作成日 1997年10月20日


大きすぎる小鳥のお話

ここはマジカル・ビレッジの遥かな丘の上、
大きすぎる小鳥が日がな一日、卵を抱いて座っていますよ。
座ってばかりいるので体はどんどん、大きくなっていき、
今ではその重みで卵が割れてしまいそう・・・。
あなたにこの大きすぎる小鳥のつぶやきが聞こえますか?
北風が吹いてきたわ。
もっとこっちに綿毛をかけないと、わたしの大事な卵たちがこごえてしまう。
よっこらしょっと。
あらあら、こんどはじりじりと日差しがきつい。
厚い大きな羽であおいでやりましょう。
ふう、ふうこれでいいかしら。
わたしはわたしの卵たちのことしか考えていない。
ほかにこの世で大事なことなんてあるわけがないわ。そうでしょう?
すくなくともわたしにはそう。
この卵たちをおびやかすものをわたしはすべて遠ざけるのよ。
守るものがあるっていうことは本当に自分を強くするものよ。
昔はわたし、ただのちっぽけな弱虫の小鳥だったの。
それが今ではこんな風。
なんにだって負けないわ。
ただ心配なことがひとつ。
大きくなったわたしのせいで大事な卵が割れてしまわないかってこと。
卵たちを守るせいで大きくなったというのに・・・。
ああ、それならば、いったいわたしはなにから卵を守ろうとしているのかしら。
いつも決まって見る夢があるのよ。
わたしのからだの下から、ひな鳥たちがはばたいて空に舞い上がってゆくの。
とても楽しそうに自由にね。
でもわたしはそれを追いかけるの。
そしてもう一度わたしのこの綿毛の下にもどそうとするのよ。
だって、もし卵がかえってしまったらわたしはいったいなになんでしょう。
ただのちっぽけなおくびょうな小鳥にすぎないのよ。
夢からさめてわたしは心底ほっとするの。
まだわたしの綿毛の下にくるまれたままの卵を感じてね。
もしかしたら卵たちをおびやかしているものはこの母親のわたし自身かもしれないわ。
グラン’マーマレードの”いつかひとつの幸せは終わりが来るけれど
またべつの幸せがきっと来るマーマレード”を食べながら考えてみましょう。
この卵たちがかえる日はまだまだ先だと信じてね。
そうそう、もうひとつわたしのすきなマーマレードがあったわ。
それは“先のことなどなにもわからない幸せマーマレード”よ。


[up] [next] [previous]


トップページへ

TOPページへ