2000.8.31(2日目)
特別メッセージ
「Let's be Proud! に寄せて」
櫻井 よしこ:ジャーナリスト

ジャーナリスト 櫻井 よしこ さん
ジャーナリスト
櫻井 よしこ さん

 第6回チャレンジド・ジャパン・フォーラムの開催、本当におめでとうございます。そして、私の大好きなナミさんにも、今日は本当のおめでとうございます。チャレンジドの皆さんも、きっと明るいお顔で会場にいらしていることと思います。

 ナミさんとお会いして、まだそれほどの時間は経っていませんが、私はいつもナミさんのエネルギーに溢れた、そして優しさと勇気に溢れた、その実行力に敬服しています。あなたのなさっているようなお仕事が、私たちの社会を一部書き換えて行き、その変化の波が、たぶん私たちの社会全体に広がって行き、良い方向に変わっていくんだろうと思います。ナミさんには今後もっとご活躍していただきたいですが、今日は私なりに21世紀この社会がどんな社会になるのか考えてみたいと思います。

 20世紀はいろいろな問題がありましたが、少しずつチャレンジドの皆さんへの理解も深まって、活動の幅が広がってきました。21世紀は、チャレンジドの皆さんが大きく羽ばたくことができる世紀ではないかと考えています。その変化は、日本だけではなく、他の国でも同じようなことが起きています。

 私はしばらく前にスウェーデンを訪れた時に、非常にたくさんのチャレンジドの皆さんにお会いしました。その中で特に印象に残っているのは、エリックさんという方です。この方は生まれた時から脊椎が損傷していて、重度のハンディキャップを負っておられました。車椅子から離れることができませんし、車椅子に乗っていてもご自分の体重を支えられないので、前のほうにも支えをつけています。

 でも、この方は、なんと独り暮らしをしているんですね。「大丈夫ですか」と聞きましたら、「そんなに知りたければ、ぼくの家に来てみるかい」と言うので、私はエリックさんの家に行ったんですけど、なんとその家までの車をエリックさんがご自身が運転をなさったんです。運転をすると言っても、両手は満足に使えません。ですから、コンピュータを使った装置で、ボタンを押すとブレーキがかかったり、別のボタンを押すとアクセルがかかったりというように、車にはいろいろ工夫がされていました。その車は、車椅子のまま後ろから乗って運転席につけるようにもなっていました。

 彼は重いハンディキャップを持っていて、フルタイムで働くのはちょっとキツイので、ハーフタイムで働いていました。彼は、コンピュータグラフィックの仕事をしています。私が行ったときは時はある会社のデザインの仕事をしていましたが、将来は芸術的なコンピュータグラフィックをしたいと言っていました。

 お給料はどのくらいか聞きますと、月10万円あるかないかという額でした。そのお給料で生活はどうですかと聞いたら、やはりそれだけでは苦しいので補助をもらっているとのことでした。いろいろ聞いていくと、彼が非常に重い税金を払っていることがわかりました。所得税を28%も払っているのです。また、お買い物をしますと消費税がかかって、ものによって25、26%から30%ぐらいかかります。

 でも、「とても税が重いですね」と言うと、エリックさんは「ぼくにもタックスを払う権利があるんですよ」と言いました。私はこの言葉に胸を突かれました。ナミさんたちがチャレンジドの皆さんを納税者にしようという運動をしていますが、エリックさんは納税をかなり以前から実践していて、それを「権利」と言いました。「権利」ではなくて「責任」とか「義務」ではないですかと聞いたら、彼は「ぼくは権利と捕らえているんだ」と言うんですね。

 その心は何かと、また話を聞いて行きますと、スウェーデンではもう「ボランティア」という言葉は古いのだそうです。慈善事業として弱い人を助けてあげるというコンセプトはもう過去のものだということです。「チャレンジドとしては、そうしてもらうのは権利だ」ということ。ただ。要求するだけが権利だけではなく、エリックさんが「タックスを払う権利がある」と言ったように、「自分たちが社会の真ん中でいろんな人たちの助けを得ながら生きていくからには、タックスを払うのも権利である」と、自分の責任を真っ正面から受け止めた主張しているのでした。私は「素晴らしい生き方だな。なんという前向きな、自己責任を負った勇気ある生き方かな」と思いました。

 日本のチャレンジドの皆さんも、間違いなくその方向に羽ばたいて行っていると思いますが、その前に、私たちが考えるべきことは、21世紀の人類のあり方というのがまさにその方向に行くのだろうということです。国際政治を見ましても、その他の分野から見ましても、人類はひとり一人を大事にして、ひとり一人が自己責任で勇気を持って夢を実現していくという方向にあるのだと思います。

 日本はいろいろな意味でお金が沢山あります。でも、国際的な日本に対する評価は残念ながらあまり高いものではありません。なぜかと考えたら、お金以外の貢献というところで、やはり日本人の真意が伝わらなかったり、日本の努力が足りなかったり、自覚が足りなかったりする面が目立つからだと思います。

 じゃあ、これから日本はどうしていったらいいのか?

