「Challenged Japan Forum」開催

コンピュータとネットワークを活用した
チャレンジド(障害者)の就労をテーマに
チャレンジド自身と官・民・研が同一テーブルで議論



8月31日(土)、受付開始時間の12時30分を待たず、フォーラム参加者たちは次々と会場に集まりはじめ、大阪のプロップ・ステ−ションのチェレンジドたちは朝早く家を立ち、新幹線や飛行機を使ってボランティアとともに駆けつけてきた。午後1時の開始時刻には、会場となった東京・南麻布にあるNTTラーニングシステムズ(株)「セミナールーム209」に参加者の50名が揃った。
「Challenged Japan Forum」の開催は大阪を拠点に活動するプロップ・ステ−ションと弊社が共催。デジタル技術によるコンピュータやネットワーク化社会の進展によって、障害者(米語では「チャレンジド」)の就労の場を拡大できるものとして期待が高まっている。この電子メディアを活用した就労によって、チャレンジド自身が賃金を得、納税者となり、自立できる社会づくりを目指すというプロップ・ステ−ションの主張をもとに、チャレンジド自身はもちろん、官庁、民間、研究者が個人の立場で自由に発言し、認識を深め、方向性を探りながら実現へのシナリオを描いていこうという意欲的なフォーラムで、座長は須藤修・東京大学助教授、副座長は清原慶子・ルーテル学院大学教授。第1回目の主な論点をレポートする。
                      (レポート:吉井 勇=NEW MEDIA編集部)


●レクチャー

チャレンジドと官、民、研究が一緒に考えあう場

須藤修:Challenged Japan Forum座長
    東京大学社会情報研究所助教授

プロップ・ステ−ションとの出会い、障害をもつ人の就労問題は、その重要さとともに、高齢化社会とも共通するテーマであると考え、このフォーラムを呼びかけた。この問題について、チャレンジド自身はもちろん、官、民、研究にたずさわる方が個人の立場で参加し意見を交換し、それを力に変えていくような活動の場としていきたい。

私達の主張「納税者に」は活動から得た強い確信

竹中ナミ:プロップ・ステ−ション代表
プロップ・ステ−ションはNPOとしてチャレンジド自身がコンピュータを学びたいという要求を強く持っていることから、初級レベルからの講習会をボランティアとともに実施し、その活動を通して在宅勤務の可能性を確信。私達の主張である「チャレンジドを納税者にできる日本」は活動から得たものであり、実現できることを実感としてもつかんでいる。

チャレンジドの就労と生産性及びその経済効果

茅原聖治:大阪府立大学大学院経済学研究科
私自身障害があり、自らの問題として「障害者と就労」を研究している。まず、人的資本の観点からアプローチしているが、障害者の就労はマクロ経済的に見れば生産性に寄与していくと考える。とくに、インターネットなどの通信機能を活用することで人的資本の蓄積が進み、長期的に見れば利益を見込めるのではないか。高度な通信インフラは障害者にとって有効な支援となることは間違いない。


●Challengedの発言「私の決意と意欲」

外出が苦手な我々は在宅勤務に大なる期待

桜井龍一郎:プロップ・ステ−ション機関誌編集長
私はスポーツ事故で頸椎損傷し重度の障害を負ったが、情報処理技術の資格を学び、91年4月労働省「重度障害者の在宅勤務に関する通達」の第1号として在宅でネットワークを通してコンピュータ関係の仕事をしている。また、プロップの機関誌編集長としても、ネットワークによりボランティア参加。高速通信網が安く利用できれば、仕事も社会活動も多くの人が参加しやすくなると確信している。

生活にメリハリ 前向きな意欲を持てた

児島加代子:リモートワーキング共同実験従事者
知識と技術を身につければ就職があると期待し、ワープロなどを教えてくれる養成所で学んだが、リフトバスを乗り継いで通うことだけで疲れてしまった。障害者の就労問題は、この通勤も壁の一つ。プロップで在宅勤務プロジェクトに参加しているが、働くことは自分の自立とともに、面倒を見てくれる母親も自分の時間ができ、生活にメリハリができた。また、もっと勉強したいと意欲も出てきた。

アクセスビリティの情報提供に取り組む

坂上正司:プロップ・ステ−ション ネットワーク担当役員
自分の家で持つアパートの管理を仕事にしている。私自身ボランティア活動として、車椅子のアクセスビリティを調査研究し、ネットワークによる情報提供を行っている。電子メディアの利用によって、いつでも簡単に情報更新ができるメリットがある。さらに移動などに関する様々な情報の提供ができるなど多様な機能をもたすことができ、そのメリットの多さをうまく活用していきたい。


