であります。仕事はできるだけ利益を追求する方向でするわけですが、日本で仕事をするためのレギュレーションとして1.8%のチャレンジドをちゃんと雇用する。それで、日本社会に貢献できるんだというのは、いいと思います。

 ただ、この1.8%、20数名を雇用するのは非常に難しい状態です。結論でも言い訳でもなく、ひとつの意見として聞いて欲しいんですが、当社でも社員の評価があって、約4%の社員は現在の給料を維持できません。100人いれば4人が目標を達成出来ない。給料相応のパフォーマンスが出ない。その人たちには、反省を求めるか、配置転換をするか。で、その低い評価が2回3回と続けば、退職してもらうこともあるかも知れない。そういう実力主義の評価システムを持っているわけです。

 その4%と、チャレンジド雇用の1.8%を、どう考えれば良いのかかが、いま悩んでいるところです。恐らく、多くの経営者が悩んでいることだと思いますし、私は私で、何らかの答えを出したいと思っています。

 もう一点、雇用が難しいというのには、なかなか十分な施設が整っていないという問題もあります。たとえば、車椅子対応の施設が整っていない。私どもは日本に不動産資産を持っていない会社です。最高に利益を上げられる状態、もちろん税金をきちんと納めていますけど、そういう状態を維持するために、オフィスは貸しビルを使っています。で、なかなかバリアフリーのビルがないという状況があります。

 ただ、私どもの面接の人間に「そういうこともできていないのか」とおっしゃる方もおられますが、その前に自分のできることをハッキリしていただきたい。私はいつも社員に言うんですけど、「会社として何をやっているんだ」という前に、自分が何をやれるんだということをハッキリさせましょうと。もちろん、会社としてやらなければならないことができていなければ反省はしますが、会社としては能力を身につけられた魅力的な人材を採用したいと思いますし、それに合わせた責任を果たしたいわけです。それが逆になってしまうというか、良い言葉が見つかりませんが、そういうことは避けたいなと思っています。現状、確たる答えはないのですが。

日本経営者団体連盟労務法制次長 西嶋 美那子さん
日本経営者団体連盟労務法制次長
西嶋 美那子さん

西嶋:いま阿多さんがおっしゃったことは、いろんな日本企業が持っている部分だと思います。ただ、午前中のコーエンさんの話を聞いていると、きっと今の話は言えなかっただろうなという気もします。というのは、「アクセシビリティをきちんと考えることが雇用に繋がるという発想の転換をしなければいけないんだ」というご指摘があったので、あれは企業側にもかなり問題提起になっていると思います。

 でも、やはりまだまだ、日本全体がそれを受け入れる仕組みになっていないということもあって、雇用の問題では難しさが残っているのが現状だと思います。

 先ほど金丸さんも、ご自分のところにチャレンジド社員はいないということでしたが、300名以下の企業は雇用率未達成の納付金が除外なので、チャレンジド雇用が一番進んでいないところなんです。ぜひ非金丸さんの会社も、ご検討いただきたいと思います。

 他にご発言がありましたら……。

手嶋:ウチもナスダックの公開企業なので、私物化しているとはいえ、厳しい株主の視線を受けているわけです。当たり前のことですけど、企業は株主のものであって個人のものではないですから、株主に貢献するのが当然です。ただ、その貢献の仕方を選べるのが、経営者の権利だと思っています。

 で、その権利をいま、どう行使しているか。いまここでチャレンジドと呼ばれている方は、ぼくは非常におつきあいしやすいんですが、同じ状況にいらっしゃる方でも、おつきあいしにくい方がたくさんいます。原点は、メンタリティです。

 企業では、メンタリティの変革についてトップが努力しないと、変わらないことがたくさんあります。たとえば、社員が会社のコーヒーを飲む。その時、「このコーヒーのお金はお客様からいただいたお金から払われている」という非常に当たり前のことを理解しないで飲んでいるのが、ほとんど。だとしたら、そういうことを口が酸っぱくなるほど言って、社員のメンタリティを変えなければいけない。

 それと、経営者はチャレンジしていないといけない。ぼくも、ここにマジシャンみたいな格好をして出るのがいいのかどうかは別として(笑)、普通のスーツを着て来た方が楽なんですけど、そうじゃなくて何かしなくちゃいけないと思うんですよ。何らかの形で挑戦している姿を見せ続けるというのは、経営者の一つの勤めだと思います。

