作成日 1998年3月吉日


 読んでみませんか

『日本の障害者』

花田春兆 著


 もう三年か四年前の事です。この本の著者である花田春兆先生には一度だけお会いしてお言葉を給ったことがあります。それまでにも高名な俳人としてお名前は知っていましたが、お会いして、先ず驚いたのはその障害の重さでした。それまでの想像ては重くとも私ぐらいと勝手に思っていたのです。車椅子に座られた先生が講演を初められて、その素晴らしさに度肝を抜かされ、障害の重さどころではない驚きを感じました。それは未だにはっきりと心に焼き付いています。

 前置きが長くなりました。ただ、私は『日本の障害者』という本が、どの様な方が書かれたかを知っていただく一つのよすがになればとの思いから長くしたのです。ご容赦下さい。内容についてはお読み頂くのが一番良いのですが私なりに感想を書かせて頂くと、第一に読みやすい本であるということです。難解な語彙や漢字は殆ど有りません。しかし、断っておきますが、書いてある事は深くて濃いので、ある程度腰をすえて読む必用はあります。

 目次によると「第一部 古代から幕末まで」とあります。「今更、歴史の勉強でもあるまい」などと言われては困ります。この本は唯の歴史の本ではありません。一番目に出てくるのは古事記の中の蛭子(ヒルコ)とゑびす様です。

 蛭子については私も初めて知ったとき俳句にした経験が今でも忘れられませんが。とにかく、日本の最初の障害者が出て来るのです。

 次がスクナヒコナノミコトとなります。このように「日本には歴史に出てくる神の中にも障害者がいるのだ」。と著者は言っているのです。

 先を急ぎましょう。少々飛んで、平安時代にはもう障害者に対してそれまでとは逆の価値観が出てくる。ここでは「岩倉の里子」や「鳥獣戯画」などの話から時代の変化を示されています。

 また、飛びに飛んで一気に江戸時代まで行かせて頂きましょう(おことわりしておきますが、本の中には時代、時代にそれぞれの障害者の事が書かれています)。

 この時代で面白かったのは落語のに出てくる「与太郎」への春兆先生の見方です。与太郎の噺は今でいうノーマライゼーションだ。との考え方です。こんな新しいものの見方をされている先生は少ないと感じました。

 「第一部」は江戸時代までです。本当は「第二部 明治から昭和まで」も書かなければならないのかも知れませんが、後は皆さんにこの名著をお読み下さい。と書いて終わりとさせて頂きます。

 最後にこの本の全体について書くならば、これを読めば日本における障害者の歴史的側面が生き生きと分かると言えるでしょう。また、障害者である花田春兆先生が書かれている為、読後感がとても清々しいと感じます。一読の価値がある本だと思います。

『日本の障害者』 (中央法規出版)

本体価格:2,500円

花田 春兆(はなだ しゅんちょう) 全国書店発売中

● 帯文は松岡正剛さん  (編集工学研究所所長)


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