Challenged Japan Forum
開催の呼びかけ
座長 須藤修 東京大学社会情報研究所助教授

 現在、インターネットの普及に見られるように、コンピュータ・ネットワークが急速に発展しています。それに伴い、多様で複雑な関係が、グローバルな規模で形成されつつあります。米国では、このような現象は「デジタル革命」と呼ばれています。
 この革命は、ビジネスのビッグ・サクセスを生み、新しい基幹産業を勃興させつつあります。「チャレンジド(Challenged:米国では障害をもつ人々をこう表現しています)」たちも、自ら働きたいという意志を実らせるための有力なツールとして、コンピュータ・ネットワークの進歩に期待しています。しかし、デジタル革命の恩恵は、社会的な弱者には十分に与えられてないのが、日本の現状です。
 働きたい欲求、それは自己実現の欲求でもあります。このチャレンジドの欲求を実現するために、NPO(非営利組織)である「プロップ・ステ−ション(代表:竹中ナミ)」は、様々な活動を行っています。そして、コンピュータ・ネットワークを活用して、チャレンジドの自立と社会参加、就労の促進を支援しています。
 彼らの『チャレンジドを納税者にできる日本』というキーワードと、チャレンジドが就労できる社会システムづくりというコンセプトは、次世代の福祉・経済・社会システムの創造に有用な示唆を与えてくれます。
 これまでは、障害があり、また高齢となった人々は、税金を財源とした社会福祉の対象となってきました。しかし、果たしていつまでこの予算が続くのでしょうか。この問題は、確実におとずれる未曾有の高齢化社会と相通じています。一方的な予算消化型の政策の限界が、目前に迫っています。意欲ある人々の自立と積極的な社会参加を促す政策が、いま必要なのではないでしょうか。次世代にむけた政策の創造へ取り組みを開始する時期です。
 しかし、一言で『納税者に』といっても、実は大変な作業が必要です。既存の社会システムに対し新たなシステムを構築するには、多くの創造的行為が求められます。そこで就労するチャレンジドの方をはじめ、研究者の方、官庁の方、産業界の方、そしてメディア関係者の方など、様々な立場の皆様にお集まりいただいて、個々人が意見を自由闊達に交換することで、新たな社会構造と政策的な展望づくりを目指すために「Challenged Japan Forum」を開催いたします。
「Challenged Japan Forum」の運営組織は、座長を私、須藤修(東京大学社会情報研究所助教授)が、副座長を清原慶子(ルーテル学院大学社会学・コミュニケーション教授)が務めさせていただきます。
 お忙しいとは存じますが、21世紀における新たな社会づくりを志向し、行動していくために、自由かつ奔放なご意見の交換を希望しております。



開催の主な内容


はじめて開催された「Challenged Japan Forum」の主な進行内容は以下の通り


● キーノート「なぜ、いまこのフォーラムを呼びかけたか」 
        須藤修・座長

● セッション1・チャレンジドからの発言
     「私たちには働く意志があり、実力を身につけている」

(1) 提言「チャレンジドを納税者に」
        竹中ナミ:プロップ・ステ−ション代表
(2) 提言「チャレンジドとコンテンツ制作」
        安岡広志:名古屋芸術大学講師
(3) 提言「チャレンジドへのメディアサポ−ト」
        手嶋雅夫:マクロメディア(株)代表取締役
(4) 提言「私たちが考えること」
        ・桜井龍一郎:プロップ・ステ−ション機関誌編集長
        ・児島加代子:リモートワーキング共同実験従事者
        ・坂上正司:プロップ・ステ−ション ネットワーク担当役員

● レクチャー「チャレンジドの就労と生産性及びその経済効果」
        茅原聖治:大阪府立大学大学院

● セッション2・企業からの発言
  チャレンジドの就労問題に先駆的に取り組む企業
   (関西電力、NTT、NEC、野村総研、松下電器、IBM)や
    関連する団体(東京コロニー、日本障害者雇用促進協会、日本財団)の出席者から意見発表

● ポイントナビゲート「官への招待」
        高野孟:インサイダー編集長

● セッション3・政策マンからの発言「私は個人の立場としてこう考える」
  この問題に関心を寄せる官庁マンが個人の立場からアプローチする意見発表
   (通産省、郵政省、総務庁、経済企画庁、労働省、厚生省、大蔵省、建設省、
    自治省、文部省、前国土庁)