 ウチはクリエーター向けのツールを提供している会社ですけど、社員はクリエーターではないんです。だから、どういうふうに話をして理解させるか、よく考えないといけません。ぼくが常に言っているのは、「ウチは板前さんのために包丁を作って売っている会社だから、とにかく板前さんの話をたくさん聞け。その板前さんたちに合った適切な包丁を作ることによって、美味しい料理ができる」。そういうことについてのメンタリティの持ち方を。よく言っています。

 ウチの雇用は、誰でも能力のある人は雇いますから、障害があるかどうかなんて関係ありません。ただ、それに関連して言うと、さっきのライファー教授のWebベースド・ラーニングの話、非常にいいなと思われた人がいると思いますが、あれは単純にいい話だけではありません。時間と距離が関係なくなると、競争がアッという間に激化しますから、守られるということがなくなっていくと思うんです。それに対処するには。やはり個人ひとり一人がメンタリティの変革をしていくしかないし、企業ではそのことを経営者がどれだけ伝えられるかが問われている。自分もそれに挑戦していかなければいけないし、いくべきであると、肌で感じています。

西嶋:池田さん、どうぞ。

池田:では、5分間。我々は組織が大きいので、コミュニケーションが組織運営上もっとも難しい課題だと思っています。永遠の課題ですから、いろんな方法があると思います。私のほうからは、いま会社でやっていることの紹介をします。

 私どもは毎週月曜日、本部長や支店長を含めた30名の会議をします。会議の中身はその日の内に全社員に伝わるようにしてます。会議の中身で配慮している点が2つあります。一つは、会議参加の全員が発表をします。同じパターンで発表して行きます。特に大事なのは、貢献した社員は誰であるかを明確にみんなの前で発表するということ。それと発表する人に対しては絶対に質問しないこと。というのは、質問があると、その質問に備えてものすごい準備をすることになるからです。だから、私も含めて、質問はしない。みんな安心して自慢話をするわけです(笑)。最近はみんな、派手なタイトルをつけて楽しそうに発表します。

 もう一つ配慮しているのは、私・池田が社長の立場で「今日はこういうことについて社員に伝えてほしい」ということを必ず話すようにしています。コミュニケーションはいろんなことをやっても、なかなかうまくいかないのですが、私どもの組織ではそういう工夫をしています。

西嶋:NTTさんは分割前、障害者の雇用率がかなり高くて、2%ぐらいまで行っていたように思います。分割した後は、会社によってかなり偏りが出て、「そのならしが大変」といったご相談を受けたこともあります。「これだけ企業の分割や統合がある中で、本当に一企業ずつの雇用率という制度でいいのか」という問題を、厚生省などに投げかけているところです。

 では、金丸さん、最後に言い足りなかったことをどうぞ。そして、出番の少なかった竹中さんに、どうしてもこの場でこの社長に聞きたいことを聞いてもらいましょう。

金丸:隣の竹中さんが、きっとしゃべりたいことがいっぱいあるんだと思います。さっきからこっちの腕のほうが熱くなってきて、非常にエネルギーを感じてますので、私の話は早々に切り上げたいと思います(笑)。

 で、先ほどご指摘いただいた雇用のパーセンテージは、今後の課題とさせていただきます。ただ、いま私どもが挑戦しようとしているのは、我々がチャレンジドの方々を雇い入れて給料を払うのではなくて、チャレンジドの方々のナレッジやノウハウに対して、給与プラス収益を乗っけていただいて、ぜひ仕事として出したいと思っています。

 このIT業界を私なりに振り返りますと、完全主義というのは敗北したんじゃないかと思います。初期にパソコンが出てきたときも未完成でしたし、インターネットも当初はもっとあやふやな技術でした。いまIT革命の中核を成しているこの2つの技術は、草の根的な利用者と提供者の努力によって進化して来たんだと思います。だから、「足りていないものが多かったほうが、実は付加価値が多かった」ということをもう一度認識して、やっていく必要があると思っています。