 たとえば、私は21世紀はデモクラシーやヒューマニズムが20世紀よりもはるかに大きな意義を持つ世紀だと思います。それは、たとえばチベットのダライラマ法王が日本にいらしたとき、日本が法王様をどのように迎えるかを、各国が注意して見ていたことにも現れていると思います。

 チベット仏教の最高位のダライラマ法王は、インドの亡命政府のところに身を寄せておられますが、このダライラマ法王が各国を訪ねるときには、各国のリーダーたちは、それが首相であれ大統領であれ、競って「お会いしたい」と時間を割いています。でも、今年の4月に法王様が日本にいらしたときは、日本政府は法王様に「日本にいる間には政治家に会わないように」という忠告をしたということです。また「政治的な発言をしないように」という注意もしたと聞きました。そして、野党の一部の政治家を除いて、政治家は法王様にお会いしませんでした。このような姿勢を各国が見た時に、日本という国全体の姿勢だと見られてしまいます。

会場風景 民間では法王様を支援して、その話を聞くために大勢の方が集まりましたけど、国を代表する政治家たちが、このような方をお迎えしたときに全然お会いしようともしない。つまり、チベット民族に対する友情も、思いやりも、そして中国政府に弾圧をされていることへのの同情も持っていないということを、行動で示したに等しいわけですから、このようなことはしてはならない、ということなんだろうと思います。そして、このようなことをする日本に対しての世界の視線が厳しくなるという傾向は、これからもっと強くなると思います。

 もう一つ、「デモクラシーを大事にしなければならない。ヒューマニジムを大切にしなくてはならない」ということで言うと、1999年のコソボ空爆のときのことがあると思います。コソボというところには200万人ぐらいの人が住んでいて、9割以上の方々がアルバニア系です。セルビア系の政府がこのアルバニア系の人々に大変な弾圧を加えまして、過去10年ぐらいの間にアルバニア系の皆さんの人口が200万人から130万〜160万人ぐらいまで減ってしまいました。多くの方々が周辺の国に逃れたり、殺されたりしてしまいました。このコソボの状況を見過ごすにはできないということで、アメリカおよびNATOが集まり、大変厳しい空爆を加えました。

 これは国連の決議なしで行われました。国際法の観点から見れば大変な違反になりますし、軌道から外れた空爆でしたが、世界中のほとんどの国々が空爆を支援しました。その心は、このコソボの自治州に住んでいるアルバニア系の方々に対するこれ以上の虐殺は許せない、弾圧は許せないということで、世界中がコソボ空爆を承認し、しかも支持したということだと思います。これもまた、21世紀この地球の政治を動かす価値観の軸が、デモクラシーであり、ヒューマニズムであり、少数民族を守ることであり、ひとり一人の命と自由を守ることだということを示していると思います。

 20世紀に比べて21世紀は、ひとり一人が大切にされなければならない、また、大切にされていく世紀だろうと、私は思います。そうしたとき、ナミさんやチャレンジドの皆さん方がどれだけ生き生きと多くの人々の先頭に立って活動し、そして幸せに生きることができるかということが、とても大事になってきます。日本の価値観がどこにあるかを示すためにも大事ですし、「世界はこのようになって欲しい」というメッセージを送る意味でも大切なことだろうと思います。

 チャレンジドの皆さん方を大きく手助けするのは、スウェーデンでエリックさんがなさっていたように、コンピューターだろうと思います。コンピューターの技術をマスターしたり、コンピューターでお仕事をしたりするのに、多くの方々が手を貸していると思いますけど、世はまさにIT革命と言われています。コンピュータ、ITはどこまで勉強しても追いつかないような大変な分野でありますけど、ナミさんと多くのヘルピングハンズの皆さん方がチャレンジドの皆さんと一緒になって、チャレンジドの皆さん方の中に埋もれている能力を輝くばかりにまで開発して、伸ばして、結果を出せるように、私はいつもお祈りしています。そして、チャレンジドの皆さん方が生き生きとお過ごしになられることが、私たちをも勇気づけてくれることを忘れてほしくはないと思います。

 ナミさんもチャレンジドの皆さん方も、そしてこの会場にいらしている外国からのお客様も、日本でナミさんたちを助けている多くの方々も、どうぞこの会場ですばらしい時を過ごしていただきたい。そして、それを21世紀、私たち人類の素晴らしい時間、日にち、時代を築く力の源泉としていただきたいと思います。  今日は本当におめでとうございました。


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