● オールラウンド・トーク「私はこう考える『社会への提案と行動』」
        中野秀男:プロップ・ステ−ション顧問/大阪市立大学教授
        市川あきら:千葉大学工学部教授
        土屋俊:千葉大学文学部教授



「チャレンジドとコンテンツ制作」について9月に大阪で開催される全国ボランティアフェスティバルのホームページ制作をもとに「ビジュアル手法の確立」を訴える氏自身も障害をもつ安岡広志:名古屋芸術大学講師


「クリエイティビティはボーダレスの世界」、あわせてインターネットの「インダストリー不要、ギャランティ不要」に着眼したニュービジネスの創出を訴える手嶋雅夫:マクロメディア(株)代表取締役社長

newmedia11-10.gif (14165 バイト) まず問題の所在を社会全体が認識することが大事だ。
急速に変化するデジタル技術は社会の中でこれまで位置を占められなかった人々に場を提供し、社会構造の転換を推し進めるパワーを持つものと考えている。例えばインターネットでいえば、これまで受信者であった市民が情報の発信者となるメディアであり、自立と共生の民主主義を生み出していくことにつながる。これはチャレンジドの就労・自立の問題と共通のもので、市民を中心にした社会づくりであろう・高野孟:インサイダー編集長


 プロップ・ステ−ション顧問として活動に協力する3名の研究者が発言した。
「社会の変わり目であり、社会制度と技術の可能性とのズレをどう認識していくかが大事」と指摘する土屋俊:千葉大学文学部教授(写真右)。
「聴覚や視覚障害者の参加した議論が必要で、チャレンジドが電子メディアに対して発言していくことが重要」と市川あきら:千葉大学工学部教授(写真左)。
「インターネットのキャリア(接続)問題についてNPOとしてどう考えていくかが課題」と中野秀男:大阪市立大学工学部教授(写真中)。


清原慶子:副座長 
ルーテル学院大学文学部教授

互いの顔が見える規模で議論を始めようというネライをもって開催した。プロップの活動を素材に、自立と共生そして参加のビジョンをつかめる社会づくりを考えたい。そのためにもっと多くの人にこの問題を知ってもらい、無目的な議論でなく、具体的な行動プランづくりをフォーラムの活動として目指していきたい。


「障害者は保護すべき」論からの脱却


 まずチャレンジド自身が、自らの内にある働く意志と決意を述べたことについて、「自立への苦闘を直接聞き、その強い願いに圧倒された」とまとめた高野孟インサイダー編集長の意見は当日の参加者の共通した実感ではなかったか。
 さらに、社会全体がチャレンジドに対して持っている認識の問題が指摘された。「障害者が働き納税者になるという考え方はまだまだ少数で、親自身も保護してもらいたいという考えが多い」(文部省調査官)というように保護の発想が根強い。今後4人に1人が高齢者という時代にむけて「誰もが要保護、要援助を必要とする時代に入っていくわけで、これまでの障害者などの福祉政策の基本的な考え方では不十分」(総務庁参事官)と転換の必要性を訴える。
 こうしたなかで、非常な早さで進歩するマルティメディア技術は「社会のコミュニケーション」を変えるものとして期待が高い」(総務庁参事官)。実際、在宅勤務の共同実験に従事する児島加代子さんが述べたように「通勤すること自体肉体的に苦しい」ために、コンピュータとネットワークを利用した在宅勤務の実現をチャレンジド自身が強く求めているものだ。


企業がチャレンジドに仕事を発注する時の率直な期待


 仕事を発注する企業から、「当社の創立記念イベントにプロップの協力をお願いした。既存の代理店とは異なるものを期待し、また『プロップ』という組織がもつ社会的なインパクトも考えた」と担当する関西電力課長はチャレンジドへの期待とともに社会的な効果もねらったことを率直に述べた。
 チャレンジドがデジタル・コンテンツ制作に取り組むことについて「違った視点、体験に根ざした表現のセンスが期待できる。今後の基幹産業となるコンテンツ・インダストリーの一翼をチャレンジドが担う」と通産省室長補佐が述べるように、産業構造の変化に参加チャンスを着眼する声も多い。また、プロップのパソコンセミナーを支援するNEC室長は「チャレンジドのためのパソコン教室をなんとか全国に展開したい。健常者と障害者の間には“鎖国”が続いており、その間には相当なビジネスチャンスがあるはず」とニュービジネスへの期待も募る。
 企業のチャレンジド雇用に対応して「ネットワークなどによるバーチャル・カンパニーを通した雇用に対する税制上や障害者雇用率に対する措置を考えてもらいたい」という強い要望が、関西電力室長と松下電器参事から述べられた。
 企業の人事担当者からは「人と仕事のベストなマッチングをさせることが人事の役割であるが、その限界もある。ともかく仕事に対する意欲が決めると考えて臨んでもらいたい」(ベネッセコーポレーション)と、チャレンジド自身の努力を受け止める姿勢が広がっていることも話された。