 竹中さんたちとビジネスをやっていくと、いろいろ足りていないところが出てくると思います。ですから、そこから付加価値を生み出して、ぜひ株式会社にして、インスパイアさんのお荷物にならないように成毛社長にも投資をしていただいて、公開してキャピタルゲインを得る。こういうほうがいいんじゃないかと思ったりもします。

 いま、何十年に一度の大きなチャンスが出て来ている、そういう時期と思います。そういう意味で、今回のフォーラムはとてもいいタイミングで、お呼びいただいたことに感謝申し上げて、私の話は終わりにさせていただいて、竹中さん、お待たせしました。

竹中:こういうテーマの会で、トップのみなさんが本音で、ま、ちょっと本音じゃないところもあるかもしれませんが(笑)、お聞きしていて、かなり率直なお話をいただいたと思って、嬉しいです。なかなか企業トップの本音なんて聞けるもんじゃない。

 で、雇用の問題ですけど、いまは非常に多様な働き方の時代になっていて、今までのように雇用率を達成するために障害者を雇用する時代は、もう終わるんだろうなという気がします。基本は、自分のソーシャルスキル、技術やクリエーティビティを磨いて、仕事のチャンスをつかんでいくということ。そこには、もちろん雇用されるという道もあるけれども、独立独歩でいく道、会社を設立する道などなど、いろんな道があるんだろうと思うんですね。

 そういう意味で、今日はいろいろな規模、いろんな立場から、企業のトップとして率直なお話をいただいたこと、特に阿多さん、非常にシビアな部分にも触れたお話をしていただいて、たいへん嬉しいです。実はいま、マイクロソフトさんと、「マイクロソフトの資格をチャレンジドが取れる仕掛けを一緒に考えよう」ということで、この前からお話し合いをしています。

 まず学ぶということ、自分を磨くということがあって、それから働くこと、稼ぐこと、遊ぶことがあると、私は思っています。そういう人間として誇らしい道を踏んで行って、社会を支えて欲しいと思っているものですから、企業トップのみなさんが非常に率直にお話しいただいたのを嬉しく思っています。本当に今日はみなさん、お忙しい中、ありがとうございました。

西嶋:すいません。「企業トップが動く時」というタイトルとはちょっと違った話になったかも知れません。そのあたりは、最後に成毛さんにまとめていただいて、終わりにしたいと思います。

 私のほうからはひと言、いまは本当に雇用だけではなく、就労の仕組み全体を変えていく時期なんだと思います。そのあたりは明日、労働省や文部省の方が来られると思いますので、ぜひ明日の議論につなげていただきたいと思います。

成毛:今日はIT産業の会社だけで構成されているお話でした。IT産業はここ20年ほどの間、恐らく人類史上稀な競争を繰り広げて来た業界です。したがって、その競争に勝ち残った企業であり、その社員も競争に勝ち残った社員ということだと思います。そこに特殊性があるわけです。

 しかし、私がいま仕事相手にしている伝統的な産業では、まだまだ「ITって、いったい何なんだ」という状態、Eビジネスどころか売り上げ伝票が手書きという状態の会社のほうが多いのも事実です。問題はその中で、今日の話にもありましたように、モラルをどうやって上げて、その会社を変えていくのかということ。これが、ひとつの重要なファクターです。

 また、チャレンジドの方々にとっても、必ずしもIT企業に就職することが幸せかどうかということがあります。むしろ、IT業界が作り出した製品を使う他の業界の中で、そこの社員よりもはるかにいい仕事ができる機会が出来たんじゃないかというのが、私の見方です。

 ただ、チャレンジドの方々が新しい技術を入手するチャンスがあるのかどうか。それからもう一つは、企業から見て、できるチャレンジドの方々をどうやって発掘するのか。そのチャンスをどうやって作っていくか。これが非常に大事だと思います。どういうチャンスを作り、それをどう広く知らしめるか、そこが企業にとっても国にとっても課題だろうと思います。また、今日のお話の中からヒントも出て来たと思います。

 以上で、甚だ稚拙なナビゲーション、途中で寝ていたので申し訳なく、反省をしつつ、このセッションを終わりたいと思います。

西嶋:ご来場の方々が聞きたいことが聞けなかった部分があるかも知れませんが、これだけのトップの人たちがこれだけの時間を費やしてくれたということで、ご勘弁いただければと思います。ご静聴ありがとうございました。皆さんどうもありがとうございました。


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