当事者だけでは十分な対応ができない


 プロップと在宅勤務の実験を進める野村総研の担当者は「インターネットによりチャレンジドと企業はスムーズにつながると思っていたが、その間には様々な問題があり、互いの善意だけでは解決しきれない。国などの公的な支援が必要だ」という。東京コロニー常務理事の勝又和夫氏も「当事者たちの努力だけでは限界があり、第三者の一定の配慮が不可欠だ」と公的な支援の必要性を結論づけた。
 こうした支援は様々な分野で必要としている。日本障害者雇用促進協会・障害者職業総合センター丹直利氏はチャレンジドを対象にパソコン講習会を開こうにも「パソコンの手配や電話回線の確保がむずかしい」と、メディア・リテラシーを身につける場を用意することすら依然として厳しい状況を指摘。障害者情報ネットワーク「ノーマネット」をスタートさせた厚生省専門官は「一元的に情報提供できる体制を整え、底辺からネットを広げていきたい。また退職者でパソコン技能をもつ人がボランティアとして協力する体制づくりを考えたい」と取り組みの開始を話す。


NPO法案に対する関心と期待は高い


 チャレンジドのコンピュータ利用を保障する環境設定の支援体制が非常に不備だという。「それぞれの障害やケースに合わせてチューンナップするフィッティング・コーディネーターが非常に立ち遅れている。日本では、こうしたフィッティング・エイドは10人ぐらいしかいないのではないか」と、あまりにも寂しい状況を訴えるのはIBM主任。
 この指摘は、NPO(非営利団体)組織についての法的な位置づけとも深く関連する問題である。「NPOは官でもなく、民でもない。どういった存在なのか明確でない」(阪神・淡路コミュニティ基金)ことから、NPOの基盤づくりの必要性は認識されている。この課題は現在、企業からの発注を受ける場合はもちろん、自治体などになると一層厳しい法的対応となってNPOを襲っている。
「公的課題に取り組む場合、官は平等主義があり、それだけでは片づかないことが増えている」と指摘しながら「官と並んでNPOをどう位置づけるか、これからの社会を形づくる上で重要なポイント」と指摘する通産省室長補佐。NPO法案づくりのために「とりあえず3つのレベルで考えてはどうか。まず、NPO法人格を与えるが税制上の優遇措置はないというゆるやかなレベル。次に公共性の高いものとして法人税の税率を変えるレベル。第3のレベルとして、税制上の優遇対象とするもので、公共性の認定を必要とするもの」と私案を述べた。
「NPO法案の行方に非常な関心を寄せている」というのは竹中プロップ代表であり、全国のボランティア組織も同じ思いである。


次回を大阪で開催予定


 今回の議論を通して、チャレンジドの問題をわが身のものとして捉える視点として「高齢化社会」が指摘された。「全体的にみると、チャレンジドの問題は少数者としてではなく多数者となる問題であり、世の中の原理的な考え方が問われていること」(前国土庁審議官)であり、「個人の心意気では解決できない問題」(阪神・淡路コミュニティ基金)であることは強調されてしかるべきであろう。
 今後、情報化社会の進展にともなう新たな社会像をどう求めていくか。「情報をこれからの社会を構成する基本的人権の一つとしてとらえ、チャレンジドや高齢者にその保障をしていくことが必要。競争型の情報化社会から共生型を目指していくべき、という研究会の報告があった」と郵政省課長。
「プロップのような活動をもっと全国に広げたい。マニュアル化して伝えることができないだろうか」と述べた大蔵省企画官の意見はNPOに対する率直な期待として考えたい。
「チャレンジドを納税者に」というスローガンは、社会が取り組むべき課題を際立たせてきた。今後どう取り組みをはじめるか、第2回目を11上旬に大阪で開催する予定。


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